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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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トリップ 16

「真桜さん! 慎重にっ!」


 先を行く真桜に、勇之進が叫ぶ。真桜は様子を窺う言などせずに、一目散に突き進む。


「真桜さんは感じてるのかもしれません!」


 直ぐ後ろの士郎は、真桜の行動を分析した。感じてるとしれば、それは紛れも無く”危機”だと、勇之進にも想像出来る。寺の門で槍を持ち、警護している男達を至近に捉えた勇之進も男体の表情で確信した。


「止まれ! 何者だ!」


 槍を構え、叫ぶ男達は明らかに前から警戒している様にも感じた。だが、そこに薙刀を振りかざした真桜が突進する。勇之進が叫ぶ前に真桜は一人を袈裟切りで倒し、薙刀を電光石火で返すと、石突きをもう一人の男の腹部に叩き込んだ。


 一瞬で二人を倒した真桜は、気絶している男に(活)を入れる。そして、直ぐに顔を近付け尋問した。


「外国の女性が此処にいますね?」


「知るかっ!」


 男が叫んだ瞬間、真桜は真顔で薙刀の柄で男の向う脛を軽く叩いた。向う脛は皮膚のすぐ下、骨(脛骨)のすぐ上を神経が通っている為、非常に痛みの強い急所であり、俗に言う”弁慶の泣き所”だった。


 あまりの激痛に、男は悲鳴を上げながら辺りを転げ回る。あまりの痛がり様に士郎は同情をするが、真桜は尋問の手を緩めない。普段の真桜からは想像も出来ない強引さの陰には、ビアンカを心から案じる姿が透けて見えた。


「言って下さい。そうしないと、次はもっと強く打たなければなりません」


 薙刀を振り上げた真桜の口調は強かったが、微かに震える手に勇之進は察した。本当は真桜自身が辛いのだと……人に痛みを与え尋問する事が。それ程、ビアンカは窮地に立たされているのかと、勇之進は真桜の前に出た。


「真桜さん、手緩い。言いたくなる様にしないと」


 勇之進は鞘ごと刀を振り上げ、また脛を打つ構えをした。男に力一杯叩かれたのでは堪らない、さっき軽く叩かれただけで、あの激痛。男は吐き捨てる様に言った。


「本堂だ、お頭に会っている」


「そうか」


 短く返事した後、勇之進は鞘の小尻で男の鳩尾を突いて失神させた。


「行きましょう」


 振り返った勇之進が、真桜に真剣な顔を向ける。士郎は呆気に取られるが、真桜には十分に勇之進の気持ちが伝わった。


_______________________



 狼が加わり、少人数だが加勢も現れた。半次郎はビアンカの素性に、今更ながら疑問を抱いた。日本語は堪能と言う域を遥かに超え、達人と呼ばれる剣豪にすら匹敵する腕前。


 しかも現れた狼は明らかに銃を危険と認識し、その狼と会話さえしている様にも見えた。


「何者だ? お前……」


 半次郎は目力を込めて、ビアンカを睨んだ。


「私は、ただの近衛騎士だ」


 睨み返すビアンカは、自分の言葉にデジャブを覚える。それは、とても懐かしくて暖かだった。


「さて、睨み合いもいいが……行くぞっ!」


 ロウは現状を打破する為に近くの男に飛び掛かり、刀を振り回し悲鳴を上げる男に馬乗りなった。そのまま牙を剥き、喉笛を食い千切ろうとした瞬間! ビアンカの叫びが広間に響き渡った。


「駄目っ!!」


 瞬時にロウの牙が止まる、下になった男は恐怖の絶頂で気絶した。


「殺してはだめ……」


 静かに呟いたビアンカは背中に届く長い髪を、ポケットから取り出した紐でポニーテールに結んだ。それは決意の表し……十四郎の様になる為の。その様子を見たロウは、背筋に一瞬の震えが走った。


「殺すなだとぉ……」


 ロウの言葉は半次郎には分からないが、ビアンカの言った言葉は当然分かる。自分の全てを否定するビアンカに対し怒りと憎しみが混ざる。唸る言葉は大きく震え、構えた刀の先まで振動した。


「いいか、てめぇら。生かして返すなよ」


 半次郎が狂気の眼で手下を睨むと、隣に立つ男の背中を蹴飛ばした。蹴られた男はビアンカ目掛け、滅茶苦茶に刀を振り回し襲い掛かる。スェー、バック、サイドキック、ビアンカは全身を使い太刀筋を避けながら、反撃のチャンスを待つ。


 男の大降りになった刀がビアンカを霞め、勢い余って前のめりになる。その瞬間を逃さず、素早く態勢を入れ替えたビアンカは、男の後頭部に強烈な回し蹴りをお見舞いした。男はその勢いのまま、庇い手も出せずに壁に激突した。


「相手は素手だぜ。見てるなよ、お前らも行けよ」


 声を押し殺す半次郎のプレッシャーに、男達が一斉に飛び掛かる。だが、横一閃に走って来たロウに足元をすくわれ、一斉に転倒する。そして、起き上がる男達に次々と体当たりしたロウは簡単に気絶させた。


 だが、奥から次々に出てくる手下の数に体制を立て直すべく、ロウは一度距離を取りビアンカの足元に来た。


「難しいもんだな……殺さないのは」


 愚痴の様だが、ロウの声は嬉しそうにも聞こえた。


「そうね、本当に難しい……」


 今更ながら、十四郎の凄さが分かるビアンカだった。そして、この戦い方には圧倒的に不利な要素があった。数の差が著しい場合は、一人で何人も相手にする場合の力加減が物凄く困難なのだ。


 力を加減し、致命傷を与えず気絶させる。口で言うのは簡単だが、敵が多い場合は考えてる余裕はない。次々に襲い掛かってくる敵を、瞬時に判断し効果的な打撃で倒す為には、高度な技術と体力、瞬発力や決断力など全て兼ね備える事で初めて出来得る戦い方なのだった。


「後はどうする?」


 ロウは唸りを上げ威嚇する事で、ビアンカに考える時間を与えた。


「一度は無理、少しづつ戦力を削ぐ」


「それしかないな」


 ビアンカの作戦をロウは支持する。長引かせるの得策ではないが、全て兼ね備えた様に見えるビアンカに不足しているものは体力であり、一度に体力を使えば直ぐに限界が訪れる事をロウは見抜いていた。


「見張りも全部集めろっ!」


 声を張り上げる半次郎は、作戦を変える。狼とビアンカを引き離し、先に狼を倒す。手下など消耗品であり、代えは幾らでもいる。とにかく数押しで狼を倒せば、後は強いと言っても残るは女一人……天秤に掛けるまでもなかった。


 ビアンカ達は、作戦を実行に移す前に先手を取られる形になった。一時は圧倒的な実力の差で拮抗した戦力だったが、物量の前では実力の差などアドバンテージには成り得なかった。直ぐに倒した敵の数を上回る数で、完全に包囲された。


「先手を取られた。血路を開く、その隙に逃げろ」


 ロウは威嚇を続けながら、背中で言った。


「あなたは逃げて。私には約束がある」


 ビアンカの言葉に迷いは無い。これだけの敵を目の前にしても動じないビアンカに、ロウは溜息を漏らす。


「全く……そこまで似なくてもいいのに」


「えっ?」


 ビアンカが首を捻った瞬間、ロウは飛び出し敵を薙ぎ倒しながら、半次郎の座っていた座に飛び込んだ。そこにはビアンカの剣があり、咥えると踵を返し、あっと言う間に舞い戻った。


「いかに腕が立っても、手ぶらじゃ限界がある」


 手渡したロウは、ビアンカを見ないで呟いた。


「ありがと……」


 剣を腰に差しながら、ビアンカは唖然とした声で礼を言った。そして、剣を抜くとロウの前に出た。


「さあ、始めるよ」


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