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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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背徳と矛盾

 十四郎の日課は、枯れかけた井戸の為に街の近くまでの水汲みと、噂を聞き動物を連れてやって来る人達への通訳だった。穏やかに流れる日々だったが、夕方やって来たポムソンと言う中年の男は少し事情が違っていた。


「魔法使い様……私は街で肉屋をやっています……誠に申し上げにくいのですが……最近、お客が減っています……それは、その……動物にも感情があって……言葉が通じて……」


 ポムソンは顔を赤らめ、冷や汗を流し、言葉が途切れる。


「……そうですか……お辛いですね」


 言葉が見つからない、人は生きる為にたの命を奪わなければならない。魚や野菜、穀物が主食の文化でも広義では同じだが、肉食文化ではその意味が大きく違う。


 ポムソンの表情は、確かに自分の利益の事もだが、言葉の通じる相手を食料とする……そんな矛盾にも似た罪悪感と向き合っているみたいだった。


「最近、人の中で肉は食べないって奴が増えてるんだってさ」


 窓際で、アミラが他人事みたいに欠伸しながら言う。


「……」


 言葉が出ないまま俯く十四郎の前に、ピョンとアミラが来て顔を覗き込む。


「どうした? アンタらしくない」


「……私には、分かりません……」


 それ以上何も言えなくて、また俯く十四郎に大きな溜息と一緒にアミラは言った。


「よく分かんないな、人間は。この間まで平気で食べてたのにさ。狼や熊、キツネや鷲だって他の動物を食べたりするけど、悩んだりしないぜ。俺だってネズミを食べる。勿論、ネズミの言葉は分かるよ……全ての動物は同じだと思うけどな」


「そうですが……」


「他の動物にも感情や意思はある……それを忘れなきゃいいんだよ。まぁ、俺達動物は気にしないがね」


 言葉を無くす十四郎に、面倒そうなアミラが耳を掻きながら言った。アミラの言葉は十四郎に伝わるが、何故か釈然としない靄の様なものに十四郎は包まれた。


「あの、アミラは何と?」


 横で聞いていたケイトが十四郎の様子を心配して聞いた、メグも不安そうな顔で十四郎を見ていた。十四郎はアミラの言葉を教えた、ケイトもポムソンも少し俯く。


「……でも、食事の前にはお祈りするよ」


小さな声で、メグが呟く。ケイトの中で何かが行き先を示す……立ち止まっても何も変わらない。


「そうね、そうよね……私、明日教会に行きます。ポムソンさんも御一緒に……皆で考えましょう……アミラは言いました、全ての生き物は同じなんです。人は生きる糧として他の生命を食べます……それならば、神様だけじゃなく、全ての生命達にも感謝しましょう……その気持ちが大事だと思います……人として」


「そうですね、そうしましょう。魔法使い様、本当にありがとうございました」


 顔を上げたポムソンは大きく頷くと、何かに目覚めた様な顔で十四郎に礼を言った。


「私は何も……」


 何かをした覚えなど皆無、十四郎は対応に困った。


「いいえ、十四郎さんがアミラの言葉を教えてくれました。一方通行の会話なんて、永遠に解決なんて出来ません。意思の疎通こそが、対話こそが唯一未来への道なのです」


 嬉しそうなケイトの笑顔は更に十四郎を困惑させ、頭を掻くしかなかった。


「まったく……人は面倒な生き物だな」


 アミラはまた欠伸しながら言ったが、十四郎はその面倒な所がいいとケイトやメグ、ポムソンの笑顔に、ボンやりと思った。


__________________________________



 今日で七日目……刺繍はとうに完成した。確かに手は傷だらけ、肩はゴワゴワ、寝不足も手伝い体長は最悪だが、胸のドキドキはずっと続いていた。


「どうしたビアンカ? 訓練は元に戻ったみたいだが、やはり様子が変だ」


リズが訓練場からの帰り、声を掛けた。


「あなたから声を掛けるなんて、その方が変よ」


 言い返すビアンカだが、その声には前の様な刺は無い。ビアンカが少し笑った様に見えたリズは、ザインの態度を思い出す。ピンときた……もしかして、と。モノは試しと、背中を向け去ろうとするビアンカに言った。


「あっ、魔法使い殿!」


「何っ!」


 驚いたビアンカが振り返るが、その拍子に柱に激突した。


「何だ……心配して損した」


 呆れたリズが、溜息を洩らす。確かに魔法に掛けられてはいるが、その魔法は”良い”魔法なんだなと、慌てて周囲を探すビアンカを見てリズは苦笑いした。


そして、今までのビアンカは本当のビアンカとは違う、無理して自分を偽り、背伸びした足を何時も震わせていたんだと思った。


「誰かの事、心配してるの?」


 ブツけた頭を摩りなが、ビアンカが聞く。


「いいえ、こっちの話し」


 何故が微笑むリズの笑顔は、ビアンカにとって不思議な感覚だった。まだ、子供だった頃に感じた……あの、嬉しい様な楽しい様な感覚。言葉使いでさえ、何時の間にか友達みたいになっていり事に違和感は感じない。


「それより、何処っ! 何処なのよっ!」


 泣きそうな顔のビアンカに、改めてリズは溜息を付いた。


「ほんと、分かり易いやつ……」


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