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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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トリップ 4

「どうしたんですか急に?」


 ビアンカの腕を取った小夜は、泣きそうな顔だった。本来なら見過ごしたであろう、小競り合いの中に、ビアンカは確かに聞いたのだった”鬼斬り”と言う言葉を。


「確かめたい事があって」


 真剣なビアンカの表情に、勘のいい小夜は気付いた。


「駄目です、あの人達は危険です」


「危険?」


 ビカンカには、危険と言う言葉が更に気になった。


「会津の人達なんです。先の戦いでは旧幕府軍として戦い、大勢の死傷者を出しました。戦後は藩士の大半が北の荒地に移住させられました。その他にも多くの迫害を受け……」


 分からない言葉もあったが、ビアンカは敏感に反応した”会津”と、言う言葉に。


「小夜は先に帰って下さい」


 小夜の言葉を途中で制し、遠目に聞こえた”場所を変える”という言葉を残し、走り去る男達を追ってビアンカも走り出した。


「あの方角は、峠の方……」


 勇之進は峠近くの国定の所へ行っている、直ぐに判断した小夜はビアンカを追わず国定の家に向かって走り出す、胸の中の不安を掻き消しながら。


______________________



「お久しぶりです」


 国定の家は、山中の一軒家だった。出迎えた国定は老人にしては肌艶がよく、鋭い眼光で勇之進を見た。


「何の用だ?」


 不愛想に呟く国定に、勇之進は単刀直入に話し始めた。


「刀を一振り打って頂きたい」


「知ってるか? 散髪脱刀令」


 国定は横目で勇之進を見る。


「知ってますけど」


「要するに髪も刀も勝手にしろって事だ……刀なんて、もう必要は無いのさ」


 吐き捨てる様な国定に、改めて勇之進は頭を下げる。


「そこを曲げてお願いしたい」


「こんなご時勢だ。刀など新しく作らなくても、余ったのが沢山あるだろ」


「作って頂きたいのは、女性用の刀です」


 頭を下げたまま、勇之進は言った。


「女用だと?」


 驚いた顔で、国定は聞き返す。


「はい。異国の女騎士の為に……彼女は、あの人と同じ戦い方を目指しています。しかし、洋剣は諸刃なのです」


 国定の顔色が変わる、少し考え口を開いた。


「あいつは姿を消した……その異国の女と関係があるのか?」


「分かりません。ですが、彼女は確かにあの人と同じ匂いがするのです」


 勇之進の中では”あの人”と、ビアンカは確かに重なっていた。真剣な顔の勇之進を、斜め下から見た国定は低い声で一言だけ聞いた。


「腕は?」


「昨日、手合せしましたが完敗でした」


「ほう、お前が負けたと?」


「はい。まるで、あの人と戦っている感じがしました」


 大きく溜息を付いた国定が何か言おうとした時、小夜が飛び込んで来た。


「兄上! ビアンカさんが!」


 小夜の表情に、瞬間に察した勇之進が走り出そうとするが、国定は大声を上げ一振りの刀を投げた。


「待て!! 持って行け!」


 受け取った勇之進は小夜に叫ぶ。


「場所はっ!」


「おそらく峠!」


 聞くが早いか、勇之進は飛び出して行った。


「さて……」


 その背中を見送ると、ゆっくりと国定が立ち上がる。


「行くのですか?」


 唖然と聞く小夜に、国定は微笑んだ。


「異国の女騎士、どれ程の腕やら……」


_______________________



 峠では男達が対峙していた。どう見ても子供の様な一人を、五人が取り囲んでいた。ビアンカは、近くの林に身を隠すと様子を窺った。


「士郎、詫びを入れるなら切腹を認めてやる」


 リーダー格の凶悪そうな男が、士郎と呼ばれた少年に凄んだ。


「私は間違った事は言っていない」


 刀に手を掛け、士郎は強い口調で言い返す。横の男は刀を抜くと、士郎を睨み付けた。


「鬼斬りは会津の仇敵。それを庇護するとは……貴様、それでも会津武士か?」


「例え敵でも、私は彼に恩があります」


 士郎は負けずに言い返す。


「恩だと? 武士が戦に於いて、敵に見逃されるのが恩だと?」


 リーダー格の男が、顔を真っ赤にした。


「あの人は言ったのです……泣きながら、私に死ぬな、と……私も最初は侮辱だと、屈辱だと思いました……でも、あの人は本気で涙を流したのです……私の為に」


 周囲の男達の剣幕など平気でやり過ごし、士郎は堂々と自分の考えを述べた。しかし、取り囲む男達は我慢の限界か、相手が子供でも一斉に斬りかかった。


 士郎も刀を抜いて応戦の構えを取るが、四方からの攻撃は一瞬で終わりを自覚させ、ゆっくりと刀を下ろした。迫り来る切先、しかし、士郎は刀は下ろしても目は閉じない。最後の瞬間まで、自分の道を信じている証だった。


 正面からの男が一番近い、士郎は覚悟を決め男を睨み付けた。しかし、その瞬間煌めく金色の髪が士郎の前を横切った。


 ビアンカは飛び出すと士郎の後ろの男に跳び蹴りし、素早く士郎の前に出た。正面の男が目を見開くが、振り下ろした刀は止まらない。だが、瞬時の抜剣で受け流し、男が前のめりになった後頭部に、柄の一撃を喰らわせた。


 男はそのまま前向きに倒れ、周囲から切り掛かる男達は、一旦引いた。


「何者だ!?」


「たった一人に大勢なんて、卑怯じゃない?」


 片手で剣を下げ気味に構えたビアンカは、不敵に笑った。男達は、突然のビアンカの乱入に困惑するが、リーダー格の男の剣幕は衰えない。


「邪魔立てするなら、斬る!」


「待て、異国の女だ!」


 一人の男が止めるが、リーダー格の男は更に怒りが増した様に声を押し殺す。


「人気はない。始末したとて、誰にも気付かれまい」


「あなたは、いったい……」


 士郎は声を詰まらせ、ビアンカの背中に声を掛ける。ビアンカは正面を向いたまま、はっきりとした口調で言い、ゆっくりと振り向いた。


「ギヲミテ セザルハ ユウナキナリ……」


 振り向いたビアンカの碧く澄んだ瞳は、まだ元服したての士郎には刺激が強すぎた。今の状況など何処かに跳んで行き、ただ胸の高鳴りを抑えるのに必死だった。


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