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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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魔法使いと蝶

 暗い部屋、小さな蝋燭の前で大司教エオハネス・ド・シセリウスが苦々しい声で話す。熊の様な大きな身体、司教の祭服が八切れそうに見える。


「報告は真か?」


「はっ、この目でしかと……」


 遊撃騎士団のジスカーム・デル・デキスは、長い銀髪を撫で上げ、威厳のある口髭と重く響く声が特徴だった。漆黒の甲冑は艶消しの様に光を吸収し、その心や思考を他者かに隠蔽している様にも見受けられる。


「タイミングが良すぎる」


「確かに腕は立ち、動物とも会話出来る様ですが、どう見てもただの異国人です」


 十四郎の容姿にジスカームは疑問を抱く。


「伝説では容姿には触れておらんが……とにかく国王陛下へは内密に、王宮内では緘口令は徹底せよ……」


「街では噂が広まっております」


「民の口には塀は立てられん、逐次様子を報告せよ」


「魔法使いの処遇は如何します?」


「魔法使い、か……当分は目を離すな」


「御意」


 ジスカームが下がると、エオハネス窓に近付き星空を見上げる。星は普段通りに夜空に輝くが、その輝きは以前とは違うのではないかと、小さな不安が胸を過った。


_________________________



 屋敷へと帰る街並みが、何時もと違う気がした。違う意味での胸の鼓動は続いている、シルフィーの背中に、そっと手を置きビアンカは心からの言葉を掛けた。


「ありがとう、シルフィー……大好きだよ」


 シルフィーが、ブルっと鼻を鳴らすと”私も大好きだよ”って、聞こえた気がした。ふいにショーウインドに輝く青のマントが目に飛び込む。手綱を引く前に、シルフィーは急停車する。


「考えは同じだね」


 そっとシルフィーの頬を撫ぜたビアンカは、何の迷いも無く店に入った。


 屋敷に戻ると母親のヘンリエッタの元に急ぐ。


「お母様……あの、刺繍を教えて頂きたいんですけど」


「刺繍ですか?」


 声は少し驚いているが、笑顔はビアンカを優しく包む。


「このマントにするんですね……これは、殿方用ですね?」


「……はい」


 俯くビアンカは、手の先まで赤くなる。


「それでは、図案はどうしますか?」


 訳は聞かない優しさ、ヘンリエッタはビアンカの全てを包み込む。


「蝶……揚羽蝶に、します」


「そうですか。エミリー、図案帳を持ってきて」


 メイドに図案帳を頼み、ヘンリエッタは優しくビアンカ見詰めた。


 母とゆっくり話すのは何時以来だろう、こんなに傍にいるのは何時以来だろう。ヘンリエッタの横顔に、ビアンカは思い続ける。小さなテーブル越しに、懐かしい思い出が脳裏を駆け巡った。


 しかし、図案帳には望む図柄は無かった。当然と言えば当然、十四郎は異国の人であり文化も芸術も違う。少し焦り、不安な気持ちは顔に出る。


「そうね、エミリー来て。彼女はとても絵が上手いのよ」


 また、エミリーを呼ぶヘンリエッタ。エミリーは最近来た若いメイドで、歳もビアンカとは変わらなかったが、あまり話した事はなかった。


「私は……」


 明らかに緊張しているエミリーに、ビアンカが優しく声を掛ける。


「私が見たのは、こんな形……これをもう少し変えて……何枚か描いてみて、エミリー」


「はい、お嬢様」


 ビアンカが思い出しながら描いた図案を、エミリーが何枚か描いてみる。その内の一枚に似た感じの図案があった。


「これに近いわ。ここをもう少し延ばして、そう。イメージは揚羽蝶、そうね、いい感じ」


 ビアンカの指示でエミリーは筆を走らせ、二人は楽しそうに意見を言い合い、作業を進めて行く。ヘンリエッタはその様子を笑顔で見詰め、そっとテーブルの端の古い本を棚に仕舞う。


 その本の表紙には後ろ姿の魔法使いが描かれ、青いマントをまとい、腰には剣、そして肩には一頭の蝶の姿があった。


 やがて、十四郎の家紋と同じ図案がテーブルの上に出来上がった。


「ありがとうエミリー」


 嬉しさのあまり、エミリーに抱き付くビアンカ。一番驚いたのはエミリーで、奉公にきて一月、近衛騎士団最強と言われ、屋敷内でも威厳と風格を漂わせていたビアンカの初めての一面に、言葉なんて出なかった。


 でも横を向くとヘンリエッタが優しく微笑み、その笑顔が全てを物語っていた。


 

マントの青は天の真実を意味する、裏地の赤は神の慈愛を意味する、紋章の白は正義と純潔を意味した……そして蝶の意味するものは……不死と不滅。



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