表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
61/347

破邪顕正

「どうしました? 皆の所に戻らないのですか?」


 一向に馬小屋を離れない十四郎に、アルフィンが優しく声を掛けた。


「何時ローボ殿に連絡があるか分かりませんので」


 微笑み返す十四郎に、ローボは穏やかに声を掛ける。


「少し寝ておけ」


「眠れそうにありません」


 十四郎の正直な言葉にローボも自然と笑顔になるが、一呼吸置いてゆっくりと話し出した。


「お前は多くの命を助けた……何故、悩む? まだ終わった訳じゃない」


「……はい」


 小さく頷く十四郎に、溜息を漏らしながらローボは続けた。


「……お前は自分を殺そうとする敵の事まで考える、敵にも家族や大切な人がいる、と……だがな、そんなのは当たり前の事だ……多くの者は、それを忘れて戦うが、お前にはそれが出来ない」


「えっ……」


 ローボの言葉は自分の弱さの根底を突き、十四郎は戸惑う。


「それが十四郎に良い所なの……誰にでも優しくて、暖かくて……」


 俯く十四郎の様子に、アルフィンは居た堪れなくなって口を挟む。


「優しさは悪い事なの?」


 自問の様にシルフィーは呟いた。


「悪いはずなどない。私も、そうありたいと思う」


 以外? な、ローボの言葉にアルフィンも呼応する。


「私も、なりたい」


「私だって……」


 シルフィーも小さく頷いた。


「誰もが望む優しさを、お前は持っている。だから、顔を上げろ、胸を張れ。そして、目的を果たせ」


「私はどうすれば?……」


 十四郎はローボを見詰めた。


「何も変える必要は無い。ただ、迷う暇があれば前に進め」


 ローボの言葉の意味が、なんとなく分かった十四郎だった。自分中の中で、何かが前向きに動き出すのを感じて、自然に笑みが出た。


「それに、ほら心配そうに見てるぞ」


 ローボの言葉に振り向くと、馬小屋の入り口で、リルが心配そうな顔で中を覗いていた。


「リル殿……」


「十四郎……大丈夫、か?」


 消えそうな声で、リルが聞いた。十四郎が答える前に、リルを押しのけノインツェーンが駆け込んで来る。


「リズ殿が戻られました!」


「分かりました」


 十四郎が立ち上がり小屋を出て行くと、ノインツェーンがリルに顔を近付けた。


「さっき、十四郎様を呼び捨てにしたな?」


「そう呼べと言われた」


 リルも負けじと顔を近付ける。一触即発、しかし、ツヴァイとココが二人を分けた。ココとツヴァイはお互いに挨拶を済ませ、歳も近い二人は意気投合し、十四郎と共に戦う事を誓い合っていた。


 四人が揉めていた時、今度はゼクスが呆れた様にやって来る。


「何をしてる? 十四郎様の新しい剣を見たくないのか?」


 四人は慌てて広間に向かった。見送るアルフィンは、嬉しそうにシルフィーに寄り添った。


「あの人達、十四郎と一緒に戦ってくれるのね」


「そうね、私達も負けられないね」


 嬉しそうなアルフィンに、シルフィーも微笑み返す。


「不思議な男だ……何時の間にか、仲間が集まる」


 床に伏せたまま、ローボは呟いた。


_____________________________



「十四郎様、この剣をお使い下さい」


 片膝を付いたリズは、十四郎に刀を差し出した。


「これは……」


 受け取った十四郎に、不思議な感覚が宿った。直ぐに目釘を抜き、中子を確かめた。


「そこに彫られているのは文字ですか?」


 覗き込んだツヴァイが聞いた。


「はい。”破邪顕正”と彫られています」


「はじゃけんしょう?」


 ポカンとココが呟いた。


「誤りを打ち破り、正しき道を示す事……」


 そこにいた全員のココロの何処かに、十四郎の言葉がそっと触れた。そして、言葉を発した十四郎の胸の奥底に静かに鎮座した。


「正に、十四郎様に相応しい剣」


 ゼクスが頭を深く下げた。ココやツヴァイも感心した様に頷くが、リルは違う方向を見ていた。ノインツェーンも腕組みしたまま、興味なさそうに腕組みしていた。


「十四郎様、その剣の持ち主から良くない噂も聞いています。その剣は……」


 顔を伏せたままリズは声を震わせ、語尾を失った。


「大丈夫ですよ。リズ殿が苦心して手に入れて下さったこの刀、大切に使わせて頂きます」


「しかし、万が一十四郎様の身に……」


 更にリズが俯く。


「リズ殿、その良くない噂とは?」


 ツヴァイが少し不安そうに聞いた。


「この剣は使う者を虜にするそうです……その超絶な切れ味は、どんな者のココロをも掴んで離さない……やがて、狂気へと誘い……破滅、する……と」


 言葉を途切れさすリズは、十四郎の顔が見れなかった。


「そんな魔剣を十四郎様に?」


 ノインツェーンはリズの背中に疑問を投げるが、微かに震えるリズは答えられない。しかし、十四郎は刀の所以などまるで気にする様子もなく、リズに穏やかな声を掛けた。


「お顔を上げて下さい……刀は道具です。使う者次第なんです。私は、正しいと思う事以外には使いません。リズ殿の為にも」


「……」


 リズが顔を上げると、そこには十四郎の優しい笑顔があった。胸の痛み、心臓が一瞬活動を停止する。だが、リズはビアンカの笑顔を強引に思考に割り込ませ、大きく深呼吸をした。


 全身の空気を入れ替えた感覚、リズは自然と笑顔になった。それは大切なビアンカのおかげだと、確かに感じた。


 中子を柄に戻し、刀を腰に差した十四郎は皆に告げた。


「下がって下さい」


 皆が十四郎を取り囲む位置を取ると、十四郎はその真ん中で背筋を伸ばす。両手を下腹部に当てると一礼し、左手を鯉口に添え、ゆっくり右手で柄を握った。そのまま静かに左足を後方へ引くと一旦静止する。


 周囲が静寂に包まれる。超速抜刀、斜め上に斬り上げた刀身からは光の粒が弾ける。そのまま左手を添えると、振り向きながら斬り下ろす。風圧と空気を切り裂く音が周囲に衝撃波となり押し寄せた。


 十四郎は円舞の様に刀を振るう。その度に光の粒や衝撃波は周囲を駆け巡り、見ている者達を圧倒した。やがて十四郎が動きを止め、目にも留まらぬ速さで刀を仕舞うと、一瞬遅れて歓声が沸き上がった。


「勝てるはずなど無い……」


 唖然と呟くツヴァイに、ココが耳元で囁く。


「驚くのはまだ早い。十四郎様はまだ、本気を出してはいなんだ」


「まさか……」


 ゼクスも息を飲み茫然とした。


「十四郎様……」


 夢見る様に呟くノインツェーンに、鋭い視線を送ったリルは強く言った。


「やめておけ。お前には無理だ」


「何だとっ!」


 声を荒げるノインツェーンに、今度はリズが間に入る。


「そうよ、誰もビアンカには敵わないから」


 その声は穏やかで、悟った様な響きがあった。同じ女としての羨望や嫉妬、そして少しの後悔が入り乱れる胸の内は、ノインツェーンやリルにも痛い程に伝わった。


「早くビアンカ殿に会いたいものだ……」


 吐き捨てるノインツェーン、リルは遠くを見る様な瞳で空間を眺めていた。


「ローボ様が呼んでいる」


 そんな雰囲気を壊す様に、十四郎の足元に小さな猫が近付いて来た。


「直ぐに参ります」


 十四郎は急いで馬小屋に向かう。呼応してゼクスがアイコンタクトでツヴァイやココに告げ、三人は後を追った。


「私達も行きましょう」


 笑顔のリズは、険悪な雰囲気のノインツェーンとリルの背中を押した。仕方なく歩き出す二人の背中を見ながら、リズは再度心に誓った。


”今度こそ、必ずビアンカを助け出す”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ