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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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本心

「ぁ……」

 

 消えそうな声が漏れる、意識しなくても伸ばした腕が十四郎の後を追う。その時、背中に衝撃があった。それはシルフィーが背中を押したんだと、暖かい感触が教えてくれた。今度はちゃんと声が出た。


「待って、下さい」


 ゆっくりと振り向いた十四郎の目は、あの時と同じだった。


 少し愚図るメグを先に帰らせ、二人は街を見渡せる小高い丘に少し離れて座った。後ではシルフィーが、穏やかに草を啄んでいる。


 互いに言葉は無く時間だけがゆっくりと流れ、傾きかけた太陽が光の角度を変える頃、シルフィーがまたビアンカの背中を押した。


「あの……魔法使い殿は、何処から来られたのですか?」


「私は遥か遠くの小さな島国に居ました……信じて頂くのは難しいかもしれませんが、気を失い気付くと、ここに居ました……そして、多分、私は魔法使いではないと思います。確かに今は動物の言葉は分かりますが、住んでいた国ではその様な事はありませんでした……ゆえに、十四郎とお呼び下さい」


 落ち着いて穏やかな十四郎の声、さっきまでの錯乱や興奮がビアンカの中で思い出にも似た感覚となった。そして、十四郎の”気付くとここにいた”という話は、何故だかビアンカの胸をトキメかせた。


「……十四郎は……そこでは何をされてたんですか?」


 疑問は泉の様に湧く。しかし、ビアンカ横を向いたままで十四郎の方を見れない。大きく息を吐き、十四郎はまた穏やかに話し始める。


「私の家は武士の家系でした。武士とは、こちらで言う騎士と似ています。そこで私は家の家訓に従い、鍛錬の日々を送っていました」


「家訓ですか?」


「はい……”義を見てせざるは勇なきなり”……つまり、人として行うべき正義と知りながらそれをしないことは、勇気が無いのと同じこと……という事です……そしてある日、戦いが始まりました……国を治める君主に対し、平等な民の世を作る戦いです。私も義を信じ、民の為に戦いに加わりました……多くの血が流れ、やがて私達は勝利し、民の世が誕生しました」


「平等な民の世……」


 考えた事もなかった世界。ビアンカの脳裏にガリレウスの言葉が蘇る……”世が乱れる時……”と。


 十四郎も不思議な感覚に包まれていた。忘れたい過去、叫び出したくなる記憶を話しても、何故が落ち着いていられる。経験した事のない穏やかなココロの平穏に包まれた十四郎は、話しを続けた。


「しかし、新しい平等の世には武士の居場所はありませんでした……程無く父は自害、母も後を追いました……瀬戸際の母は、私に言い残しました……

”あなたは、追う必要はありません。自分の目で新しい世界を見なさい、そして居場所を見付けるのです”……と。しかし、新しい世もあまり変わりませんでした……君主に代わり役人が国を治め、抵抗勢力を排除する為に武士を無くしました……武士は農民になり、商人になり……ただの民となり、力を失いました」


 十四郎の言葉は悲観的ではあったが、声は違っていた。現実を客観的に受け止め、前に進もうとする気概が感じられた。ビアンカは自分に置き換えてみた、あらゆる呪縛から逃れ、自由にただの民として生きる……。

 

 男とは違う、女の生きる道。ほんの少しビアンカのココロに、光にも似た何かが差し込んだ。


「……戦いの無い、平和な世の中なのでしょうか?」


「そうですね、一応は……でも、初体験の平等な世は、何だか、こう、しっくりこなくて……そんな慣れないモノに目を背けようと……私は、立ち止まってしまいました。そんな時、この国へ来て……何かが変わった気がします……その何かは、漠然として自分でも分からないんですけど」


 本心が正直な思いが、ビアンカを浄化する。そして、本当の事を素直に言える十四郎を、羨ましく思う。更に、ココロの片隅では自分もそうありたいと思った。


「居場所……見つかりました、か?」


「そうですね……居場所は気負って探さなくても、落ち着いて見れば……ちゃんと、目の前にあると……気付きました」


 十四郎は、ぎこちない笑顔を向ける。その優しい瞳ににビアンカの胸はキュンとなった。慌てて話題を逸らしたいが、咄嗟には浮かばない。そんな時、迷う視線の先に十四郎の着物の胸のマークが目に止まる。


「あの、その模様は何ですか?」


「これですか? 我が家の家紋です」


「家紋? 家の紋章みたいなものですか?」


「そうですね……これは揚羽蝶です。蝶は、同種であっても羽化する時期で翔の形や斑紋まで違います。先祖はその変化する美しさを人にも当てはめ、肖れる様に家紋としました」


 自分の紋章、双頭竜は強さと威厳、そして威圧……騎士の紋章は多かれ少なかれ、同じ様に力を誇示するものが多い。武士とは不思議だと、改めて思ったビアンカだった。


「ありがとうございました。胸の内を全て吐き出させて頂き、重荷が取れました」


 急に十四郎が頭を下げた、驚いたビアンカは直ぐに向き直る。


「それはこちらも同じです、十四郎の話を聞けて凄く……嬉しかった」


 一瞬、最後の言葉を楽しいと言うか、嬉しいと言うかと悩む。しかし、ビアンカは迷わず嬉しいを選択した……自分の気持ちに、真っ直ぐ素直に。後ではシルフィーが喜びの雄叫びを上げた。


 別れ際、十四郎がビアンカに尋ねた。


「この国の外れ、聖域の森について詳しい方を御存じないですか?」


「それなら、私の祖父が」


「それでは、近いうちにお邪魔させて頂きたいのですが?」


「勿論です!」


 十四郎の言葉は再会を意味し、ビアンカのココロは大きく空に羽ばたいた。迷いや悩み、ココロの霧や悲しい思考を、遥か彼方に吹き飛ばした。



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