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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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揺れる幕間

 砦は大騒ぎになっていた。兵士達は祝宴を開き、それぞれに互いの健闘を大声で語りあっていた。しかし、十四郎を目にした人々は一瞬の沈黙の後に大歓声を上げた。


 口々に賞賛と賛美しながら、十四郎を取り囲む。付いて来たツヴァイ達も驚くが、一番驚いているのは十四郎で、訳も分からず恐縮していた。


「ご無事でしたか」


「ビアンカは?」


 直ぐに駆け寄って来たココの笑顔に安堵し、リルの言葉に気持ちが沈む十四郎だった。


「連れ去られました……ローボ殿が行方を捜しています」


「そうですか」


 俯くココだったが、リルは強い視線のまま黙っていた。ローボはアルフィンやシルフィーと一緒に馬小屋にいたが、あまりの騒がしさに閉口していた。


「十四郎、大丈夫かな……」


「そうね……どうせまた、自分のせいで多くの人が犠牲になったって……落ち込んでるよ」


 心配そうなアルフィンに、シルフィーは優しく寄り添った。


「十四郎のおかげで砦は守られたのにか?」


 不思議そうにローボが聞いた。


「結果より、原因を気にするから……十四郎」


 シルフィーは少し笑うが、アルフィンは心配顔で騒がしい砦の中を思った。


「十四郎……」


_____________________________



「聞いて下さい……聞いて下さいっ!」


 人々の輪の中で、十四郎は思わず声を上げる。それは、地面にまだ残る血痕が引き金となった。鷲掴みにされる心臓、小刻に体が震えた。


「私の為に、多くの人が犠牲になりました……本当にすみませんでした」


 深々と頭を下げる十四郎に、周囲は一応に驚き喚声は急停車した。一瞬で重い空気が辺りを包み、蝋燭だけが音も無く揺らぐ。その静寂を破ったのはラモスだった、ゆっくりと十四郎に近付き顔を覗き込んだ。


「どうされました?……」


「私のせいで……こんな事に……」


「よく分からないのですが……」


「七子殿は……私に復讐する為に……この砦を襲い……ビアンカ殿を囮にして、私を誘い出して……それで……」


 言葉を途切れさす十四郎に、ラモスは悟った。ふう、と大きく息を吐くと穏やかに話し出した。


「この場所は古来からの激戦の場所でした。ここ、数年でも五回、イタストロアからの侵攻がありました。柵だけの簡素な国境で、敵味方の激戦は多くの犠牲者を出しました……二年前、大賢者ガリレウス様がこの砦を造られて以来、イタストロアは、侵攻の手を止めていました」


「しかし、今回は私の為に……」


 十四郎は更に俯いた。


「違いますよ」


「……?」


 ラモスは即答し、十四郎は驚いた顔を向けた。


「遅かれ早かれ、侵攻はありました。イタストロアは軍備を強化し、侵攻を準備していました。今回は、アルマンニの魔法使いに無理やり背中を押されたのです」


「……その原因は私に……」


 十四郎は、また言葉を途切れさせた。


「私の父も、そして兄も、この場所で戦死しました。この国を守る、この砦で戦えた事を誇りに思います。何より魔法使い様と、ご一緒に戦えた事を生涯の宝と致します」


 まだ幼さの残る青年が、十四郎の前で跪いた。


「私は息子を三人の息子を失いました……息子は国の為に逝ったと信じています」


 初老の男も傍に来た。


「僕はこの戦いが初めての実戦でした……怖かったです……でも、魔法使い様のおかげで生き残る事が出来ました。この者達も同じ田舎から来た、幼馴染です。皆、魔法使い様に感謝しています」


 数人の青年が十四郎の前に同じ様に跪く、次第に多くの人が十四郎の周りに輪を作った。戸惑いを隠せない十四郎は、窓辺の黒い猫を見付けた。直ぐにアミラの言葉が心に浮かぶ。


 ”この先、何度も同じ事が繰り返される……その時は、また悩めばいい……そしたらまた……”


 ふと心が軽くなる、矢継ぎ早にメグやケイトの笑顔が浮かぶ。顔を上げた十四郎は、取り巻く人々の瞳が、輝いているのを改めて知った。


「戦いはこの世界では避けられない現実です。今も、この国のどこかで戦いは起こっています。例え戦いを拒否しても、敵は許してはくれません。戦わない者は国や財産、大切な家族や友人を失うだけなのです……」


 ラモスは言葉を紡ぐ。それは個人では、どうにもならない宿命、それとも運命……。十四郎の中に過去の自分が蘇る。同じだった、今のこの人々と……そして、手に入れたはずの平和と平穏が十四郎を変えたのだった。


「アルマンニは今、侵攻作戦を準備しています。目標はフラクル……そして、モンテカルロス」


 ツヴァイが十四郎達の話に、一歩下がりながらも加わる。


「本当ですか? それより、この方々は確か……」


「その、元青銅騎士の方々です」


「元?……」


 唖然とするラモスに、戸惑いながら十四郎は紹介した。ツヴァイ達は襟を正し改めてラモスに礼をした。


「今は魔法使い十四郎様に仕えております」


 驚きはしたが、ラモスは真っ直ぐなツヴァイ達の瞳に真実を見た気がした。そして、一呼吸置いて続けた。


「本当に戦いを無くすなら……この世界全体を変えるしかなのです」


 更にラモスの言葉が十四郎の胸に染みる。十四郎達が作った一見平和な国も、内乱が続き真の平和を模索中であり、西洋列強の植民地拡大が直ぐ近くにまで迫る緊迫した時代だった。


 十四郎の中で新たな刺激が湧き出す感覚が、ほんの少し存在した……しかし、気持ちが落ち着くと目前の問題が改めて胸を突き、現実に引き戻される。


「リズ殿は……?」


 周囲を見渡しても、リズの姿はなかった。きっと心配しているだろう、ビアンカの事を報告したかった。


「砦に戻って直ぐに、出て行かれました」


 ラモスは、すまなそうに目を逸らせ、十四郎は驚きの声を上げた。


「いったい何処へ?」


「リード伯爵の元へ行かれました」


「何故ですか? どういうお方なのですか?」


 十四郎の中に疑問が泉の様に湧く。


「それは……お答えしかねます」


 本当にすまそうにラモスは答えた。十四郎はそれ以上は聞けない事を悟り、話題を変えた。


「そうですか……私達は、ローボ殿から連絡が入り次第助けに行きます」


________________________



 十四郎は一人で喧騒を抜け出し、アルフィン達のいる馬小屋に行った。


「大変な騒ぎでしたね」


「十四郎……大丈夫?」


 シルフィーやアルフィンが心配そうに声を掛ける。


「ええ、まあ」


 十四郎は曖昧に微笑むが、ローボは足元から鋭い視線で見上げた。


「今は女騎士を助け出す事に集中しろ、後悔や懺悔など後でゆっくりしたらいい……油断してると、後悔くらいじゃ済まなくなるぞ」


 ローボの言葉は十四郎の胸を締め付けた。直ぐにビアンカの笑顔や仕草が頭に浮び、身の震える思いだった。


「そうですね……それと、リズ殿がどこかへ行かれたみたいなんですけど」


 気合を入れ直し深呼吸すると、十四郎の口から気になる事が漏れた。


「私が行かせた」


「どう言う意味ですか?」


 訝しげな顔でローボを見る十四郎だった。


「お前の剣を手に入れる為さ……」


「どうしてリズ殿を?」


 更に疑問が湧く。


「あいつは見掛けより頭の良い女だからな……なに、直ぐに手に入れてくるさ」


 ローボは平然と言うが、十四郎は首を捻る。


「しかし……」


「何……お節介さ……」


 ローボは意味ありげに笑った。


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