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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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ミランダ砦攻防戦 12

「両手剣でなく、折れた剣のみで構えるとは……」


 ツヴァイは十四郎の構えに、笑みを漏らす。


「流石、ナンバー2だな十四郎の構えを受け入れる……か」


 ローボはニヤリとするが、シルフィーは納得出来ない。


「折れた剣で構えるなんて、相手を怒らせる作戦じゃないの?」


「本来の十四郎のスタイルだ、両手剣は折れた剣の補填だ」


「補填?」


 アルフィンは頭上に? マークを浮かべるがシルフィーには、なんとなく分かった。やはり折れた剣では不利なのを。


 しかし十四郎は右手を伸ばし、構えたまま動かない。ツヴァイも十四郎の意図を推し量り、自分からは動かない。周囲を緊迫した空気が包み込む、見ている方も呼吸さえ忘れる。


 暫くの後、ツヴァイが先に動き出す。軽くステップを踏み、十四郎の周囲を移動し始めた。


「計算が終わったか……」


 ローボはツヴァイの動きに眉を潜めた。仲間の二人が倒されても眉一つ動かさない冷静さ、十四郎の動きを隅々まで観察し、分析する……ツヴァイの行動は歴戦のローボでさえ唸らせる。


 ツヴァイが仕掛ける! 突然十四郎の斜め右から切り掛かる。そのスピードは、今までのどんな敵より速かった。十四郎は瞬間に左手を添え、寸前で受け止めるが、ツヴァイは更に速いスピードで切り返す。


 しかし、十四郎は右手を支点に神速で左手を動かし対処する。


「相手も速いが、十四郎……なんて反応だ……」


 呆れた様にローボは呟くが、アルフィンとシルフィーは息をするのも忘れて見入っていた。


「余裕ですね……」


 ツヴァイは口元を綻ばせ、剣を握り直すと更に速い速度で打ち込んだ。しかし、十四郎はそれさえも最小限の動きでかわす、まるで折れた刀のハンデなど微塵も無い様に。


「なんて奴だ……」


 ローボは背中に鳥肌が立つのを感じた。攻撃のほんの少し先を行く防御、シルフィーはその動きに目を奪われるが、簡単な疑問が口からこぼれた。


「十四郎……受けてばかりで、攻撃しない……」


「待ってるのさ……」


「何を?……」


 ローボの言葉は、アルフィンには理解不能だった。


「相手は100%の力で攻撃していない。そうだな、90%といったとこか」


「何故全力で攻撃しないの?」


 シルフィーも不思議そうに首を傾げる。


「恐れてるのさ」


「分かる様に説明してよ」


 頬を膨らませ、アルフィンがローボに迫った。


「全力で攻撃すれば、十四郎の反撃に対処出来ない……と、感じてるのさ。前の二人の闘いを見たろ……倒されたのは、両方とも攻撃した直後だ」


「そうなの?」


「そうなんだ」


 アルフィンとシルフィーは頷くが、ローボは対決から目を離さないまま呟いた。


「そろそろ動くか……」


___________________________



 全力に近い攻撃を簡単に受けられ、ツヴァイは不思議な感覚に包まれていた。怖さ? 驚き? それとも喜び? 入り混じる経験した事の無い感覚はツヴァイを恍惚へと導く。


「アルマンニの魔法使いとは違うな……本当に魔法のようだ」


 呟くツヴァイに、十四郎はゆっくりと無言で構える。その正眼の構えには一部の隙も無く、まるでツヴァイの決心を悟ったかのように。


 ツヴァイは鎧を脱ぎ捨てると、息を整え改めて構え直した。大きく構えた剣を大上段で一度止め、少し膝を曲げる。ほんの少し開いた口で、呼吸のリズムを取り、すり足で間合いを詰める。


 対する十四郎は自然な構えのまま、ゆっくりと構えた腕を右上段にすると、左足を若干引いた。刹那、十四郎がツヴァイ目掛けて飛び込む! 渾身の袈裟切りは届くはずの無い距離からツヴァイの腕を霞めた。


 それはまるで、刀は折れてなく本来の長さである錯覚さえもたらした。


「折れた剣の先に……見えない剣先が……」


 咄嗟に下がったツヴァイが呟くと、ローボも愕然と言葉を漏らした。


「確かに魔法の杖だな……だが、その正体は足元だ」


「足? 剣の話じゃないの? さっきみたいに柄の先端を持って長さを補うっていう……」


 アルフィンが不思議そうな顔をした。


「普通の兵になら通用するが、相手は手練れだ。片手では威力が落ちる、両手でないとな」


「だから足か……」


 シルフィーは頷くが、アルフィンは不満そうにしていた。


「足で距離を詰め、剣の長さを補う。これなら、両手で戦える」


 十四郎は一旦構え直すと、ジリジリと間合いを詰める。今度はツヴァイが呼応して下がるが、手の汗を上着で拭くと、口元を綻ばせた。


「楽しませてくれる……だが、私も、あなたを楽しませたい」


 言うが早いかツヴァイは猛烈な速度で打ち込み、十四郎は剣を受け流すが次の瞬間、ツヴァイは十四郎を追い越すと、振り向き様に背中に向けて電光石火で切り付けた。


「何っ!」


 ツヴァイ叫びは周囲に響く、十四郎は振り向きもせず背中に回した刀で受けた。そして振り向き様に刀を振り下ろし、今度はツヴァイが剣で受け止めた。その太刀筋は鋭く、とても短い刀の威力ではない。


 両腕の衝撃は、まるで巨大な斧で切り掛かられた様にツヴァイの腕を痺れさせた。しかし、ツヴァイが次の十四郎の動きを予想する前に、十四郎は刀をツヴァイの剣に沿って滑らし、剣のガードの位置に刀の鍔を置き、いわゆる鍔迫り合いの態勢を取る。


 体力では上背のあるツヴァイが有利なはずが、十四郎の押す力は地面ごとツヴァイの足を滑らせた。咄嗟に押し返すツヴァイの腕が一瞬、宙を彷徨う。そのコンマ数秒の間に、十四郎は刀を捨てるとツヴァイの襟に右手を回し、左手で袖を取った。


 そのまま瞬時に体を寄せると、渾身の一本背負い! ツヴァイの視野は上下が逆になった瞬間、物凄い勢いで後方へ飛び去り、同時に強烈な痛みが背中に炸裂した。


 一瞬、息が止まる……考える暇もなく、ツヴァイは気絶した。


「何だ今のは……」


 呆れた様なローボに、今度はシルフィーが説明した。


「武闘大会の初戦、大男が魔法みたいに投げ飛ばされたの」


「今のは魔法なのか?」


 一連の動きを思い出すが、ローボには信じられなかった。


「さあ……でも、十四郎は剣がなくても強いんだから」


「そうよ! 十四郎は誰より強いんだから!」


 シルフィーの言葉に、アルフィンも嬉しそうに被せた。ニガ笑いのローボは、ゆっくり十四郎に近付いて行った。


「さて、一度戻るとするか」


「ローボ殿……」


 唖然とする十四郎に、ローボは鋭い視線を投げた。


「分かってるはずだ……道は一本道、あれだけの速度で追えば追い付いて当然のはずだ。だが、私の嗅覚でも、女騎士は感じない……アルマンニの魔法使いは消えた」


「しかし……」


 十四郎は俯き拳を握り締めた。


「奴の狙いは、お前を苦しめる事だ。目の前で女騎士を始末してこそ、その効果は最大になる……だから、お前が目前に行かない限り、女騎士は安全だ」


「十四郎、そうだよおかしいよ」


 アルフィンは同意するが、シルフィーは悲しそうに俯いた。


「もう少し先に必ずいるよ……だから……」


「シルフィー……ローボも、ああ言ってる。私も十四郎も絶対にビアンカを助ける……信じて」


 寄り添うアルフィンに、シルフィーは黙って頷いた。すると突然、ローボが遠吠えを上げる。それは大空に木霊し、直ぐにカラスや鷹、きつねや山犬などが集まって来た。


「アルマンニの魔法使いを見た者は?」


 動物達は顔を見合わせ、大きなカラスが代表で口を開いた。


「ローボ様が御出でになった時点で確認出来ましたが、少し目を離した隙に見失いまいした」


「探し出せ」


「御意」


 動物達は方々に散らばって行った。


_____________________________



 十四郎は倒れている青銅騎士達に近付き、一人一人に”活”を入れ起こした。三人共に腹や首、背中を摩りながら十四郎の前に跪いた。


「我々の負けです……処遇はお好きな様に」


 ツヴァイは満足した表情で十四郎を見る、ゼクスは目を閉じ。ノインツェーンは頬を赤らめ俯いていた。


「処遇も何も……このまま、お帰り下さい」


 十四郎は穏やかに微笑むが、少し上の空の様だった。


「最早、帰る場所はありません……命令を違えた我々は、帰っても粛清が待つのみです」


「そう言われましても……」


 どこか上の空の十四郎に、ローボが声を荒げた。


「この者達の命は、お前が握ってるんだぞ!」


「そうよ十四郎、ビアンカを助ける為にも助けは必要よ!」


 アルフィンは十四郎に駆け寄り、懇願した。


「青銅騎士には厳しい掟がある……彼らは戦いの道具……解き放てるのは、あなただけ」


 シルフィーは悲しそうな目で、十四郎を見た。


「私にどうしろと……」


 確かに武士の世界にも、似たような事例はある……十四郎はただ、戸惑うばかりだった。


「ただ、解放するだけでは、この者達は困窮するだろう。お前が導き、正面から対峙するしかない」


「しかし……」


 まだ困惑する十四郎に、シルフィーが優しく声を掛けた。


「聞いてみたらどうですか? この人達に……味方になってくれるか」


 十四郎は促されるままに、ツヴァイ達に聞いた。


「……かつての同志を裏切る事になるかもしれませんが、よければ力を貸して頂けませんか?」


 十四郎はすまなそうに言ったが、顔を上げたツヴァイの目は輝き、ゼクスもノインツェーンも満面の笑みだった。


「あなた様が本気でしたら、我々は今、此処で死んでいました。一度死んだ身……この身は、あなた様に捧げます」


 深々と頭を下げるツヴァイに、後の二人も呼応して頭を下げた。十四郎は大きく深呼吸すると、穏やかに言った。


「力を抜いて下さい……これからは、たった一度の失敗で諦めないで下さいね」


「ははっ」


 三人は同時に頭を下げ、アルフィンやシルフィーも、安堵の溜息を付いた。


「さあ、早く砦に戻るぞ」


 ローボに促され、十四郎達は砦への道を急いで戻った。


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