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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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ミランダ砦攻防戦 11

「魔法使い様、お助けに参りました」


 周囲の敵兵が排除されると、義勇兵の一人が十四郎の元に跪く。その童顔は、どこか見覚えがあった。そして、矢継ぎ早に話し出した。


「我々は王政を倒し、平等で戦いの無い国を造る為に戦っています。魔法使い様に先頭に立って頂き、御導き頂きたく……」


「すみません、私はそういう者ではありません。……あなたは、砦を落とす命令によってここに来た……しかし、将を失い、最早砦を落とす事は困難になっています……それでも戦い、多くの兵の命を無駄に落とさせるか、兵を引き皆を家族の元に返すか……あなた次第です」


 途中で言葉を遮り、十四郎は義勇兵を通り越しリーオを真っ直ぐ見た。


「だが……」


 リーオは言葉を詰まらせるが、十四郎は穏やかに言葉を続ける。


「私は、ビアンカ殿を助ける為に来ました……ただ、それだけです……見て下さい、倒れた兵士を……あれが戦いです、彼ら一人一人にも夢や希望、大切な家族や友人、恋人があります」


 リーオは言葉を失うが、置き去りにされた義勇兵は言葉を荒げた。


「魔法使い様! あなた様の使命は、大勢の民を平和で安寧な世界へと導く事なのです! たった一人の為に動くなど……」


「それが、今の私の一番の願いであり、意志です」


 また言葉を遮り、十四郎は穏やかに言った。


「そんな……」


 義勇兵は俯き、それ以上言葉が出なかった。


「ココ殿、リル殿、残った人達を砦に連れて行って下さい」


 十四郎の言葉にココは直ぐに行動に出るが、リルは苦い表情で十四郎を見た。


「頼りにしてます。リル殿なら、安全に皆を砦に連れて行けますね」


「分かった」


 やっと頷いたリルは、残った味方の兵の誘導を始めた。


「我々は……何の為に」


 俯く義勇兵達は、その場に立ちすくんだ。


「人に頼ってるうちは……何も変わらない」


 ラモスは義勇兵の耳元で囁くと、仲間に肩を貸し移動を始めた。


「十四郎様、お持ち下さい」


 リズはビアンカの剣を十四郎に手渡した。


「必ず、連れて戻ります」


「行こう! 十四郎」


 アルフィンは元気よく叫んだ。頷く十四郎はアルフィンに跨り、剣を受け取ると軽く会釈して走り去った。様子を見ていたローボは、直ぐにシルフィーの鞍に飛び乗った。


「私も行く、神速の速さを見せてもらおう」


「振り落とされないでよ」


 シルフィーもアルフィンの後を追った。ラモスはゆっくりとリーオに近付き、穏やかに言った。


「貴殿の騎士としての行動は正しい……今度は人としての行動に期待する」


「人として……か」


 呟いたリーオは、ゆっくりと反対方向へ歩き出す……撤退命令を告げる為に。見送るリズの頭の中に何かの”意志”みたいなものが突然入って来る。それはリズ自身の思惑と一致し、自然と受け入れた。そして、落ちていた十四郎の刀の剣先を拾ったリズは、布に巻くと懐に入れた。


「どうするんだ?」


 ラモスの問いに、リズは悲しそうな表情を向けた。


「如何に十四郎様でも、剣が無ければ”力”は落ちます……ビアンカの為にも私が出来ることをします」


__________________________



 前を走るアルフィンに、シルフィーは付いて行くのが精一杯だった。


「流石は天馬、神速でも付いて行くのに苦労するな」


 シルフィーの背中で、ローボは呟いた。


「アルフィンは本気で走っていない、本気なら私が付いて行けるはずはない」


 息を弾ませたシルフィーは、やっとの言葉を絞り出す。


「しかし、様子がおかしい」


「どこが?」


 頷くローボだったが、胸を過る不安を口にした。


「この速度なら、先に出たアルマンニの魔法使いに追い付いてもおかしくない」


「確かにそうね」


 シルフィーが肯定すると、急にアルフィンが速度を落とした。


「何なのっ!?」


「前を見ろ!」


 驚くシルフィーに、ローボの声が重なった。アルフィンの前方には、道を塞ぐ三つの影があった。目前で止まったアルフィンから、ゆっくりと十四郎が降りる。


「十四郎! 気を付けて!」


「闘気が凄いな、噂に聞くな青銅騎士か」


 十四郎の足元に来たローボが牙を剥いた。


「私は青銅騎士、ツヴァイ(2)……」


 金髪を短く刈り上げた、青年とも呼べる端麗な容姿の騎士が口を開く。銀色に輝く鎧の胸には深き青の十字架が刻まれていた。


「我が名はゼクス(6)」


 横の騎士はゼクスと名乗り、カールした漆黒の髪は肩に届き、無精髭はその表情を更に精悍に見せるが、線は細く長身だった。。


「私はノインツェーン(19)」


紅一点の女騎士は真っ直ぐな輝く金髪で、揃えられた前髪から覗く碧の瞳が妖しい色香をまとっていたが、よく見るとビアンカとは同い年位に見えた。


「ほう、青銅七騎士は数字が名前か……その割に7以降の番号もいるな」


「数字が名前?」


 ローボは十四郎の足元で囁く。


 声に出し首を傾げる十四郎に、ツヴァイは少し笑った。


「不本意ですが、能力により序列があります。数字はその順位です」


「ローボ殿が7以降の数字があると……」


 素直な疑問を十四郎が言った。ツヴァイはローボを横目で見た。


「神獣ローボですか……青銅七騎士と言っても数十人います……その上位七名が、最強なのです」


「私は19番目ですが、腕は上位に引けは取りません」


 小さな声で囁くノインツェーンは、美しい瞳を十四郎に向けた。


「先を急いでいます、通しては頂けませんか?」


 十四郎はその視線をかわすと、リーダー格であろうツヴァイを見据えた。


「残念ですが我々に与えられた使命は、あなたを足止めする事……」


 ゆっくりと剣を抜いたツヴァイは、静かに言った。同じ様にゼクスもノインツェーンも剣を抜き構えた。


___________________________



「仕方ありませんね」


 十四郎は左手に折れた刀を持ち、右手にはビアンカの剣を持ち、両方を下げ自然体で三人に向き合った。


「三対一だ、一人は私が……」


 素早く足元に来たローボを制し、十四郎は毅然と言った。


「手出しは無用です」


「また! 十四郎! 素直に手助けを受けてよ!」


 それまで固唾を飲んでいたアルフィンが叫び、シルフィーも同調した。


「ビアンカに聞いた事があります! 彼らは危険よ!」


「心配無用です」


 振り向いた十四郎の顔は何時もと変わらず、アルフィンやシルフィーは更に心配になったが、ローボは薄笑いを浮かべていた。


「底の知れない男だ……そんな顔するな、私がいる限り十四郎は死なない」


 ローボの言葉は二人? 安堵に導くが十四郎の折れた刀はアルフィンの胸を激しく揺さぶった。


「ほう……両手に剣か……」


 ツヴァイの脳裏では十四郎の戦闘力が分析されていた。自分の剣を左手の折れた剣で受け止め、右手の剣で攻撃を返す。落ち着いては見えるが、早くこの場を去りたいはず。焦りは戦闘力の低下に繋がる。


 だが、ベルッキオとの戦いやリーオの配下を倒した戦いを目の当たりにしたツヴァイも油断はしていなかった。逆に焦っていたのはノインツェーンだった、彼女は自分の序列に不満を感じ功を焦っていたのだった。


 十四郎の一見、隙だらけに見える構えにノインツェーンは真っ先に飛び出した。地面を蹴る脚は電光石火、同時に体を捻る反動を利用し、渾身の力を込めた腕は剣先の加速を更に増幅させる。


 瞬時に迫る剣先を十四郎は最小限の動きでかわすと、左手の刀でノインツェーンの胴を薙ぎ払った。ノインツェーンの速さはカウンターで自分に返る、一瞬何が起こったのかを考える暇も無く記憶にあるのは迫り来る地面だけだった。


 ゼクスはその様子に舌を巻くが、自分なりの戦法で十四郎に向かう。真上から打ち下ろされる剣は、まさしく剛剣。十四郎は右手の剣で受けるが、衝撃が手首や二の腕に伸し掛かり思わず顔を歪めた。


「ほう、右で受けるとは……」


 ツヴァイは十四郎の行動に関心の溜息を漏らす、一目でゼクスの剛力を見抜き利き腕で剣を受け止めたのだ。ゼクスの一見に惑わされ、左腕一本で受けたなら受けた刀ごと肩先を斬られていたかもしれない。


 しかし、ツヴァイが一瞬考えたのも束の間、十四郎は流れる様に次の一手を出す。受けた剣を支えながらもゼクスとの間合いを縮め、左手で渾身の横薙ぎ。だが、ノインツェーンと違い、体力のあるゼクスは倒れない。


 その体制のまま十四郎の受けた剣を弾き、小さく振り上げた剣を再度頭上から振り下ろす。アルフィンが目を閉じ、シルフィーが目を見開き、ローボがニヤリと笑った瞬間、ゼクスは後ろ向きに倒れた。


「何があったの……」


 目を開けたアルフィンが茫然と呟く。


「見てたけど……分からない」


 同じく唖然と呟くシルフィーに、ローボが解説した。


「胴への一撃が効いていたのさ、振り下ろす剣に勢いがなかった。十四郎は、剣を振り上げた瞬間に、相手の喉を剣の柄で突いたのさ……私もあまりに速すぎて、よく見えなかったがな」


「溜息しかでませんね」


 嬉しそうにツヴァイは言うと、十四郎に正対した。十四郎はビアンカの剣を仕舞うと、折れた刀を右手に持ち替え、左手を腰に添えた。


「何! あの構え! あんな短い剣で何が出来るの!」


 アルフィンの背筋を悪寒が襲う、シルフィーは怖さで声も出ない。


「全く……今度は何を見せてくれるのか?」


 ローボだけは、少し嬉しそうに口角を上げた。


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