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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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ミランダ砦攻防戦 10

 リルは七子の”気”を引き付けながら距離を縮める。十四郎を助けに来たという義勇兵達は、固唾を飲み息を殺して後方で身構えた。


「動くか……」


 声に出した七子は青銅騎士達に目配せをすると、ビアンカを乗せた騎士が先頭を切って走り出した。それは戦闘開始の合図となり、リルの渾身の矢が七子を目掛けて放たれる。


 だが、矢は七子の目前で逸れ反対側の木に突き刺さった。


「まさか……」


 驚いたのはリルで、完全な手応えが構えた弓の中で空回りする。矢継ぎ早に次の矢を放つが、矢はまた寸前で七子を外した。そして、見えてるはずのないリルを確かに七子が睨む。悪寒と同時に悔しさがリルを覆い、考える前に飛び出した。


 一瞬遅れ、義勇兵達も喚声を上げ後に続く。勿論それは引き金になり、ココ側の義勇兵も一気に飛び出した。ココは素早く回り込み七子を狙える位置を探すが、まるでココの位置を把握してるかの様に七子は微妙に立ち位置を変えた。


「見えてる? いや……感じてるのか?」


 リルとは少し違う悪寒、それは十四郎に対する畏敬の念に近かった。


「お前が魔法使いと呼ばれる訳はこれか?」


 七子は十四郎に怪しい視線を送った。


「何がです?」


  ビアンカを乗せて走り去った騎士の背中に、視線を向けたまま十四郎は呟く。


「何がだと? 分からないのか? それとも分からないフリか?」


 少し笑った七子は、口元を歪めるが十四郎は見向きもしなかった。そんな十四郎に、七子は視線を強める。


「お前が動けば周囲が動く……お前の言動に人は導かれ、お前の行動に人は引きつけられる……兄上の仇だが、直ぐに殺さない……お前には利用価値がある」


 そんな七子の意味ありげな言葉も、十四郎には聞こえなかった。


________________________



「始まったな」


 急にローボが呟くと、敵の兵士がいる道に飛び出した。続くシルフィーとアルフィンは、ローボを見て驚く兵士の間を全力で駆け抜ける。人間の動きは、本当に速い動物の動きには到底敵わない。


 兵士たちは認識は出来ても次の動作を起こす前にローボ達は目前を駆け、抜け唖然とするしかなかった。


「何処の兵なの?!」


 目前で戦闘を繰り広げる見覚えの無い兵達に、アルフィンは声を上げる。


「動きが素人、騎士じゃない!」


 シルフィーは直ぐに騎士らしくない戦いに疑問を投げる。確かに剣や槍で戦っているが、ほぼ全ての者達はチグハグな戦いをしていた。初めは不意を突かれ、浮足立つイタストロアの兵も、次第に反撃に転じていた。


「直ぐに制圧されるぞ! チャンスは今しかない!」


 叫んだローボは一気に十四郎を目指し、アルフィンやシルフィーも続いた。


________________________



「何処に行くのです?!」


 リーオは去ろうとする七子の背中に叫んだ。


「何処だと?」


 振り向いた七子は怪しい薄笑みで、それだけ言うと走り去った。残されたリーオはワナワナと震え怒りの表情で、今度は十四郎を見た。


「七子殿の目的は貴殿のはず、何故残して行く?!」


「分かりません。それより兵を引いては頂けませんか? もう戦いの理由がありません」


 十四郎は穏やかに言うが、リーオは表情を曇らせる。


「理由が無い?……このまま引き下がれと? 死んだ者にどう言い訳すればいい!?」


「亡くなった者より今は生き残った者、その家族の事を考えて下さい……」


 俯く十四郎にリーオは混乱した。確かに十四郎の言葉は正論だが、腹の底で煮えたぎる何かがリーオを突き動かす。その切っ掛けは直ぐ傍で始まった戦いの激しい足音だった。


「後方に敵! 油断するな! 蹴散らせ!」


 直ぐに指示を出したリーオは剣を抜き、十四郎に振り返えり小さく呟いた。


「貴殿が本当に魔法使いなら、この戦いを止めて見せろ」


 その言葉を受けた十四郎は、真っ直ぐリーオはの目を見返した。その時、銀色の何かがリーオの目前を駆け抜ける。一瞬、言葉を失い目を疑うが紛れも無く巨大な狼だった。


「生きてたな」


 ローボはニヤリと笑うと、十四郎の縄を噛み切った。立ち上がった十四郎に、今度はアルフィンが駆け寄る。


「十四郎! 遅くなってごめん!」


「アルフィン殿……」


 優しく鼻を撫ぜられると、アルフィンは全身に震えが来るのを我慢出来なかった。


「十四郎! ビアンカは!?」


 少し遅れて来たシルフィーが、周囲を見回して叫んだ。


「大丈夫です、必ず連れ戻します」


 優しい眼差しをシルフィーに向けると、十四郎は落ちている鞘を腰に差し、折れた刀を仕舞った。


「折れた剣で何が出来る?」


 見ていたリーオが目配せすると、配下の屈強な男達が十四郎を取り囲んだ。見ていたラモスやリズも声が出ない。剣無しでは如何に十四郎と言えど、勝ち目は無いと体が震えた。


「十四郎は大丈夫だ」


 ふいの声はリルで、縄を解きリズとラモスに武器を手渡した。


「味方の兵は解放しました。十四郎様の援護を」


 他の者を解放したココが傍に来て報告する。ラモスやリズは直ぐに十四郎の元に駆け寄るが、振り向かないまま十四郎は言った。


「手出しは無用です」


______________________



 十四郎を取り囲む敵兵は五人、それぞれに剣や槍を構えている。リズは悪寒に包まれるが、横のリルは笑みさえ浮かべていた。


「無理よ! 援護しなきゃ」


 出ようとするリズを、リルは腕を取り強い力で引き止めた。


「十四郎は手出しするなと言った」


「でも!」


 その時、後ろの騎士が切り掛かった。リズの心臓が鷲掴みになった瞬間、十四郎は振り向き騎士と交差した。


「何があった……」


 ラモスが呟くと、男はゆっくりと倒れた。十四郎は刀を抜いていない、しかし男は倒れた。リズは、訳が分からなかった。


 十四郎は、左手を鯉口に掛けると柄頭に右手を添える。そして、ゆっくり膝を曲げると一気に前に飛び出す、すかざす前方の騎士が槍で突くが、寸前でかわしそのまま交差する。次の瞬間には騎士は前向きに倒れた。


 今度は両側から騎士が襲い掛かるが、横薙ぎ一閃! 二人を同時に倒し、そのままの勢いで振り向き様に、最後の一人を倒した。


「どうして? 剣は折れてるのに……」


 微かに震えるリズに、目を見開いたラモスが解説した。


「剣は半分に折れてるが、柄の先端を握り踏込の量を増す事で長さを補っている……」


 アルフィンやシルフィーも身体が震えていた。十四郎の強さは知ってるつもりでも、何時もとは違う雰囲気に言葉が出ない。


「ほう……迷いは無しか」


 ローボだけは十四郎の動きに関心した。


「ローボ……十四郎、怒ってるみたい」


 アルフィンが心配そうに声を曇らせる。


「……大切な者に危害が及ぼうとすれば、怒るのは当然だ」


 少し笑ったローボは、十四郎の背中を見詰めた。


「でも……十四郎……何時も、誰かの為に戦ってる……」


 シルフィーの言葉に、今更ながらアルフィンの胸は熱くなった。


 驚いたのはリーオも同じで、茫然と見ていた。十四郎は、一旦刀を仕舞うと次の目標に向かい、次々に倒して行った。その様子は正しく”魔法使い”であり十四郎が傍を駆け抜ける度に騎士達は倒れ、ほんの少しの時間で立ってる者はいなくなった。


 息さえ乱さない十四郎に、リーオは愕然とする。これ程に圧倒的な強さは、リーオの精神を困惑させるが、だだ恐怖とは少し違っていた。


「骨くらいは折れてるでしょうが、死にはしません」


 刀を仕舞った十四郎が、リーオに向き直る。


「お前は何なんだ?……」


「私はただのサムライですよ」


 穏やかな十四郎の言葉と、その優しい表情は更にリーオを困惑させた。


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