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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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ミランダ砦攻防戦 9

 インターバルは窮地と同義だった。狼達は包囲の輪を十重二十重と展開し、完全に主導権を握っていた。最早手段は無い、だがシルフィーは落ち着いた言葉をアルフィンに掛ける。


「アルフィン、怖くない?」


「怖いよ……シルフィーは平気なの?」


 震えるアルフィンが声も震わす。だがシルフィーは気丈に視線を強め、周囲の狼達を睨んだ。


「私達が諦めたら、ビアンカや十四郎を助けられない」


 シルフィーの言葉は、アルフィンの胸の奥に響いた。震えは自然と消え、お腹の底から何かが湧き出すと、思い切り叫んだ。


「私達はローボの元へ行く! 邪魔立てするなっ!」


 一瞬、狼達がたじろぐが直ぐに大声で叫び返した。


「その名を気安く呼ぶな!」


「私達はローボと知り合いだ!」


 今度はシルフィーが叫ぶ。


 その言葉に狼達の顔色が変わる、明らかな動揺は隙を生んだ。


「アルフィン!」


 叫んだシルフィーが目前の狼を前脚で薙ぎ倒す、すかさずアルフィンが横の狼に強烈な足蹴りを喰らわせた。途端に陣形は乱れ、後方の狼達は右往左往した。


 この瞬間しかない! シルフィーは大きくジャンプして狼の包囲網を脱出する。後から続くアルフィンは、更に大きなジャンプでシルフィーの遥か前方に着地した。ココロの中で、苦笑いしたシルフィーは、加速するアルフィンに追い付こうと更にスピードを上げた。


 だが狭い一本道、しかも周囲はうっそうと生い茂る密林で思う様にスピードは上がらない。狼達は狭い木々を簡単に抜け、左右からの包囲網を構築する。二度とローボの名前を使えないと悟ると、流石のシルフィーも焦りで地面を踏み外す。


「シルフィー! がんばれ!」


 前方を走るアルフィンが叫ぶ、シルフィーは強く首を振り気合を入れると大きく息を吐いた。


「アルフィン! 勝負だよ!」


 こんな時なのに、シルフィーは叫び返す。その声はアルフィンにも勇気を与えた。そしてアルフィンの視界が広くなった道を捉え光が見えた瞬間、目前に多数の狼が現れた。咄嗟の急ブレーキは後ろのシルフィーの追突を招き、二人? は道の真ん中で息も絶え絶えに立ち止まった。


「何だ? 揃って競争か? あいつはどうした?」


 聞き覚えのある声、それはローボの息子、ルーの声だった。


「十四郎が大変なのっ!!……」「ローボはどこっ!……」


 同時に叫ぶアルフィンとシルフィーに、ルーは呆れた口調になったが、直ぐに真剣な眼差しを向けた。。


「一人ずつ話せよ……それより、父上の話を持ち出した後、なぜ急に走り出した? あのまま話を進め、相手に確かめさせる事も出来たはずだ。我々狼にとって、父上の存在は絶対なのだからな……」


「私達が借りたいのは名前じゃない、実際の助けなの! いちいち説明してる余裕はないの!」


「とにかく急ぐの、ローボの所へ行かせて!」


 シルフィーが叫び、アルフィンが被せる。


「だから、何があったか説明しろよ」


 落ち着いたルーの言葉に、シルフィーが切れた。


「説明してる暇なんかないっ!」


「話を聞いてからだ」


 頑固なルーは行く手を遮る。シルフィーはアルフィンに目配せをすると、急にダッシュするが、直ぐに行く手をルーの配下に押さえられた。アルフィンも動く前に、周囲を囲まれ大声を上げた。


「分からず屋っ! それでもローボの息子なのっ! 少しは悟ってよっ!」


「何だと!」


 流石にルーも牙を見せる、大勢の手下の前で愚弄されては示しがつかない。手下の狼も牙を剥いて唸る……一触即発、事態が違う方向へ向こうとした時、凛とした低い声がその場を救った。


「静まれ……十四郎に何があった?」


 その姿に周囲は一瞬で静まる。シルフィーもアルフィンも一瞬固まるが、二人? は関を切ったみたいにまた同時に捲し立てた。ローボは黙って聞いた後、周囲に号令を出した。


「後に続け! 但し静かに付いて来い」


「ローボ……」


 シルフィーが呟くと、ローボはニヤリと笑った。


「十四郎が我が森を挨拶も無く走り去った時点で、予測は付いていた」


「どうして?……」


 今度はアルフィンが首を傾げる。


「十四郎には借りがある……」


 呟いたローボは背中を向けるとルーに目配せし、走り出した。笑顔になったアルフィンとシルフィーも後に続く。


「イタストロアの狼も続け!」


 ルーは周囲の狼に告げると後に続いた。


_______________________



 後ろ手に縛られた十四郎は、七子の前に座らされていた。手下の者から十四郎の刀を受け取った七子は、鞘から抜くと顔を近付け刀身を見た。


「刃こぼれも無い……銘すら打たれぬ新刀も使い手次第か……」


 少し笑った七子は、おもむろに近くの岩肌に刀を振るう。刀の切れ味を見て来たビアンカは、真っ二つになる岩を想像したが、高い金属音と共に刀は折れた。そのまま放り投げた七子は、十四郎に向き直る。


「この世界では刀は手に入らない、鬼斬りも終わりだな」


 十四郎は顔色を変えなかったが、ビアンカは胸が押し潰されそうだった。そこにリーオが数十人を従え到着した。直ぐに横たわるベルッキオに気付く、何の敬意も無いその遺体の様子にリーオは怒りを七子にぶつけた。


「魔法使い殿! 訳を聞かせて頂きたい!」


「訳? 何の訳だ?」


 全く意に介さない七子に、リーオの怒りが爆発する。


「仮にも一軍の将! 敬意を持って……」


「敗者に敬意など無いっ!」


 リーオの言葉を遮り七子は叫ぶが、リーオの怒りは収まらない。直ぐに部下に指示し、ベルッキオの亡骸を丁重に軍旗に巻く作業に入る。そんなリーオを無視した七子は、急に配下に耳打ちした。


 配下の男は急いでビアンカに近付くと無理矢理に立たせ、腹に拳を当て気絶させた。ラモスやリズも立ち向かおうとするが、後ろ手に縛られていて抵抗も空しく叩き伏せられた。


「ビアンカ殿をどうするつもりですか?」


 声を押し殺し、十四郎が鋭い視線で七子を睨んだ。


「その眼だ……それこそ、鬼斬りの眼だ……ここでは邪魔が入りそうなのでな、場所を変える」


 七子はそう言うと、また配下の者に指示する。屈強そうな数人が、ビアンカを馬に乗せ七子と共にその場を去ろうとした。振り返る七子は、十四郎に強い視線を投げ、従う数人の男女を紹介した。


「この者達はアルマンニの青銅七騎士、無手では手強い相手だ……」


 ラモスやリズはその名前に聞き覚えがあった。アルマンニには皇帝直属の青銅、白銀、黄金の其々の七騎士が存在する。青銅は個別の白兵戦を得意とし、白銀は兵を率いた集団戦や知略に特化、黄金は全てを兼ね備え凌駕する最強集団……。


 だが皇帝直属の青銅七騎士が、七子に従う意味をラモスは考え叫んだ。


「青銅七騎士が何故お前に従う?!」


「何故だと? 」


 振り向いた七子は、声を上げて笑った。


_________________________



 様子を窺うココは飛び出すタイミングを見計らうが、周囲に気配を感じ場所を変えた。そこに武装した集団が現れる。一瞬砦からの援軍かとも思ったが、装備はバラバラで騎士と言うより野盗という感じだった。


「アルマンニの兵ではない……味方なのか?……」


 慎重なココは、様子を見ることにした。今は動くタイミングではない、それよりリルの行動が気になった。大丈夫なんだろうか……そう思ったが、直ぐにココは笑顔に変わった。ついさっきのリルの態度が頭を過ったからだった。


 だが、反対側のリルはココの思惑とは少し違う行動に出る。素早く弓を身構えると、近付く不明の兵の前に立ちはだかった。弓を引く右手には数本の矢を持ち、一瞬で前衛の不明な兵を倒す体制を維持しながら。


「何者だ?」


「お前こそ何者だ?」


 先頭の男がリルを睨み返す。どう見ても十代で、幼さが残るその面影はどこか見覚えがあった。


「私は魔法使い十四郎の、弓……」


 一呼吸置いて、リルは自分の事を”弓”と言った。


「そうでしたか……我々は魔法使い様を助けに来ました」


 男は片膝を付くと、リルに頭を下げた。


「誰に頼まれた?」


 リルは直ぐに聞き返す。


「我々の意志です……魔法使い様は、我がモネコストロにおいて大切なお方、やがて訪れる新しい世界を導く希望なのです」


 ”新しい世界”その言葉が気にはなったが、リルは敢えて考えない様にした。この状況では味方は少しでも多い方がいい。


「私が合図するまで、動くな」


 それだけ言うと、リルはまた十四郎の方に視線を向けた。


______________________



 急にローボが立ち止まる。


「どうしたのローボ?」


 直ぐにシルフィーが問い、アルフィンが焦りの表情を浮かべた。


「もう直ぐなのに、どうして?」


「我々の他に近付く者がいる……数は、そう……百以上」


「何処の兵ですか?」


 シルフィーの問いに、ローボは怪しく笑った。


「敵になら隠れて近付く必要はない。多分……十四郎を助けようとする勢力……但し、騎士ではないようだ」


「味方なの? 何者なんですか?!」


 更にアルフィンが声を上げる。見てもいないのに、何故分かるのかという疑問が頭を駆け抜ける。シルフィーはローボの慧眼に改めて驚く、それは正に”神”の領域だと少し背中を悪寒が走った。


「さあな……ただ、面白くなったのは確かだ……ルー、敵を分断しろ。後方の敵を近付けるな」


 直ぐにローボはルーに指示した。


「父上は?」


「十四郎の所へは私だけでいい」


「分かりました……続け!」


 ルーは全ての狼を引き連れ、敵を分断する為に移動を開始した。


「一人で大丈夫なの?」


 アルフィンの心配そうな声に、ローボの代わりにシルフィーが答えた。


「大丈夫、アルフィン……ローボが”神獣”と呼ばれてる訳が分かるよ」


 それぞれの思いが交錯する場所で、事態が弾ける瞬間が迫っていた。


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