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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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ミランダ砦攻防戦 8

 リルの背中はココに不思議な感覚を抱かせる。身を屈め十四郎を凝視してはいるが、その場を動こうとはしない。


 十四郎が刀を捨てた時点でココは飛び出すつもりだった、当然リルもそうすると思ったが、リルはじっと動かなかった。


「どうした? 何故動かない?」


 ココの問いに、一呼吸置いてリルは小さく呟いた。


「十四郎は時を見てと言った……今はその時ではない」


「しかし、剣を捨てた。今しかない」


 身を乗り出すココに振り返るリルの目は、とても澄んでいた。


「まだ……それに、あの女……気付いてる」


 今度は遠く七子を見る。ココも目を凝らすと、確かに七子はこちらに気付いている様子だった。


「確かにな……流石に魔法使いと呼ばれる事はある」


 ココは感心するが、リルは視線を強めた。


「十四郎に仇なす女……」


「お前、まさか……」


 ココはリルの視線の先にいる七子を見据えた。しかし、リルは急に穏やかな表情をココに向けた。それは紛れもなく、幼かった頃のリルの顔だった。


「あの女が全ての元凶……倒さなければ終わらない」


 リルの落ち着いた言動と態度は、ココの中の不安を払拭した。


「確かにそうだな……で、どうする?」


「気配は感じても、人数までは把握出来てない……私が気を引きつける、ココは反対側に回って」


「分かった」


 頷いたココは身を屈め森の奥へと消える、その後ろ姿はとても嬉しそうだった。だが、見送ったリルは急に表情を変える。その顔は憎悪に満ち、怒りは全身を震わせていた。


__________________________



「アルフィン、様子がおかしい」


 走り出して暫くすると、シルフィーが表情を変えた。アルフィンには直ぐに分からなかったが、神経を集中すると確かに周囲に気配を感じた。


「付いてきてる……」


 その気配は悪意に満ち、敵である事は明らかだった。咄嗟に打開策を考えるが、焦りがアルフィンの考えを邪魔して、まとまらなかった。しかし、直ぐにシルフィーが真剣な声で叫ぶ。


「私が囮になる、アルフィンは先を急いで!」


「友達を囮になんか出来ない」


 少し笑った声で、アルフィンは返事した。”友達”って言葉がシルフィーの胸を締め付け、返す言葉が出ない。


「一緒に乗り切ろう!」


 アルフィンがまた叫んだ瞬間、前方を遮る陰に二人? は急停止した。そこには数頭の狼が鋭い視線で睨み、気配に振り向くと後方にも数頭が迫っていた。道は狭い一本道、横は無数の木々が生い茂り、体の大きな二人? は進めない。


「血路を開く、私が先にっ!」


 シルフィーが叫んだ瞬間、アルフィンが先に飛び出した。ダッシュではアルフィンに敵わない、一瞬遅れたシルフィーも先頭の狼に突進した。しかし、迫るアルフィンやシルフィーに狼は全く動じず、低く構えて唸り声を上げる。


 狼の脳裏では強烈な前脚の蹄を避けると同時に、首筋に牙を突き刺すシュミレーションが完成していた。アルフィンの前脚が迫る! 狼は最小限の動きで避けるはずだったが、次の瞬間に物凄い衝撃で斜め方向に弾き飛ばされた。


「何っ!!」


 一瞬で考えられるのは、それだけだった。頭で考える前にアルフィンは前脚の軌道を微妙に変えていた、後方で目の当たりにしたシルフィーは目を丸くしながらも叫ぶ。


「アルフィン! そのまま突き切って!」


 その声に答える様にアルフィンは横の狼を蹴飛ばし、シルフィーも負けじと狼達を薙ぎ倒す。しかし、怯むどころか狼達は次々と目前に現れた。だが、アルフィンとシルフィーの動きは狼達を完全に凌駕していた。


 本来集団戦の得意な狼達を二人? のスピードと破壊力で翻弄していた。だが一瞬でも気を抜き、牙や爪を一撃でも喰えば形勢は簡単に逆転される。負傷によるスピードの低下は即、終わりを意味する。


 如何にアルフィンやシルフィーの体力がズバ抜けていても、限界は訪れる。その瞬間は早くもやって来た……スピードや破壊力で勝っても持久力で狼に敵うはずもない。


「どうした? もう終わりか?」


 一瞬間を取り、狼達が牙を光らせて笑った。その一瞬が二人の体力の限界を悟らせる。動いている時は気にならないが、止まると自分の呼吸が激しく乱れている事に気付いた。


「アルフィン……大丈夫?」


「ええ……まだ、行ける」


 息切れするシルフィーに、同じく息を乱したアルフィンが答えた。一瞬の間は、動きが止まった二人? に更に追い打ちを掛けた。狼達に包囲の輪を縮める隙を与えたのだった。


 背中合わせ? の二人 は息を整えながら脳裏で打開策を巡らせるが、時間の経過と共に道は閉ざされていった。


____________________________



「動けるのは何人ですか?」


 座り込むロスに、フォトナーが沈みがちな声を掛けた。


「何人だと? 全員に決まってる」


 鋭く見上げたロスは、精いっぱいの声を荒げた。聞かなくても分かる疲弊状態だったが、敢えてフォトナーは聞いてみた。今度押し込まれたら砦の陥落は必至で、最後の攻防にせめて覇気が欲しかったから。


「そうですか……砦の守備隊は殆どが負傷か戦死です……敵の攻撃に変化は見えません……ラモス様の作戦も……」


 弱気がフォトナーを包む、言葉の内容が乱れる心情を物語っていた。


「お前は指揮官や部下を信じないのか?」


 よろよろと立ち上がったロスは、強い視線でフォトナーを睨んだ。言葉を返す前に、ロスは続ける。


「我が近衛騎士団は精鋭だ。最後の一兵まで戦い、最後まで諦めない」


 その言葉はその場の兵士達にも聞こえる位に大ききかった。兵士達はロスの言葉に呼応し、歓声を上げる。フォトナーは苦笑いすると、改めてロスを見てココロの中で謝罪した。


 その時、見張りの兵が血相を変え飛び込んで来た。


「敵に動きがあります! 攻撃を中断、後方に下がりました!」


「退却かっ!」


 直ぐにフォトナーが大声で聞き返す。


「いいえ! 距離を取り待機している様です」


「索敵を出せっ! 動きを探れ!」


「はっ!」


 振り向いたフォトナーは、ロスに笑顔を向けた。


「敵が猶予をくれました。こちらも一休みしましょう」


「一休みの後は?」


 ロスも笑顔を返す。


「勿論、最後まで戦います」


 希望と言う光が、フォトナーを微かに照らした。


___________________________



「ベルッキオ様、討死!」


 リーオの元に伝令が駆け付けた。一瞬で脳裏に青いマントが浮かぶ。


「誰にやられた!」


「相手はモネコストロの魔法使い、盾ごと斬られました……」


 伝令の言葉はリーオを恐怖に突き落とし、全身から脂汗を流させた。


「まさか……」


 リーオには次のシナリオが浮かぶ。優勢な戦いも将を失った事で軍勢は浮足立ち、逆に劣勢な敵は息を吹き返し反攻に出る。決断は速い、リーオは直ぐに側近に指令を出した。


「一旦引く、距離を取り態勢を立て直せ! 敵襲に備えよ!」


 同時に思考は撤退へと傾く。生き延びるには砦を落とすか、退却しかない。後方には強大な敵が居ても所詮は領地内、数は知れている。


 砦攻撃で味方の兵を損耗するのは得策ではない、驚異は唯一つ……脳裏には青いマントしかなかった。


「リーオ様、敵に気取られる前に攻撃続行を! 一気に押し切りましょう」


 副官の言葉にリーオは首を振った。


「私の役目は我が軍の兵を一人でも多く、国に連れて帰る事だ」


「はっ……」


 副官は首を垂れた。誰もが口にしないだけで、砦攻撃の無意味さを知っていた。命令は母国からではなく、アルマンニの魔法使いによるものだったから……。


「後方を確かめる! 手練れの騎兵を集めよ」


 改めてリーオは号令を掛けた。


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