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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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ミランダ砦攻防戦 7 

「十四郎様、あそこ」


 崖を登ると遠きくにビアンカ達を見付けたココが、真っ先に報告した。遠目にも縛られている様に見える。確認が早いか、十四郎は飛び出そうとするが、強い力でココに腕を掴まれる。


「今行けば、終わりです……」


「終わらせるの簡単……」


 声を押し殺し、リルが見据えた。しかし、その時、七子の声が周囲に木霊した。


「出て来い、用があるのはお前だけだ!」


 振り向いた十四郎は、ココとリルに微笑んだ。


「二人は時を見て援護して下さい」


「しかし……」


 ココは食い下がるが、リルは黙って頷いた。


「リル! 何とか言え!」


「私は十四郎を信じる」


 ココの叫びには見向きもせず、リルは十四郎だけを見詰めた。十四郎は軽く会釈すると、真っ直ぐにビアンカ達の元に向かった。


______________________



「十四郎……」


 衝撃だった、十四郎が来た。青いマントを翻して……それは、胸を締め付ける”嬉しさ”が深層を現す。しかし、同時に自分が囮となった事が、違う痛みでビアンカの胸を貫いた。


「人質は解放してもらえませんか?」


 歩み寄る十四郎は、穏やかな声を七子に向けた。


「そうだな……この中で、誰が一番大切だ?」


 一瞬考えた七子は、ビアンカ達を見た。ビアンカの脳裏に七子の言った言葉が蘇る……一番大切な者を奪う悲しみと苦しみを、十四郎に味あわせようとしているのは明らかだった。


「私に決まってるだろ!」


 急にリズが大声を上げた。ビアンカは一瞬で悟る、リズが自分を犠牲にしようとしている事を。


「皆さん、大事です」


 十四郎は落ち着いた声で言った。


「ほう、私はこの女を餌にしたつもりなんだが」


 七子の視線の先には、血の出る様に睨むビアンカの姿があった。しかし、事態は七子の思惑に反して違う方向に進む。


「魔法使い殿、砦攻略はあなたの指示、こんな場所で何をしておられる?」


 そこには怒りの表情で七子を睨むベルッキオの姿があった。露骨に嫌な顔をした七子が、面倒そうに答えた。


「補給線を断とうとした敵を殲滅していた」


「そんな事、命令を下されば私が……はて、その者は?」


 七子を睨んだままのベルッキオは、途中で十四郎に気付く。正体など、知ってはいたが。


「この者は……それより指揮官が何故、前線を離れた?」


 聞き返す七子は、強い口調だった。


「あの程度の城門、リーオに任せておけば直ぐに落ちます。私は魔法使い殿の事が気掛かりで、なにしろアルマンニ皇帝より、仰せ付かっていますゆえ」


 わざと大仰な態度で、ベルッキオは謙った。


「ならば、もう気が済んだであろう。ここはもういい、前戦に戻られるがよい」


 周囲の兵に指示を出しながら、七子はベルッキオに背中を向けた。


「お待ち下さい。私も騎士の端くれ、最強と噂のモネコストロの魔法使い殿と手合せしたのですが?」


 早々に馬を降り、強い視線を七子に向けたままベルッキオは、十四郎に近付いた。


「戯言を……」


 失笑の様な七子の態度は、ベルッキオの怒りに油を注いだ。


「私が負けるとでも?」


 最早その声は、怒りを通り越していた。周囲を殺気が包む、ビアンカ達も喉がカラカラに乾いて言葉も出ない。


「好きにしろ」


 吐き捨てた七子は、馬を降り少し下がった場所に移動した。


「お手合わせ出来ますかな?」


 十四郎の前に仁王立ちになるベルッキオだったが、十四郎は顔色一つ変えない。


「あなたが指揮官殿ですか?」


「如何にも。まあ、総指揮官はこちらのアルマンニの魔法使い殿ですが」


「私が勝てば、他の者は解放して頂けますか?」


 穏やかな十四郎の言葉が、余計にベルッキオの怒りを増長させる。自分が勝つ事を確定事項の様に言われれば、騎士のプライドは当然引き裂かれる。


「よかろう。ただし勝負は決闘だ。勝敗はどちらかが死ぬまで」


 物凄い形相でベルッキオは十四郎を睨み付ける。


「分かりました」


 十四郎は前に出ると、小さく一礼した。


_________________________



「ベルッキオは基本的な騎士のスタイル! 盾で防御、剣で攻撃! ただ、両方達人なんです!」


 構える十四郎にラモスが叫んだ。確かに殺気は只者ではない。大きめの盾で半身を隠し、巨大なクレイモアを軽々と持っている。


 十四郎が勝つとビアンカは信じていたが、敵に取り囲まれ最悪な状況は思考を混乱させ、言葉を失わせた。


 十四郎は刀を構えると打ち込めそうな場所を探すが、盾を大きく前に出したベルッキオは体全体が盾の陰に隠れる様に見えた。


 先に動いたのはベルッキオはだった。全面に盾を押し出し、十四郎の視界から身を隠し、遠近感を麻痺させながら、豪快にクレイモアを振り下ろす。斜め上で受けると、猛烈な圧力が十四郎の両腕に掛かる。


 そのまま盾が目前に迫ると、ベルッキオの体が一瞬視界から消え、次の瞬間に真横からクレイモアが薙ぎ払われた。切先を下にして縦で受けた十四郎は、脚で踏ん張るが地面ごと横に弾かれる。


 しかし、その威力を受け流すには、そのまま横に跳ぶしかなかったが、激速で返したクレイモアが今度は反対側から十四郎を襲った。


 十四郎も神速で刀を返すとクレイモアを下から受け流し、一瞬見えたベルッキオの肩口にそのまま振り下ろす。


 しかし、そこには直ぐに盾の壁ができ、刀を弾き返した。だが、十四郎は攻撃の最中にも横腹の隙間を見付け、弾かれた刀をそのまま振り下ろす。しかし、またもや盾の壁が防ぎ刀を弾き返した。


 その状態から十四郎は一旦下がり、今度は攻勢に出る。ベルッキオがクレイモアを振れない位の上下左右からの連続攻撃、しかしベルッキオの盾は全てを防御した。


「なんて速さだ、目が追い付かない……」


 唖然と呟くラモスに、リズが続ける。ビアンカは目を見開くだけで、言葉がずっと出ないでいた。ただ、胸を刺す痛みが、永遠の様に続くだけだった。


「十四郎様の剣が、段々早くなってる……」


 十四郎の刀の動きがベルッキオの盾を凌駕しそうになった時、十四郎は急に下がり距離を取った。


「流石だ……しかし、お前の攻撃は通用しない」


 ベルッキオは体制を整えると、少し腰を落とし次の攻撃に備える。頭の中で、十四郎の攻撃をシュミレートしながら。


 十四郎は刀を右横に構えると、体制を低くし右足を踏ん張る。両者の動きが一瞬止まる、ひと時の間がビアンカの心臓を鷲掴みにした。


 先に十四郎が動いた。素早く小さく左足を踏み出す、横から刀を振るう。しかし、間合いは完全に遠く、ベルッキオに閃きが走る。


 盾を引き加減で刀を受けると瞬時に判断し、受けるのではなく受け流し体制が乱れた所に渾身のクレイモアをお見舞いすると決めた。


 十四郎は刀を振りながら、鍔付近の右手を柄頭の左手付近まで下げて持つ。そのまま腰を捻りながらの渾身の横薙ぎを見舞った。切先が盾を霞める、盾を持つベルッキオの腕の感覚に経験した事の無い衝撃が走った。


 一旦振り切った十四郎は電光石火で刀を返すと、そのまま右手を鍔付近に戻し、もう一度地面を蹴ると今度はやや下方から切り上げる。


 十四郎が振り切った時点で、クレイモアを振り下ろそうとしたベルッキオの腰付近に激痛が走りクレイモアが振り下ろせない。瞬間、ベルッキオが目にしたのは地面に落ちていく盾の下半分だった。


 下方から切り上げると、ベルッキオの上半身が血飛沫を撒き散らし、再度刀を返して袈裟切りにした。そのまま背中を向けた十四郎が刀の血を払うと、ベルッキオは前向きに倒れた。


「盾を切った……」


 リズの唖然とした呟きに、ラモスが言葉を被せた。


「最初の横薙ぎで盾を切り、二度目に身体を切り……最後に止めを刺した」


「だから言ったんだ……さて、刀を捨ててもらおうか」


 驚いた表情も見せず、七子が十四郎を睨んだ。


「他の者は解放して頂けるのでは?」


「約束はあの者とで、私には関係ない。お前が大人しくすれば、他の者には危害は加えない」


「分かりました」


 十四郎は刀を捨てた。すかさずビアンカが叫ぶ。


「十四郎! 戦って! 私達の事はいいから!」


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