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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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ミランダ砦攻防戦 6

一人づつじゃないと通れない岩の裂け目を登り、崖の上に出ると目指す場所までは少しの距離だった。気配を消しながら細心で近付き、体制が整うとラモスが号令を掛ける。


 ビアンカ達は一斉に馬車の集団に向けて走り出した。剣を抜いたビアンカは前の相手の剣を受けた体制から、横の男に回し蹴りを食らわす。


 その勢いのまま剣を返すと、もう一度剣を合わせ、前の男を前蹴りで倒した。


「ビアンカ! 何してるの!」


 同じ様に切り込んだリズが叫んだ。今は相手を気絶させてる余裕なんかない、この二人は確実に命を奪えた。それなのに、ビアンカは無理やりに気絶させる道を選んだのだ。


「ビアンカ殿!!」


 リズの大声を出され、ビアンカの動きが一瞬止まる。そこに数人の敵が押し寄せる、刹那、叫びながらラモスが間に入るが、二人を倒すのが精一杯で肩口を切られた。膝を付き、傷口を抑えるラモスを今度はリズが援護して事無きを得た。


「しっかりしなさいっ!」


 リズはまた叫ぶと混戦の中に戻る。


「ビアンカ殿、何を躊躇っている!」


 見上げたラモスの後ろで、味方の兵が血に染まり倒れる。ビアンカもまた葛藤していた、十四郎の行動は間違ってはいない。だが、そこには”平時”と言う前置きが付く……戦時におけるその様な行動は、自己満足でしかないのか……。


 体が震え動きは止まる、目前では次々に味方が血に染まり倒れて行く。


「ビアンカ! 好きにやりなさいっ! 十四郎様みたいにやりたいんでしょ!」


 リズは戦いながら叫ぶ。


「十四郎……」


 呟くビアンカの脳裏に、また十四郎が浮かぶ……自分でも十四郎の様に戦いたいと思っていた。訓練でも、相手の命を奪わず戦闘力だけを奪う練習を続けていた。


「お願いっ! 今は集中してっ!」


 更にリズが叫ぶ、そのリズが数人の兵に取り囲まれる。ビアンカの体に電流が走る、考える前に体が動いた。ビアンカが最強と呼ばれる所以、剣先が見えない突きは瞬時に敵兵を倒す。


「ビアンカ……」


 倒れた兵の前で立ち尽くすビアンカの背中に、リズが声を震わせた。


「今までの訓練で私が得たのは……人を殺す技……十四郎の様に人を生かす剣など振るえない……でも、目の前で友達を失うなんて出来ない」


 ビアンカの震える声はリズには聞こえなかったが、その様子に声を失った。ビアンカは次々に敵を倒す、煌めく剣捌きは一瞬で命を”物”へと変えた。


 味方の数は半分に減ったが、反対側に回った隊が戦いに加われば、勝算は十分にあった。


 だが、幾ら待っても反対側からの味方は現れない。焦りを覚えたリズが、ラモスに叫んだ。


「味方はまだですか!」


「こちらの突入と同時に、行動を起こす手筈なんだが……」


 負傷しながらも奮戦するラモスが、苦痛に顔を歪めながら言葉を吐いた。そして、味方の兵が馬車に登り、水の入った樽を落とすとラモスの顔が凍り付いた。その樽は空で、何も入っていなかったのだ。


「どう言う事だ!」


 叫んだ味方の兵は次々に樽を落とすが、どれも空だった。ビアンカは一瞬で悟った”罠”だと。


「ラモス殿! 撤退を!」


 ビアンカが叫ぶと同時に、馬車に乗った味方の兵に数本の矢が刺さる。身構えるビアンカ達の前に、数十騎の騎馬隊が現れた。残る味方はリズやラモスを合わせても数人。そこにまた、後方からも騎馬隊が迫った。


 そしてその先頭には、黒装束の七子が不敵に笑っていた。


「武器を捨てろ、応援は全滅した」


 多勢に無勢、ビアンカ達は剣を捨てた。リズは、すかさずラモスに肩を貸した。直ぐに全員が後ろ手に縛られ、七子の前に並ばされた。


「目的は何だ?……」


 強い視線でビアンカは七子を睨む、更に強く睨み返した七子は薄笑みを浮かべた。


「知れた事、今度はお前が餌だ」


「十四郎は来ない!」


 胸が張り裂けそうだった、叫んだ声も震えていた。


「残念だな、もう向かってる」


 七子の言葉は複雑にビアンカのココロを乱す。嬉しさと悲しさ、怒りと後悔が入り乱れ呼吸さえ困難になった。


__________________________



「十四郎、どうしたんですか?」


 走りながらアルフィンは、十四郎の異変に気付いた。


「大丈夫ですよ」


「大丈夫じゃありません! 変です十四郎」


「すみません」


「しっかりして下さい! あなたが頼りなんですよ」


 答えない十四郎にアルフィンは不安なココロが頭をもたげるが、心の中ではきっと大丈夫だと思っていた。それは希望的観測ではなく、確信だった。


 やがてフォトナーが示した場所に近付くと、アルフィンが声を上げた。


「シルフィーが近くにいます!」


 そこから少し進んだ岩陰に、シルフィーや他の馬達がいた。駆け寄ったアルフィンに、直ぐに気付いたシルフィーが叫んだ。


「十四郎、アルフィン! 来てくれたの!」


「シルフィー殿、ビアンカ殿は?!」


「あそこの崖を登って行ってしまって……」


 十四郎の問いに、シルフィーが声を落とす。流石に崖は険しい高さと角度で、アルフィンでも無理そうだった。


「シルフィー殿、必ずビアンカ殿を助けます。アルフィン殿と、ここで待っていて下さい」


 最後の言葉はアルフィンに向け、十四郎はぎこちなく笑った。


「十四郎様、こちらです」


 ココが崖を登る道を見付け、十四郎を呼んだ。その背中を不安そうに見詰めるアルフィンは自分では気付かないが、泣きそうな顔をしていた。シルフィーは、自分も不安で一杯だが優しく声を掛けた。


「十四郎が来てくれたから、ビアンカはきっと大丈夫」


「シルフィー……」


 アルフィンは、シルフィーの気持ちが痛い程分かった。自分の何倍も不安だろうと考えると、気丈なシルフィーが切なかった。


「さっき争う声が、風に乗って聞こえた……」


 しかし、アルフィンの顔を見て安心したのか、シルフィーは声を震わせた。


「数は見当付く?」


「凄い数……幾ら十四郎でも……」


 アルフィンの問い掛けに、更にシルフィーの声が揺れた。


「行こう、シルフィー」


 アルフィンは、崖と反対側を見た。シルフィーは少し体を震わせ、視線を落とす。


「無理だよ……迂回する道はない……ここが、行き止まりなの」


「違うよ、応援を呼びに行くの」


 アルフィンの言葉に、シルフィーは全身の血が沸くのを感じた。


「まさか……」


「そのまさか」


「分かった、私達に出来ることをしよう」


 アルフィンとシルフィーは、元来た道を全力で走り出した。


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