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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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ミランダ砦攻防戦 5

砦の中庭には多くの血痕が点在し、血の匂いが充満していた。正面の城門も下方には血痕が付着し、その構造を見た十四郎はフォトナーに聞く。


「関門即賊ですね」


「カンモンソクゾク?」


 不思議そうにフォトナーが聞き返す。


「門を開け、賊を招き入れた後に門を閉じ、退路を断って殲滅する」


「その通りです」


 周囲を見ただけで言い当てる十四郎にも驚いたが、傷ついた周囲の騎士達を見ながらの十四郎の言葉に更に驚愕したフォトナーだった。


「後、二三回が限度ではないでしょうか……相手はワザと策略に乗り、こちらの戦力を削ぎながら城門を突破する。突破された時点で、防御力は残ってない様に見えます」


「確かに仰る通りですが、あと数回耐えれば、ビアンカ様達がきっと敵の補給線を断ちます……まだ、望みはあります」


 一縷の望みに掛け、フォトナーは疲弊した騎士達を見た。


「そうですね……ココ殿、リル殿、援護をお願いします」


「分かりました」


 城門に向かう十四郎にココとリルは付き従う。


「何をするつもりですか?」


「時間稼ぎです」


 振り向いた十四郎は、少し笑った。その笑顔はフォトナーに不思議な期待感をもたらせた。


 城壁の天辺に登ると、その高さは想像以上だった。しかし、十四郎は適当な縄を見付けて来て、近くの兵士に頼んだ。


「降りますので、持っていて下さい。登る時にはまた、引いて下さいね」


 唖然とする兵士に、フォトナーが叫ぶ。


「魔法使い様の仰る通りにしろ!」


 二三人が縄を持つと、十四郎は壁面に向かう。すかさずココとリルが援護の矢を射る。上からとは言え、ココとリルは倍以上の射程距離で敵の弓手を次々に倒す。見ていたフォトナーが唖然と呟いた。


「まさか……銀の双弓……」


 敵の弓が治まると、十四郎は軽快に城壁を降りた。敵兵が、あっと言う間に取り囲む。しかし、ココとリルの弓が次々と敵兵を倒した。


 十四郎は刀を抜くと破城槌に迫る。多くの敵兵が十四郎目掛けて殺到するが、ココとリルの矢は確実に周囲の敵を殲滅する。しかし圧倒的数の敵兵に、砦の中からも矢を射ろうとする弓手が出た。


「やめろ! 十四郎様に当たる!」


 大声でココが怒鳴る。確かにココ達の様に的確に射るのは不可能で、弓手達は構えた弓を下ろした。


「十四郎の近く以外の敵を狙って!」


 リルの叫びは弓手達を活気付け、思わずココは苦笑いする。


 十四郎は破城槌を持つ敵兵を、あり得ない速さで次々と倒すと横に回った。そして大上段に構えると一気に振り下ろす。


「まさか、切る気じゃないだろうな?」


 少し声を震わせたフォトナーの言葉が終わらないうちに、破城槌は真っ二つに切れ地面に転がった。


「何だあの切れ味……野菜でも切るみたいに、あの丸太を……」


 声だけじゃなく、体を震わせフォトナーが呟く。ただ、驚くのはまだ早かった。十四郎は、素早く次の破城槌の前に移動すると、敵を倒す動作と一連に刀を振るった。またしても真っ二つになる破城槌に敵だけでなく味方も唖然となった。


______________________



「何が起こっている?!」


 城門の前で悲鳴と歓声が上がり、味方が混乱している状況を見てベルッキオが立ち上がった。


「見て参ります」


 素早くリーオが前線に向かうが、目にした光景に立ちすくんだ。それは青いマントの男が、破城槌を真っ二つに切る所だった。


「何者なんだ……」


 言葉はそれしか出なかったが、周囲の兵士が口々に”モンテカルロスの魔法使い”と口走り状況をなんとか把握出来た。しかし、破城槌を切るだけではない、十四郎の動きはリーオを金縛りにする。


 兵達は十四郎の刀の位置に、まるで吸い込まれる様に剣や槍を規則正しく振ってる様に見える。それは芝居の殺陣みたいに、予め決まった動きをしていると疑いたくなる位に。


 そして、倒される兵は痛みなど感じる間もなく倒されてる様に見える。しかも鎧で完全武装のはずなのに、十四郎の刀が通り過ぎる度に味方は倒れる。


 リーオは十四郎が離れると倒れた兵に駆け寄り、傷を見た。鎧には肩にかけ大きな切り傷が付いていたが、体までは切れていない。脈を取ると、その兵士は生きていた。だが、何度揺り動かしても兵士は起きなかった。


「何故なんだ?!」


 鎧を脱がし、肩に手を当てると鎖骨が折れていた。凄まじい刀の勢いで、骨が砕け気を失っていたのだ。


「直ぐには起きません」


 リーオは背後からの声に戦慄した、ゆっくり振り返ると十四郎が立っていた。その穏やかな顔は、更に恐怖を連れて来る。


「お前は、魔法使いなのか?……」


「引いてはもらえませんか?」


 リーオの問いには答えず、十四郎は悲しそうな顔で言った。


「何を……」


 それ以上言葉が出ない。その時、リーオが危機と味方の兵が押し寄せる。十四郎は踵を返すと、目にも止まらなぬ速さで刀を振るい、次々に倒して行った。そして、最後の破城槌を真っ二つに切ると城壁に向かって走り去った。


 その背中には純白の蝶が躍る、リーオには一つだけ分かった……決して、敵にしてはいけない”者”だと。


_______________________



 城壁に着くと縄が降りてくる。十四郎は掴むと刀を咥え、登り始める。それまで動けなかった弓手が一斉に矢を放つが、振り向き様に片手で縄を掴み、片手で刀を振るうと大半の矢を叩き落とした。


 イレギュラーな矢は、城壁を蹴り寸前で身を躱した。


「援護せよ!」


 ココの叫びで砦から一斉に反撃の矢が放たれ、その隙に十四郎は簡単に壁を登った。


「ご無事で」


 直ぐにココが駆け寄り、片膝を付く。


「無茶は駄目だと教えたのは、あなたです」


 十四郎に顔を近づけて、リルは言う。


「リル! 下がれ!」


 ココの大声でも、リルは下がらない。


「師匠に言ったはず、躊躇わず斬ると」


 リルの言葉は胸に染みた。十四郎は俯くと言葉を絞り出した。


「私は弱い人間です……もう、人を殺めたくない……人を殺めるのが怖い……」


「あなたが生かした兵達は傷が治れば、また戦に加わり……私達の同胞を殺します」


 リルは悲しそうな顔で十四郎を見詰めた。十四郎は葛藤していた、ココロの中で叫んでいた。


 ”殺せない事が、いけない事なのか? 殺せないと悩む事が悪い事なのか”……しかし、もう一人の自分が強い視線で十四郎を睨む。


(ならば、戦いの無い世界を作ればいい……だが、その為には多くの命を奪わなければならない……お前が何もしないなら、命は奪われ続けるだろう)


「十四郎様! 今は悩んでる時ではありません。ビアンカ様をお救いしなければならないのです」


 ココの叫びに十四郎は現実に引き戻される。何の為にここまで来たか? 今やるべき事は何なのか?。


「出来ますか?」


 またリルは悲しい顔をした。


「分かりません……」


 十四郎はリルの目を見た後、小さく呟いた。リルはそれ以上は言わず、目を伏せた。


「フォトナー殿に場所を聞いて参ります」


 直ぐにココはフォトナーの所へ走った。


_____________________



 フォトナーは地図を出し、指さした。


「おそらく、この辺りではないかと」


「この辺りなら分かります」


 直ぐ様ココは十四郎の元に向かい、十四郎に場所を告げた。


「行きましょう」


 十四郎は黙って頷くと、ビアンカの元へと出発した。


 見送ったフォトナーには、さっきまでの緊張感は無くなっていた。この人が居れば何とかなるんじゃないか? そんな気持ちが沸き上がり、持ち場に戻ると改めて部下に訓示した。


「魔法使い様が来て下さった、大丈夫だ! この戦いは我々が勝利する!」



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