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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第二章 揺籃
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ミランダ砦攻防戦 3

一度家に戻ると、十四郎の恰好にメグとケイトは目を丸くした。


「十四郎、素敵、その鎧どうしたの?」


 嬉しそうなメグが、新品の鎧に目を輝かす。


「これは、マルコス殿が……それより、ケイト殿、メグ殿……」


 十四郎は視線を落とし、言葉を詰まらせる。


「また、行くのですね」


 ケイトは直ぐに察したが、その言葉は穏やかだった。


「はい、ビアンカ殿をお手伝いに」


「行くって、十四郎……帰ったばかりだよ」


 笑顔が、あっと言う間に曇ったメグは、もう泣きそうな顔になっている。


「それは……」


 十四郎はまた言葉を詰まらせるが、直ぐにケイトが助け舟を出した。


「メグ……ビアンカさんが困ってるの。十四郎さんは、そのお手伝いに行くのよ。ビアンカさん、この前メグとの約束、守ってくれたでしょ」


「……」


 メグは十四郎の袖を無言で持ち、俯いた。十四郎も何と言っていいか分からず、お互いが言葉を無くした。


「はっきり意志を伝えるんだ。メグは賢い子だ、きっと分かってくれる」


 近付いたアミラが、十四郎を真っ直ぐ見詰めた。目線の下でメグは微かに震えている、十四郎はアミラに押された背中が暖かく感じた。


「メグ殿、行かなければなりません。ビアンカ殿を助けに」


 言葉を変えた”手伝い”から”助け”に。それは子供に対しての誤魔化しではなく、一人前の人としてメグに対する礼儀だと考えた。顔を上げたメグが、涙で潤んだ瞳で十四郎を見上げる。


「……帰ってきてよ」


「はい」


 短い言葉のやり取りでも、互いのココロが通じてる事が分かる。それ以上言葉はいらない、抱き締め合うだけで良かった。


_______________________________



 アルフィンの待つ馬小屋に向かう時、十四郎は前からの疑問をアミラに聞いた。


「アミラ殿は人の言葉が完全に分かるのですか?」


「ああ、そうだな……メグは沢山、俺に話し掛けてくれた、ケイトもだ……だからかな、いつの間にか覚えてたよ」


「そうですか……」


 メグやケイトが、どれ程アミラを愛していたか、どれ程大切に思っていたか、十四郎には手に取る様に分かった。


「それでは行って来ます」


 十四郎は青いマントを翻すと、アルフィンに跨った。メグやケイト、アミラが笑顔で見送ると、途中でメグが走り名柄叫んだ。


「アルフィン! 十四郎をお願いね!」


 その声を背中で聞きながら、十四郎はアルフィンに聞いた。


「アルフィン殿、メグ殿が何と言ったか分かりますか?」


「勿論。メグやケイトは、いつも話し掛けてくれるので」


 嬉しそうにアルフィンは答えた、十四郎は大きく息を吐くと、自然と笑顔になった。


 途中からココとリルも加わり、アルフィンは速度を上げる。勿論、付いて来るココ達の馬に合わせる事は忘れずに。


_________________________



 案内役の村人の示す道は、シルフィーさえも驚かせた。大きく砦を迂回し、道さえ無い森の中を抜け、断崖を通ると険しい岩山の間を進んだ。


 夕方まで仮眠を取ったとは言え、疲れの抜け切れてない体には少々きつかった。振り向いて見るリズも、馬上でボンやりしていた。しかし、他の者達は一糸乱れぬ行動で列を作る。


 ビアンカは、強く目を閉じた後、気合を入れる様に深呼吸した。そして、夜更けに入ると行軍の速度は落ち、先頭を行く案内人は慎重に道を選ぶ。やがて、岩山の麓で止まると、小休止を促した。


「ビアンカ殿、ここで小休止した後、二手に分かれ襲撃地点に向かいます」


 近付いて来たラモスが告げると、ビアンカはどっと疲れに襲われたが、背筋を伸ばして答えた。


「分かりました。少しでも体を休め、備えます」


「ビアンカ、大丈夫?」


 リズが心配そうに声を掛ける。自分もフラフラなのにと、ビアンカは笑顔を向ける。


「ありがとう、リズ。大丈夫、とにかく休みましょう」


 リズを休ませてあげたい、ビアンカは素直に思った。


「水の入った樽の破壊を優先します。ビアンカ殿は、その援護を」


 ラモスは作戦の要項をを簡潔に告げた。


「お役に立てるよう、努力します」


 ビアンカの答えはリズに不思議な感覚をもたらす。控えめで謙虚な言葉の中にも、相手に対するリスペクトと使命感を感じられた。”成長したな”と、リズは自分の事のように嬉しかった。


 ラモスもビアンカの成長を微笑んで認めた。正しく、真っ直ぐ育ってくれた事を正直に嬉しく思った。また同時に、この娘を守らなければならないと言う、思いが体を包んだ。


「リズ……初めは私から離れないで」


 少し離れた場所で休憩しながら、ビアンカはそっと告げた。何を意味してるのか、リズに優しく伝わる。リズには初陣であり実戦経験は無い……ビアンカの心配そうな顔に、リズは微笑み返した。


「頼りにしてる……」


 それなりの自信はあったリズだったが、素直に頷いた。ビアンカは言葉を選べない自分に少し後悔したが、リズの優しさと聡明さに改めて感心した。


 迫る戦いの緊張を冷たい夜風に晒し、ビアンカはもう一度大きく深呼吸した。大きな月が視界を照らす、暗闇に慣れた目には十分だった。


 落ち着くと遠くの微かな音や、僅かな臭いも分かる……研ぎ澄まされた五感が、ビアンカに宿る。戦いを前に臆したりしない、自分は近衛最強の騎士。


 もう一度拳を握り締め、気合を入れ直したビアンカは、遥かな戦場を見詰めた。


_____________________



「もう待てん!」


 急に立ち上がったベルッキオが叫んだ。


「しかし、まだ準備が整ってません」


 直ぐにリーオが諌めるが、ベルッキオは聞く耳を持たない。


「何、小手調べだ……砦の戦力の分析でもある」


 本当は焦りが出始めていたベルッキオだった。それは、戦いを目前にしての撤退命令であり、猛将ベルッキオにとって、我慢出来ない醜態であった。


「夜戦になります、地の利がある敵が有利に……」


「だから夜戦なのだ、敵が油断してる隙を突く!」


 リーオの言葉を遮り、ベルッキオは号令を出す。夜戦の成功は敵が油断しているのが大前提である。相手が備えて待ち構えているのであれば、不利どころか最悪の事態も招きかねない。


 まして砦攻めの初戦、待ち構えているのは一目瞭然であり、だからこそ七子は城門突破兵器の運用に時間を割いていたのだ。


 リーオには理解出来ても、勇猛果敢な指揮官であるが短絡的なベルッキオの性格が災いした。


 命令は直ちに実行された、最早リーオでも止められない暴走で攻防戦の膜は切って落とされた。


______________________



「敵が城門に殺到して来ました」


 連絡を受けたフォトナーは、松明の準備を急がせた。


「打ち合わせ通り、落ち着いてやれば問題ない!」


 部下の士気は高い、各自が迅速にそれぞれの役割に付いた。


 先鋒隊が砦に近付くと、突然城門が上がる。一瞬、打って出ると身構えるが暗い城門の中に動きは見られない。


「突っ込め!」


 先鋒隊指揮官は、突撃を指示した。雪崩の様に歓声を上げながら、城門に突入するが僅か三十人程入った所で、城門は強制的に下ろされる。


「罠かっ!」


 リーオが後方で叫んだ時には、砦側の作戦が始まっていた。先鋒隊は暗闇の中、一か所に集まり、指揮官が声を上げた。


「周囲に警戒しろ、盾で防御態勢を……」


 言葉が終わらないうちに、矢が指揮官の喉を貫く。次の瞬間、一斉に松明が灯され雨の様に矢が降り注いだ。初めの攻撃で、半数近くが矢を受け更にその半分が死亡。間髪入れず、近衛騎士団が襲い掛かった。


 混乱する先鋒隊も反撃に出るが、勢いが違った。ふいを突かれ、戦力の半分を失った先鋒隊は成す術が無く全滅した。


 だが、初戦を圧倒した近衛騎士だったが、傍目でも分かる程に疲労困憊していた。如何に最強騎士の集団でも、実戦経験の少なさは直ぐに露呈する。


 訓練とは違う”命”を懸けた戦いは、体力減退よりも先に精神の疲労が顕著に訪れた。


「思ってたより早く、底が付きそうだ……」


 フォトナーは額の汗を拭い、肩で息をする近衛騎士団を見た。


_____________________



「罠です、敵は少しずつ此方の戦力を削ぐ作戦です」


 リーオの進言に、ベルッキオは不敵な笑みを漏らした。


「今、取り込まれたのは何人だ?」


「三十人位かと……」


 その言葉を聞いたベルッキオは大声で笑った。


「三十だと、こちらは二千だ。何十回、あんな作戦が出来る? 砦の敵は何人だ?」


 確かに幾ら少しづつ戦力を削っても、味方には圧倒的数がある。中にいる敵兵も、数が同等ならこんな戦い方はしない。むしろ、兵力は少ないと自分から言ってるみたいなものだ。


「数で押す! 賭けてもいい、敵は数回で力尽きる!」


 ベルッキオは叫ぶ、確かにリーオも同じ考えだった。罠に掛かったと見せ、同じ攻撃を繰り返せば敵は損耗し、その間に城門突破の道具も完成する……勝機はこちらにある。リーオは直ぐに次の攻撃命令を下した。



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