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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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聖域の森 12

 狼の乱入で形成は逆転に近かった。露骨に嫌な表情で七子はエルゴを睨むが、その嬉しそうな顔がエルゴの心理を現していた。


「全ての兵力を投入しろ! 俺も出る!」


 叫んだエルゴは剣を抜くと、天に翳した。将の鼓舞は即、士気に影響する。一時は押されても、兵力はまだ十分に余裕があった。男たちは手に手に武器を翳し、大声で叫んだ。その雄叫びは洞窟内に響き渡り、狼達を威圧した。


「本番はこれからだ」


 振り向いたローボは鈍く牙を光らせるが、十四郎は視線を地面に転がす。


「ブランカ殿を助けたら、直ぐに離脱を……」


「全て自分一人で背負うのか?」


「原因は私なんです……正しいと思った戦いでした……ですが、相手も同様に正しい戦いをしていたのです……結果、相手の大切な人を奪った私は……仇となりました」


 忘れたい過去、消したい傷が蘇る。逃れられない宿命が、また十四郎の傍に渦巻いた。


「それがどうした?」


 攻めるような口調でローボが睨む。


「私が皆を巻き込んだ……」


 重い石が背中から伸し掛かる、息が苦しい程に十四郎は俯いた。


「経緯はどうでもいい、奴らは大切なブランカをさらった。俺達が戦うのは、そう言う理由だ」


「……」


 言葉が出ない十四郎は、ただ拳を握り締めた。


「今、お前がやるべき事、やらないといけない事は、ただ一つだ」


 そう呟くと、ローボは遥か天を向き、壮大な遠吠えをした。洞窟に響き渡るその遠吠えは、盗賊達の雄叫びを凌駕し、凄まじい振動となって全空間を支配した。


 折れそうな十四郎のココロに届くその叫びは、腹の底から闘志を蘇らせる。失い掛けていた熱い血潮が沸騰した。


”今やるべき事”その言葉が脳裏に木霊する。刀を構えなおした十四郎は、改めて盗賊達に対峙した。横目でその様子を見たローボは、ニヤリと笑うと戦闘態勢に入った。


________________________



 遠くに遠吠えが聞こえた。ビアンカの胸に浸透したその雄叫びは、動かなくなりそうな体に

エネルギーを与えた。自分でも信じられない位に速く走り、あっと言う間にココ達の背中に追い付いた。


「ビカンカ様!」


「突入と同時に遠距離の敵を倒して!」


 驚くココにビアンカが支持を飛ばす。


「しかし、十四郎殿が殺すなと!」


「当たり前よ! 戦えなくするだけでいい! あなたもよ!」


 十四郎らしいとビアンカに笑みが零れた。こちらを見ようともしないリルに、ダメ押しで叫ぶ余裕も出来た。体はガタガタで息も絶え絶えでも、また力が溢れて来る。


 入口は目前だった、ビアンカは思い切り自分の頬を叩くと目を見開き、走り続けた。


___________________________



 入口に突入し、低い体勢で弓を構えるとココは標的を探す。リルも直ぐに構えるが、まるで防御の態勢を取らない。


「低く構えろ、直ぐに狙われるぞ!」


 ココの声はリルには届かず、そのまま走ってホールに向かった。


「待て! 待つんだ!!」


 慌てて追おうとするが、目の前には槍を振りかざした盗賊が迫った。腰の剣を抜き最初の一撃を受けるが、物凄い力で抑え付けられた。


「リルッ!!」


 叫んだ声は、ホールの天井に吸いこまれた。


____________________________



 ホールに入ると、ビアンカの目前に戦う十四郎が目に飛び込む。剣を抜くと一番近くの盗賊に向かう、勿論狙いは相手の剣を持つ腕で、素早く二の腕を切り裂いた。盗賊が剣を落とすと同時に顎を蹴り上げ、気絶させた。


「十四郎!」


 直ぐに十四郎の元に行きたいが、次々と襲って来る盗賊に流石のビアンカも手間取った。命を奪わず、戦闘力だけ奪う事の難しさを痛感する。なにせ、相手はこちらの命を奪う為に、死に物狂いで襲ってくるのだから。


 十四郎はビアンカの存在を確認すると、何故が嬉しい衝動に包まれた。しかも、ビアンカは相手を気絶させた……。ふっと口元で笑うと、目前の敵を超高速の峰打ちで倒した。


 ビアンカの腕は知っている。安心して戦いに専念できると思った矢先、男を押し倒すローボが視界に飛び込んだ。


「ローボ殿!! 駄目だっ!」


 男に伸し掛かり、首筋を食い千切ろうとしたローボに十四郎の叫びが炸裂した。一瞬止まったローボは、フッと息を吐くと前足で思い切り頭を殴り男を気絶させた。


「何なんだ、全く……」


 呆れた様に呟くと、ローボは他の狼に支持を出した。


「殺すな! 戦えなくしろ!」


「ローボ殿……」


 十四郎は目前の男に前蹴りを食らわせると、一旦動きを止めローボを見た。


「これでいいんだろ……ほら、後ろだ」


 牙を光らせ、笑うローボは十四郎の後ろから切り掛かる男を見た。頷いた十四郎は、また振り向かないまま刀を一閃、男はゆっくりと倒れた。


 狼が十四郎の声で殺すのを止めた、はっきりと目撃したビアンカは胸が熱くなる。襲い掛かってくる左前方の男に、剣を握った拳を叩き込み、回し蹴りで反対側の男を薙ぎ倒すと大きく息を吐いた。


 戦いが十四郎達に優位に展開し始めた矢先、二人の手下が切られるの承知で十四郎に抱き付き動きを奪う、その隙にエルゴが凄まじい勢いで十四郎に突進した。


 咄嗟の事でローボも対応が間に合わない、ビアンカの胸が凍り心臓が破裂しそうになる、あまりに一瞬で声も出ない。大きく見開いた瞳に、迫るエルゴの剣が十四郎に吸い込まれる様子をスローモーションみたいに映した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 相手殺しに来てんのにずっと舐めプしてるなぁ サイコパスやね それを他人にまで強要してる マジでやばい主人公やね
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