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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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聖域の森 11

 正に修羅場の混戦状態だった。血の掟に逆らう事は即、死に繋がる。狂った様に剣や槍が十四郎を襲う。超至近距離で、盗賊同士の剣や槍がぶつかる。如何に十四郎でも、イレギュラーの剣先や穂先が容赦なく腕や脚を霞める。


 それでも身を躱し剣を避けながら槍を刀で受ける、目前の者には前蹴り、横に迫る者を鞘で薙ぎ払い、返す刀で後ろの者を袈裟切りにし、防御しながらの同時攻撃で少しづつ盗賊達の戦力を削いだ。


 当然峰打ちの打撃だが、その衝撃は凄まじく骨の二三本は砕く勢いだった。それは十四郎の心理ににも繋がっていた、試合やケンカではなく生死を掛けた戦いに自然と力が入った。


「人間業じゃない……一つタイミングを外せば終わりだ」


 まさにエルゴの呟き通りだった。足元には盗賊達が次々に横たわり、あれだけいた人数も残りは少なくなっていた。


「そろそろだな」


 七子は少し動きの鈍る十四郎を睨む。頷くエルゴが手を上げると、洞窟の周囲の穴から十数人の弓手が現れた。


「これだけの矢だ、既に避けきれる力は無いだろうな」


 手足に傷を負い、疲れを見せ始めた十四郎を見てエルゴは言葉をやや濁らせた。


「まさか、手合せしたかったのか?」


 呆れた様な七子の言葉にエルゴは敏感に反応した、声には怒気があった。


「あれだけの手練れ、思わない方がどうかしてる」


「思うのは勝手だが、普通の人間が相手になる奴じゃない」


 確かに十四郎の強さは半端ではない、自分が戦って勝つイメージなど微塵も湧かない。しかし、プライドと七子の言葉がエルゴを強気にさせた。


「俺を誰だと思ってる?」


 目的の目前に来て、エルゴの心理変化は想定外だった。焦りを感じた七子は直ぐにでも決着を付け様とする、一瞬の判断の遅れは計画の頓挫に繋がる。目の当りにした十四郎の戦闘力は一部の隙で、逆転の可能性を嫌でも知らしめていたから。


「矢を放て!」


 エルゴを無視し叫んだ七子だったが、その刹那! 狼達の群れが乱戦の中に飛び込んで来た。


________________________



 ローボは全力で走っていた。思考の半分はブランカの安否だったが、もう半分は十四郎が絶望的戦いをしている場面だった。何故かなんて考える余裕は無い、胸の奥底から燃え滾る思いは更に走りを加速させた。


 必死で走るビアンカだったが、狼は当然ながらココやリルにも追い付けない。藪や草木、デコボコの地面は脚を掬う、焦るほど体が前に進まない状態に苛立ちが募った。


「ビアンカ様! 大丈夫ですか!」


 かなり先を行くココが、振り返り叫んだ。


「いいから早く行って!」


 叫び返すビアンカだったが、ココはまだしも女のリルにさえ追い付けない悔しさに、強く唇を噛み締めた。力の無い自分が、役に立たない自分が悔しい、張りと痛みで感覚が曖昧な脚を思い切り叩く。


 息が苦しくて心臓が刺されたみたいに痛い。そして、カラカラに乾く喉も、全身から溢れる汗も無視してビアンカは走り続けた。


______________________



 隠れ家の入り口が見えた、ローボは更に加速し、素早くルーと隣の狼に目配せする。二匹は同時に飛び掛かり、一瞬で門番の喉を噛み切った。


 通路を抜けると直ぐにホールに到達する、瞬時に状況を把握したローボは矢継ぎ早に支持を出した。


「弓を狙え!」


 一斉に別れた狼達は、真っ直ぐ弓手達にに向かう。ほぼ同時に制圧すると、ローボは囲まれる十四郎に駆け寄った。体当たりで正面の男を吹き飛ばし、横の男を鋭い爪で引き裂く。


 状況が分からない盗賊達は狼の乱入で、ただでさえ統率が取れないのに更に混乱に陥る。逃げ出す者や、悲鳴を上げる者、戦いを続ける者、その混乱の中でも十四郎は冷静に敵を殲滅していた。


「十四郎!無事かっ!」


「ローボ殿! ここはいい! ブランカ殿の元へ!」


 ローボに叫び返しながらも、十四郎は迫る剣や槍に対応していた。ローボは素早く十四郎の状態を確認する。手足の傷は戦闘には支障が無い様にも見えるが、その速度と切れは明らかに低下していた。


「ルー! ブランカを探せ!」


 その叫びにルーは洞窟の奥へと走る、二三頭の狼が続いて走り去った。


「どうして?!」


 手を止めず十四郎は叫ぶが、周囲の敵を威嚇する様にローボは低く構え呟いた。


「間を与えてやる」


 確かにローボが身構えると、流石の盗賊達も距離を取った。ほんの少しのインターバルでも、十四郎の疲労回復には大いに役立った。


 呼吸を整え、刀を握り直した十四郎はローボの背中に声を震わせた。


「実はローボ殿、ブランカ殿は私のせいで……」


「後でゆっくり聞かせてもらう」


 十四郎の言葉を途中で遮り、ローボは盗賊達を闘気で牽制しながら背中で言った。

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