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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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聖域の森 9

アールヴ・フラワーは森の中心部、小さな小川に面した場所に咲いていた。ココは急いで摘むと、バッグに入れる。これで母親は助かる、安堵で大きな溜息を付くがリルは表情を変えない。


「これで、母さんは助かるな」


「……」


 話し掛けても返事もしないリルに、ココは少し不信感を抱いた。


「お前が言い出したんだぞ」


「……そうね」


 他人事みたいに反応の薄いリルの態度は、ココに思考の整理を促す。落ち着いて考えれば、疑問や疑惑が次々と頭をもたげる。


「何を隠してる?」


「……」


 目を逸らし何も言わないリルの態度に、隠し事を確信したココは小石を蹴った。


「言わないつもりか……それなら仕方ない」


 ココは背中を向けると、立ち去ろうとした。


「何処に行くの?」


 やっと反応したリルが、明らかに怒ったココの背中に呟く。


「盗賊の隠れ家だ、十四郎は俺達の為に行った」


「駄目!」


 リルが声を上げた、振り向いたココが詰め寄る。


「何故だ! どう言う意味だ!」


 胸倉を掴んだココは声を荒げる。また目を逸らしたリルは、暫くの沈黙の後に小さな声で話し始めた。


「ある女が……教えてくれると……父さんを殺した奴を……」


「何だと!」


 ココは思わず声を上げる。しかし、話の辻褄は、まだ合わない。


「詳しく話せ」


 怒りにも似たココの表情はリルを戸惑わせ、途切れながらも話を続けた。


「教えてくれる条件は……魔法使いを聖域の森に誘い出しす……そうすれば、魔法使いは盗賊の所に行く」


「どういう事だ! 十四郎を嵌める罠だと言うのか」


 怒りが爆発する。何故リルがそんな事に加担するのか、混乱するココは大声で叫んだ。怒るココに、リルは体が震えて止まらなかった。


「……盗賊が……ローボの大切な者を……捕まえれば……魔法使いは……必ず取り返しに行くと……」


 震えながら言葉が途切れるリル。話は繋がる、全て仕組まれていたのだ。しかもそれは計画通りに進行している。


 直ぐにでも盗賊の隠れ家に行きたいが、馬はローボ達との混乱で逃げていた。走るには距離がありすぎる、しかし、このままではマルコスを騙し十四郎を罠に嵌めた策略に自分も加担した事になる。


「どうすればいい!」


 天に叫んだココは、弓を地面に叩き付けた。


「……行きたいの?……魔法使いの所へ……」


 恐々と呟くリルを、ココは物凄い形相で睨んだ。


「当たり前だ! 師匠は心から心配し、十四郎は命懸けで協力してくれたんだ! 何の関わりも無いのにな!」


 ココの叫びはリルの胸に突き刺さる、同時に十四郎の怒鳴った声が蘇った。でも、何故が二人の大声は違う気がした。リルはココの顔色を見た、ココは自分自身に怒っている様に感じた。


 リルは振り払う様に首を振ると、突然指笛を吹く。それは辺りに響き、暫くするとリルの馬がやって来た。一瞬唖然とするが、ココは飛び乗ると強い視線でリルを見た。


「お前には責任がある」


 黙って頷いたリルは、ゆっくりとココの後ろに乗った。


_________________________



「父上、かなり時間が経ちました」


 ルーは時間を気にしていた。十四郎が行ってからかなりの時間は経ったが、遠くに見える盗賊の隠れ家からは、何の異常も見られない。


「大丈夫です、きっと」


 アルフィンは気丈に振る舞うが、内心は直ぐにでも駆け付けたい気持ちが破裂しそうだった。


「その根拠な何かな?」


 少し笑った様な声でローボは聞いた。


「根拠ですか? そうですね……ありません。ですが、強いて言えば……信じてるからです」


 一度視線をローボに向けたアルフィンは、直ぐに隠れ家の方へ向き直る。


「信じているか……」


 ローボもまた、同じ方向を見た。


「あなたは落ち着いてますね?」


 今度はアルフィンが質問した。


「そう見えるか?」


「ええ」


 少し下を向き、ローボは薄笑みを浮かべた。手下や息子の手前、取り乱すなんて出来ず、平然を装うが、その凛とした行動を支えていたのは、他でもない十四郎の存在だとローボ自身は分かっていた。


「不思議な男だ……」


 呟いたローボに、アルフィンも同意した。出会って間もないのに、十四郎はアルフィンにとって、掛け替えのない存在となっていた。主人、パートナー、家族……言葉にすれば幾らでも言える、アルフィンは十四郎が大好きになっていたから。


________________________



 聞いた山の麓は近い、ビアンアカは手綱を握る手に力を込める。その時、シルフィーの鼻腔に、風に乗って一瞬アルフィンの匂いがした。咄嗟にシルフィーはスピードを落とすと、道から逸れ様と体を捻る体制になる。


「どうしたの?!シルフィー!」


 バランスを取りながら叫ぶビアンカだったが、シルフィーが訳も無く道を外すとは思えない。


「分かった! シルフィー、任せるから!」


 もう一度叫んだビアンカは、道から外れた獣道に手綱を誘導した。木々の間を抜ける道は視界を制限し、枝や葉が容赦なく体や顔を叩く。


 しかしシルフィーは速度を落とすどころか、加速していた。伏せた状態のビアンカは、全てシルフィーに任せていた。それはシルフィーに痛いほど伝わり、加速する脚に力がみなぎった。


 突然視界が開けた、そこには狼に囲まれたアルフィンがいた。飛び降りると同時に剣を抜いたビアンカが、狼とアルフィンの間に割って入った。


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