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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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聖域の森 8

 盗賊の隠れ家に近付くにつれ、次第に罠と言うか警報装置? というか、そいういものが増える。十四郎は用心深く避けながら、先を進んだ。ローボのおかげで暗闇にも少しは慣れ、ただ気配だけに集中した。


 暫く進むと、人の気配に気付く。前方の大きな木の下に二人、十四郎は背筋を伸ばすと正面から向かう。かなり近付かないと、見張りは気付かなかった。


「誰だっ!」


 一人は弓を引き、もう一人は槍を構える。


「あのぅ、すいません」


 声を掛けたと同時に十四郎はダッシュした。物凄い速さで弓を引く男に接近すると、すれ違い様に鞘で一撃、返す鞘で槍の男を倒した。その辺の蔓で後ろ手に縛ると男の服を破り猿ぐつわをした。


「後で解きにきますから」


 そう言い残し、十四郎は先を急いだ。


 隠れ家? は洞窟だった。狭い入口の両方には門番が立ち、小さな松明があった。十四郎は暫く様子を見ていたが、また正面から向かった。驚いた門番は、当然叫ぶ。


「何だお前は!」


「こちらに白い狼がいると聞いて」


 平然と言う十四郎に門番は少し戸惑うが、両側から囲み剣を突き付けながら中に招き入れた。


 洞窟は途中からいきなり天井が高くなり、かなり広い場所に出る。壁には多くの松明があり、オレンジ色の光が降り注ぐ。少し湿った空気が澱み、風の無い空間は息苦しかった。


 見渡すだけでも十数人の盗賊が無言で睨み、異様な雰囲気を醸し出す。


「まさか、本当に来るとはな……」


 奥から出て来た男は髭だらけの顔に頬の傷、撫で上げた髪を振り乱し、豪快に笑った。男は三大盗賊の一人、エルゴ・ドラコだった。その残忍性と気性の激しさで、人々から悪魔の化身と恐れられていた。


「白い狼を返して頂きたい」


 十四郎の言葉にエルゴは更に大笑いした。


「この状況が分かっているのか?」


「あまり、分かってはいません。それより白い狼は無事なんでしょうね?」


「今の所はな……だが、お前次第でどうなるかは分からん」


「私にどうしろと?」


 全く動じない十四郎に、エルゴは嫌な予感に包まれる。魔法使いなど信じてはいないが、人伝に聞いた武闘大会での話や、現実に対峙した十四郎に百戦錬磨の勘が騒いだ。


____________________________



 次第に日は傾き、聖域の森は近付いて来る。走る事に夢中だったビアンカは、ふと不安になった。聖域の森は広い、慌てていたので場所も聞いてない……。


「シルフィー、どうしょう……」


 急にビアンカが情けない声を出す。シルフィーは少し速度を落とすと、一旦止まった。


「どうしたの? シルフィー」


 ビアンカが首筋を撫ぜると、シルフィーはブルっと鼻を鳴らして身震いをした。ビアンカは周囲に目を凝らすと、先の方に人影を見付けた。遠目に見ても数人は居た、シルフィーを藪の奥に連れて行くと、息を殺し人影が近付くのを待った。


 流石シルフィー、草むらで物音一つ立てずにじっとしていた。やがて人影は盗賊達だと確認出来た。しかし、半数以上が怪我をしている様子で、話しながら歩いて来る。


「噂には聞いていたが銀の弓には参ったな。人に対しても、まるで的でも射るみたいだった」


「ああ、女の方は最悪だったな。あいつを見ろよ手足全部に射られて、暫くはまともに動けないぜ」


「全くだ……でも、俺は魔法使いの方が凄いと思った。触れるどころか、何も分からないうちに気絶してたからな」


 一人の男が”魔法使い”と言った。ビアンカは心臓が止まりそうになった。脳が命令を下す前にビアンカは盗賊達の前に飛び出した。シルフィーは、やれやれと首を振って付いて行った。


「話を聞かせてもらおう」


 ビアンカは千載一遇のチャンスに武者震いした。声の張りが、その気持ちを物語る。


「何だ? こんな所で美人の女騎士に出会うとは」


「幾らでも聞かせてやるぜ」


 盗賊達は各自が笑みを浮かべ、ビアンカを取り囲んだ。しかし、剣を抜かないビアンカの様子にシルフィーは首を傾げた。


「怖くて剣も抜けないのか?」


 一人の男が薄笑みを浮かべビアンカに近付いた瞬間、ビアンカは鞘のまま剣を一閃し男を倒した。振り返るビアンカは、残る男達に鋭い視線と凛とした声で言った。


「まだ練習中で加減が分からない、大怪我したくなかったら素直に話せ」


「こいつ、近衛師団の……確か、ビアンカ……」


 鎧の肩に輝く双頭竜の紋章、一人の男が思い出す。盗賊達は一斉に後退りした。そして、一番手前の男が、少し焦りながら声を震わせた。


「何だ、何の事だ?」


「十四郎、いや、魔法使いは何処にいる?」


「それは……」


「仕方ないな、言いたくなる様にするか」


 ビアンカは、ゆっくりと剣を抜いた。


「分かった、分かったから」


 慌てた男が事情を説明した。しかし、視線を合わせない男の目に、何か不信を抱くビアンカは更に追い打ちを掛けた。ビアンカの鬼気迫る様子にシルフィーは驚くが、何故かその背中が偽りの姿を演じている様に見えた。


「隠し事か……腕でも切り落とさないと、正直にはなれないみたいだな」


 その声には迫力があった、男は少し俯くと話し出した。


「ある者に頼まれた……白い狼を拉致すれば、必ず魔法使いが助けに来る……待ち受けて……殺せば、報酬を出すと……普通の報酬じゃない、この国の好きな場所に広い土地をくれると……」


 狙いは十四郎……ビアンカに悪寒が走るが、それ以上に”ある者”が引っかかった。


「頼んだのは誰だ?」


「それは……」


「教えれば見逃す」


 ビアンカは両手を握り締め声を押し殺す、確信はすぐそこだっだ。


「異国の女だ……アレルマンニの魔法使いだ」


 脳裏に蘇る七子の怒りに満ちた顔が、悪い予感を最大加速させる。ビアンカは隠れ家の場所を聞き出すと、疾風の様にシルフィーに飛び乗った。


「シルフィー! 急いで!」


 今日、何度も聞いた”シルフィー急いで”だが、さっきまでの迫力は既に無い。泣きそうな顔のビアンカを見たシルフィーは、胸を撫で下ろすと同時に、全力で走った。まさに神速のシルフィー、その速さは風を超えていた。


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