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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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聖域の森 5

 熊の攻撃を避けながら、十四郎は叫び続けた。その叫びと思いは、次第にココの思考を根本的に揺るがした。


 十四郎は戦いを有利にする為に熊を手負いにした訳じゃない。話を聞いて欲しい、無駄な戦いを止めて欲しい、そして出来るなら……殺したくない。そんな思いが確かに、そして、そっとココに伝わった。


「腰抜けめっ! 何故勝負を付けない!」


 十四郎の戦いに痺れを切らしたルーが罵声を浴びせた。


「あなたには十四郎の気持ちが分からないのですか?!」


 アルフィンがルーに怒鳴る。その声は、震えと涙が入り混じっていた。


「何が気持ちだっ! こんな戦いにどういう意味がある! 手傷を負わせただけで後は逃げ、もう止めようだとっ!」


 牙を剥き出しルーはアルフィンに怒鳴り返す、興奮して全身の毛が逆立つ。


「お前には分からぬか?」


 落ち着いた声のローボがルーに顔を向ける、その顔には苦渋が染み出していた。


「何がですか? 父上」


 ルーは唖然として聞き返す。


「最初からあの者は魔物を倒す気など無い。無益な戦いを止めさせたいだけなのだ……言葉も思いも決して伝わらない魔物に……」


 ローボはどこか悲しげなな声で、自分に言い聞かせる様に呟いた。


「十四郎は戦っています……全てを助ける為に……」


 アルフィンはルーに向かって小さな声で言った。


「全てだと、全て助けられると思っているのか?」


 呟くようにルーは言って、アルフィンを上目使いに見た。十四郎の叫びがルーの耳に激しくぶつかる、諦めない意志が叫びに同調した。


「はい、私はそう信じています」


 アルフィンはしっかりとした口調で言う。それ以上ルーは何も言わなかった。自分が小さくて情けなく思えた、言葉にしても全て言い訳みたいに感じるだろうと、思った。


________________________



 突然、熊が動きを止め、十四郎を見た……そのガラス玉みたいな目に、ほんの少し光が差していたいた。


「ナゼダ……オマエワ……オレヲ、コロサナイ……」


 熊が機械みたいな声で喋った。ローボは雷に打たれたみたいな衝撃に包まれ、ルーは思考自体が静止したみたに唖然とした。アルフィンは微笑み、心の中で”よかったね十四郎”と呟いた。


「お名前は?」


 刀を下ろした十四郎は、穏やかに聞いた。


「ナマエ…………ナマエハ……ウィード」


 熊は言葉を途切れさせながら、思いを紡ぐ様に呟いた。


「何があったんだ……」


 状況が分からないココだったが、熊と十四郎が会話していることだけは分かった。が、何故そうなったかなど、ココには分かるはずはないのだが……想像は出来た”繋がった”のだと。


「ウィード殿、傷の手当てを」


 刀を収め、十四郎はウィードに近付くと袖を破り傷口に巻いた。手当される事、名前で呼ばれる事、初めての体験がウィードのココロを更に開いた。


「……ナマエハ?」


「十四郎です」


 見上げた十四郎は優しい笑顔だった。その何の計算も無い笑顔は、またウィードの気持ちを揺さぶった。


「ジュウシロウ……」


「私はアルフィン。よろしくね、ウィード」


 そこにアルフィンがやって来て、明るく挨拶した。


「……アルフィン……ダレダ?」


「私は十四郎の家族です」


「カゾク……」


 ウィードの脳裏に、記憶の彼方に霞む母親や兄妹が蘇った。


「全く、あの魔物のココロを取り戻すとは……否……開くとは」


 呟いたローボは十四郎に近付いた。


「魔法使いの噂は本当だったようだ」


「魔法使いではありませんよ」


 ローボの言葉に十四郎は例によって頭を掻く。


「そう言う事に、しておこう」


 少し微笑んだローボは思っていた。最初に対峙した時ウィードは十四郎の強さを悟り、傷を負った時点で負けを確信した……だが、優位なはずの十四郎は必死で戦いを止めようとした。


 常識を覆すその行いは、ウィードのココロを開いた。そして何より、自分達は最初からウィードをココロの無い魔物だと決めつけていた。しかし、十四郎は対峙した時点でウィードにココロがあると分かっていた……ローボは改めて十四郎の器の大きさに溜息を付いた。


「ジュウシロウ……アリガトウ……」


 ウィードは小さい声で礼を言うと、森に帰って行った。見送った十四郎は、まだ気絶する盗賊の一人に(活)を入れる。気を取り戻した盗賊は、取り囲む狼達に驚きを隠せないが、十四郎の笑顔になんとか落ち着きを取り戻した。


「あなた方は、ローボ殿の大切な方の居場所を知ってますね?」


「ローボ? あの狼王か?」


「そうです、あそこにいますよ」


 振り返った十四郎の視線の先には、ローボの鋭い目があった。全身を悪寒が支配する、心臓を鷲掴みにされる、盗賊は震えが止まらなかった。


「正直に教えて下さい」


「……分かった」


 この状況での嘘は、破滅に繋がると理解した盗賊はゆっくりと話し出した。

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