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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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推参

 鍔迫り合いで感じるのは、軒猿の力の強さだった。上背も体重もツヴァイが一回りは大きいはずだが、まるで大男と対峙している感覚だった。


 だが、一瞬アウレーリアに視線を移した瞬間、ツヴァイの視界から軒猿が消えた。直ぐに周囲を見渡すが、軒猿の姿は無かった……だが、ツヴァイが剣を下した瞬間! 視界に軒猿が現れ、例の短剣が有り得ない方から飛んで来た。


 何とか数本は剣で受け流すが、腕や足を掠りツヴァイは顔を歪めた。


「一度見た技だ……」


 自分を鼓舞する様にツヴァイは呟くが、波状で迫る短剣は少しづつツヴァイの体力を削った。


「立て! どうしたっ!」


 バビエカはアウレーリアの腕を噛んで立ち上がらせようとするが、アウレーリアは俯いたまま、動こうとしなかった。


「やられる! あいつじゃ歯が立たない!」


 バビエカは苦戦するツヴァイの背中に叫ぶが、アウレーリアに反応はなかった。


「くっ……」


 軒猿の繰り出す短剣は、ツヴァイを弄ぶ様に次第に速度を増す。致命傷にならないのは、聖剣の加護だと分かっているが、ツヴァイは唇を噛み締めた。


「お前は託されただろ! 魔法使いに何て言い訳するっ!」


 重なるバビエカの叫びに一瞬アウレーリアが反応するが、その瞬間! 軒猿の放った短剣がツヴァイの右腕を霞め血飛沫が飛び散った! その衝撃で聖剣が地面に落ちた。


 拾うか、飛び退くか……刹那の瞬間! ツヴァイは飛び退く! しかし、距離を取ったツヴァイは丸腰になった。


「……さて」


 一瞬間を置いて、軒猿が口元を緩めた。そして、次の瞬間! 四方から短剣がツヴァイを襲った。


 致命傷は避ける! ツヴァイは顔の前で腕を十字に組んだ! 肘で心臓を守り、組んだ十字部分で喉を守る! その瞬間! 白い影がツヴァイの前を過った!。


「……十四郎様……」


 呟いたツヴァイは、全身の力が抜けた。そして、十四郎は背中で優しく言った。


「アウレーリア殿を連れて、下がって下さい」


「鬼切り十四郎……会いたかった……」


 軒猿は顔を綻ばせた。


___________________



 マインシュタインを初め、聖騎士団は動く事はおろか言葉さえ発せなかった。まるで瞬間移動の様に現れた十四郎の姿は、純白のアルフィンの姿とも重なり、神々しさと強大な畏怖を織り交ぜ、その場の全員の網膜に焼き付いたのだった。


 十四郎は左足を少し引くと、やや姿勢を低くした。そのまま左手で鯉口を斬り、右手を柄にそっと添えた。


「近くで見ると、隙は無いな……」


 軒猿が言葉を発した瞬間! 真っ二つになった短剣が三つ地面に落ちた。


「……名のある刀匠が鍛えしクナイ……斬れるモノではないのだがな……」


 穏やかな言葉とは裏腹に軒猿は表情を硬くすると、ゆっくりと腰から二本の刀を抜いた。


「見ろ! 魔法使いが来たぞ!」


 後方でツヴァイに支えられるアウレーリアにバビエカが言うが、アウレーリアは十四郎を見ようとしなかった。


 十四郎と軒猿は、ある程度の距離を保ったまま対峙する。しかし、双方共にゆっくりと円を描く様に動いていた。


 先に動いたのは十四郎だった。抜刀は風切り音が後から来る程凄まじく、刀身は周囲の者達からは見えなかったが、切先には軒猿の姿はなかった。軒猿はかなり後方に跳んでおり、両手に構えた刀を見ていた。


「掠ってないのだがな……」


 二振りの刀は、鋭利な何かに斬られた様な切り込みがあった。


「十四郎様……」


 ツヴァイは呟く。明らかに十四郎の様子がおかしかったからだった。表現するなら”怒っている”で、自分と負傷しているアウレーリアの為だと拳を握りしめた。


 そんなツヴァイを純白の影が救った。


「待たせました」


 シルフィーから飛び降りたビアンカは、横目でアウレーリアを見た。だが、アウレーリアは俯いたままで、目を合わせなかった。


 ビアンカは揚羽を構えると、十四郎の方と聖騎士団を交互に見た。


「あの騎士団を牽制します」


 そう言うと、ゆっくり騎士団の方に向かった。


「大丈夫かっ!」


「ツヴァイ!」


 マアヤから飛び降りたココが駆け寄ってツヴァイを後ろから支え、ノィンツェーンも声を上げ、心配そうな顔で寄り添った。


「来なくても大丈夫だったのに……」


「そうだな、大丈夫そうだ」


 少し笑ったツヴァイに、ココは頷きながらリルに目配せした。リルは素早くツヴァイを手当すると、アウレーリアを見て驚いた。


「お前でも、血が出るんだな……」


 そう言うとリルは、アウレーリアを手当した。


「ビアンカ様を頼む……」


「分かった」


 ノィンツェーンを見たツヴァイに、ノィンツェーンは小さく頷いた。


「まさかな……」


 唖然と呟くマアヤだったが、やって来たローボの方を見た。


「……アイツの仕業か?」


「ああ、そうだ」


 ローボは軒猿を見据えた。


「近衛騎士団のビアンカ……銀の双弓……魔物や神獣まで……」


 呟いたマインシュタインの瞳孔は、大きく開いた。


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