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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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青天の霹靂

 数日間、姿を眩ませていた軒猿が聖騎士団に戻った時には少し様子が変わっていた。相変わらずの無口さや、存在の薄さには変化は無かったが、数本の短剣と投げナイフ多数、二本の変わった剣を持っていた。


 それは、マインシュタイン達が偵察で見た、十四郎の剣に似ていた。しかし、片刃なのは同じだが、反りがなく長さも短かった。また、ガード部分は大きめの四角形で、鞘の先は鋭利になっており、長い紐が付いていた。


 今まで感じた事の無かった軒猿の雰囲気に、マインシュタインは困惑した。何より無気力な目の奥に、怒りにも似た炎をがあったからだ。


「知ってるのか? モネコストロの魔法使いを?」


 振り返らず、軒猿は背中で言った。


「……奴は、修羅だ……」


「シュラ?……」


 怪訝な顔で、マインシュタインは軒猿の背中を見た。だが、振り向いた軒猿の顔にマインシュタインは背筋に冷たいモノが流れた。


 無気力なはずの軒猿の目は、人の目ではなかった。


「お前は何者だ?」


 マインシュタインの問いに、軒猿は深く低い声で一言だけ答えた。


「俺は忍び……」


「シノビ?……」


 その言葉の響きと感覚は、不思議な浸透力でマインシュタインの脳を刺激した。


___________________



 バビエカは嫌な予感に包まれていた。アウレーリアに出会ってからの日々は、その神懸かった強さに対しての驚きと恐怖が同居する不思議な毎日だった。


 今も新たな敵の信じられない攻撃を、いとも簡単に受けている……だが、何時もと何かが違う……そんな予感がバビエカのココロと身体を、生暖かい肌に刺さる縄の様なモノで縛っていた。


 軒猿が何かアウレーリアに言った。距離がありツヴァイには聞こえなかったが、明らかにアウレーリアの様子が変わった。


 今まで多くのアウレーリアの戦いを見て来たツヴァイは、どんな強大な敵も圧倒していた姿からは懸け離れて見えた。


 そして、何より驚いたのはアウレーリアの表情だった。どんな時も無表情で、相手を斬り伏せていた……が、今は少女の様な泣きそうな顔だった。


「何があった……」


 唖然と呟くツヴァイの目に、更なる異常が映る。軒猿は短剣の攻撃を止めると、腰に交差させて挿した剣を両手で抜いた。その剣は十四郎の剣に似ていたが、短く反りも無い剣だった。


 軒猿は剣を持った両手を下げる……遠くからは、腕が伸びた様に見える……。そして、ゆっくりとアウレーリアに近付く……ツヴァイの背中に汗が流れた瞬間! 間合いの外から、アウレーリアに二本の剣が超高速で斬り掛かった。


 見えない剣筋でもアウレーリアなら、受けるのは簡単なはずだった……だが、アウレーリアの肩や腰から鮮血が飛び散った。


「何をしてる!!」


 バビエカが叫ぶ。だが、バビエカの腹の底は氷の様に冷たかった。


「アウレーリアが血を流した……」


 驚いたのはマインシュタインだった。生ける伝説のアウレーリアが手傷を負うなど、天地が逆さまになっても有り得ないと認識していたから。


 だが、その光景は夢ではなかった。アウレーリアは剣を杖にしながら、彷徨う様な表情で片膝を付いた。


「まさか……アウレーリアが」


 ツヴァイは呆然と呟くが、軒猿が二本の剣を大上段に構え、アウレーリア目掛け振り下ろそうとした瞬間! 考える前に身体が動いた。


 激しい火花と金属音! 横向きにした剣で二本の剣を受け止めたツヴァイは叫んだ。


「下がれっ!」


 だが、アウレーリアはペタンと地面に座ると俯いた。輝く銀色の髪が、一瞬遅れてアウレーリアの顔を音も無く隠した。


「アウレーリアに何を言った!」


 ツヴァイは激しい形相で、軒猿に叫ぶ。


「……本当の事……だ」


 鍔迫り合いのまま、軒猿は怪しく呟いた。


___________________



『急げっ!!』


 十四郎の脳裏にローボの声が炸裂した。


「十四郎! アウレーリアが危ない!」


 直ぐにアルフィンが叫んだ。十四郎の中にも、アウレーリアの”気”が濁流みたいに流れ込む。それは一言……”助けて ”と。


「アルフィン殿! 行けますかっ!?」


「最高速で行く!!」


 十四郎の叫びに叫び返すアルフィンは、一瞬姿勢を低くした。その後の加速は、正に天馬だった。脚は地面を蹴ってるはずなのに、宙を舞う様に、疾風の様にアルフィンは走る。


「ビアンカ!」


「分かってる! 掴まって!」


 シルフィーの叫び! ビアンカも一瞬で理解し、リルはビアンカの腰にしがみ付いた。


「何て速さだ!」


「こっちも急ぐぞ!」


 叫んだマアヤにココも叫び返すが、背中にしがみ付くノィンツェーンは情けない声を出した。


「無理だよ~」


「ツヴァイとアウレーリアに何かあったんだ!」


 振り向いたココの真剣な顔は、ノィンツェーンの胸を小さく刺した。


「マアヤ! 紅の獣王でしょ! 普通の馬に負けていいの?!」


「フン! 天馬と神速が普通の馬だって!? まあ、いい! 掴まってろ!!」


 マアヤも全身から炎の火の粉を撒き散らし、全速で二頭を追った。既に全速に入っていたローボも、更にスピードを上げた。



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