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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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第三の存在

「あの者達、確か聖騎士団だと言ったな? 聖騎士団が諜報か……」


 頬杖を突く七子は以前からの違和感を呟いた。


「アルマンニ防衛と対外戦略は、近衛騎士団と聖騎士団の二団編成でした。現国王により対外政策の一環として我々金、銀、銅の新興騎士団が結成され、同時に聖騎士団の改革が行われましたが、伝統を重んじる一部の騎士は存続を訴え、数十名程が聖騎士団として今も存在します」


 ドライは七子の呟きに即答すると、更に続けた。


「しかし、政策の変更により聖騎士団は補助的な役割しか与えられず、自ら諜報活動と言う活路を選択し、現在に至っております」


「かなりの手練れも居る様だな」


 七子はドライに視線を向けた。


「青銅騎士はおろか、黄金騎士にさえ匹敵する者もいます」


「惜しいな」


 七子は溜息交じりに言った。


「信念は変えられません……それと、最近新しい団員が入ったそうです」


「斜陽の騎士団にか?」


 七子の言葉に少し頬を緩めたドライが続けた。


「諜報活動の最中、山中で総長自ら拾ったとの事」


「拾った、か……」


 七子も口元を緩めた。


「全く覇気の無い虚ろな目をした小さな男で、特技も何も無く、返事さえしない様な……確か名前は……ノキザル」


「軒猿、だと?」


 七子の顔が変わった。


「髪は黒、瞳も黒く、肌は……七子様に似た……」


 言葉の最後をドライは濁した。だが、今までに無い様な七子の様子にドライは聞き返してみた。


「ご存じなのですか?」


「名が本当なら、私の様な名もなき下忍ではない……本物の忍びだ」


 七子は静かに言った。


「七子様の世界の者なら……第三の魔法使いと言う事に……」


「……可能性はあるな」


 目を伏せ七子は呟くが、ドライには光明が見えた気がした。


「新たな魔法使いノキザルが味方なら、戦力増強効果は計り知れなく、状況次第では七子様の計画成就に勢いが付きます」


「飼い馴らせればな……」


 七子の声は微妙にドライの耳の奥に絡まる。そして、最悪の事態がドライの脳裏に深く湧き出す……それは、制御不能な”第三の勢力”と言うワードだった。


_____________



 アウレーリアの腕を引き、バビエカに飛び乗れば撤退は簡単だとツヴァイは考えるが、これだけの数の敵の斥候を残しては遺恨処では済まされない。


 しかも、相手は幼い頃に誰もが憧れたアルマンニの聖騎士団なら尚更だった。だが、圧倒的威圧感で正対する総長マインシュタインを見ると考えが錯綜した。


「まずは、青銅騎士殿とお手合わせをお願いしたい」


 マインシュタインの横から、大柄の騎士がツヴァイを睨んだ。長い金髪を撫で上げ、壮年だが筋骨隆々とした姿にツヴァイは見覚えがあった。


「聖騎士団指南役、ベルガル殿とお見受けします。私が勝てば、撤退して頂けますか?」


 ツヴァイは凛とした表情でマインシュタインを見た。


「ほう、青銅騎士はおろか、黄金騎士でも末席位には届こうと言うベルガルに勝つと?」


 マインシュタインは鋭い眼光で、ツヴァイを見据えた。


「そのつもりです」


 返すツヴァイの眼光は、マインシュタインとベルガルを交互に捉えた。アウレーリアは表情を変えず前に出ようとするが、ツヴァイは穏やかな声で止めた。


「アウレーリア。あなたが出れば直ぐに終わってしまいます。ここは、聖騎士団にも見せ場を……」


 ツヴァイの言葉が終わらないうちに、電光石火! ベルガルのロングソードがツヴァイの首筋に迫った。


 だが、ツヴァイは眉一つ動かさず、剛腕のロングソードを自らの聖剣で瞬時に受け流し、飛び散る火花と轟音が周囲に響き渡った。


「小僧……」


 素早く距離を取って構え直すツヴァイに、ベルガルは烈火の視線をブツけた。そして、聖騎士団は大きな輪になり、そこは闘技場の様な空間になった。


 無表情なままのアウレーリアは、その輪の中に普通にいるが、両隣の聖騎士団はかなりの間隔を開けていた。


「首が飛ぶと思っていたが、まだ繋がってる様だな」


 マインシュタインは怪しく笑った。


___________



「敵の中に、お前に似た雰囲気の者がいると報告があった」


 ローボの言葉に、墓を掘っていた十四郎の手が止まった。


「私に似た……」


「大鷲は脅威の察知には我にも匹敵する。だが、その男からは何の脅威も感じ取れないそうだ……それが、返って不気味だと」


 この世界、この大陸では東洋系は珍しい。十四郎自身、七子以外には出会った記憶はなかった。


「この世界で”魔法使い”と呼ばれる者は二人。お前達二人は同じ世界から来た」


 ローボの言葉は、十四郎に最悪を予感させる。だが、十四郎は全身に鎖が絡まる様な感覚で、身体もココロも動き出さなかった。


「あの女は多分心配ないが……」


 ローボは最悪を含ませる。


「……」


 十四郎の脳裏に、ツヴァイの姿がゆっくりと浮かんだ。こんな情けない自分を信じて、付いて来てくれる仲間……その中でもツヴァイの存在は、まさに右腕と言う感覚だった。


「ツヴァイ殿……」


 言葉に出すと、十四郎の固まった思考や身体に熱い何かがゆっくりと廻った。そして、それまで距離を置き、見守る様に十四郎を心配顔で見ていたビアンカがそっと近付いた。


「十四郎……行きましょう」


 ビアンカの少し震える声は、十四郎を包み込んだ。


「十四郎様……ツヴァイを助けて下さい」


 ノィンツェーンも声を震わせ、リルは涙を貯めながら呟く様に言った。


「行こう……十四郎」


「十四郎様……あいつは、ツヴァイは友達なんです……」


 ココは拳を握りしめた。そして、アルフィンはそっと十四郎に身を寄せ耳元で囁き、シルフィーはビアンカを支える様に寄り添った。


「大丈夫じゃなくても、行くのが十四郎でしょ」


「アンタは一人乗せろ。後はアタシが連れてく……魔法使い、さあ立て」


 マアヤはビアンカにそう言うと、獣化して十四郎を見据えた。暫くの沈黙の後、十四郎はアルフィンにゆっくりと跨った。


「そうですね……行かなきゃですね」


 十四郎は優しくアルフィンの首を撫ぜた。様子を見ていたローボはビアンカに目配せすると、先に走り出した。



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