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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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説得

 一日以上走り続け、旅商人と出会った。スワレスは近くの水場を聞き出すと、全軍をその場所で待機をエンディコに進言をした。


「そうだな、兵も私も限界だ」


 エンディコは直ぐに許可した。地図を取り出し、拠点の位置を確認したスワレスは次の提案を述べる。


「直近の拠点は馬で半日ですが、兵力は千程です。その先は更に一日、そこは五千程の兵力が駐屯してます。そこで、先に千の兵力を食料と水を持参させ、こちらに向かわせ、私は直ぐに次に向かいます……一日でこちらの補給、そして更に二日で全兵力、六千五百が揃います」


「三日か……そして、この場所から進軍すれば、半日で即応出来るな」


「ミランダ砦の先にある遺跡……そこに敵兵力が集結しようとしているのは間違いありません。命令は監視ですが、敵兵力増強を黙って見過ごすのは遺恨を残します」


 腕組みするエンディコに、強い視線でスワレスは具申した。


「……半分でも削れば、後が楽だな」


 腕組みしたまま、エンディコは口元を緩めた。


「では……」


 スワレスは馬に跨ると、鞭を入れた。見送るエンディコは、全軍に指示を出した。


「水場に移動だ。直ぐに食量も届く! 食ったら英気を養え! 」


______________   



 暫く走るとスワレスの視界に影が映る。近づくとその輪郭は、獣の姿を結んだ。


「さっきの狼か……」


 呟いたスワレスは馬の速度を落とすと素早く周囲を探るが、見覚えのある一頭の狼だけだった。だが、その狼の醸し出す雰囲気は魔物のソレだった。


「何か用か?」


 ある程度近付くとスワレスは馬を止め、押し殺した声で言った。獣に言葉が通じるとは思わなかったが、不思議と声に出た。


「引き返せ……仲間を連れて、もと居た場所に帰れ」


 ルーは口元の牙を光らせ、低い声で言った。何故か驚きは無く、スワレスは直ぐに返答した。


「我が軍に逃げ帰れだと?」


 怒気を込め、スワレスはルーを睨んだ。


「お前が指揮出来る立場なら、仲間の命を救える……」


「騎士に命を惜しめと言うのか!」


 ルーの言葉を遮りスワレスが怒鳴るが、ルーは少し溜息をついた。


「……普通はそうだな」


 ルーの言葉はスワレスを困惑させ、自然と疑問が口に出た。


「どう言う意味だ?」


「言葉通りだ……」


 溜息交じりのルーは、遠くを見つめながら呟いた。


「戦いとは……敵の命を奪ってこそ、勝利だと思わないか?」


「当たり前だ。それが戦いだ」


 スワレスは即答した。


「だが、十四郎は違うのだ……例えどんな戦いでも、敵も味方も等しく命を尊ぶ……」


「十四郎?」


 少し呆れた様なルーの言葉に、スワレスは首を傾げた。


「お前達が魔法使いと呼ぶ奴だ」


「モネコストロ魔法使いか?」


「そうだ……」


 頷くルーに、スワレスは言葉を投げる。


「その様子だと、お前は完全に魔法使いに同調する訳ではないのだな」


「どうしてそう思う?」


 ルーは斜めにスワレスを見た。


「お前は魔法使いに従う事を迷ってる……」


「よく分かったな……だが、過去形だ。今は悪くはないと思っている……」


 ルーは口角を上げ、スワレスに視線を強めながら静かに言った。


「さて、話は終わりだ……もう一度言う、引き返せ」


「こちらも答えは同じだ!」


 叫んだスワレスは馬の腹を蹴って剣を抜くが、馬は動かない。だが、咄嗟に飛び降りるとルーに大上段から斬りかかった。


 だが、ルーはその剣を鋭い牙で受け止める。そして、微動だにしない剣を噛み砕いた。


「……」


 瞬時に後方に距離を取り、半分になった剣を構えたままスワレスは言葉を失った。


「人は弱いモノだ……剣や槍のような武器がなければ戦えない。今頃、お前の仲間も全ての武器を失っている」


 ルーは更に牙を光らせ、押し殺した声で言った。そして、遠吠えを上げると動かなかった馬が、スワレスの元に来た。


「自分の目で確かめろ」


 ルーはそう言い残すと、その場を後にした。残されたスワレスは暫く呆然とするが、気を取り直すと自軍の方へと走り出した。


______________



 大鷲がローボの傍に舞い降りた。暫しの耳打ちの後、ローボが十四郎の背中に言った。


「砦に敵が迫ってる……少人数だが、手練れだ」


「襲うつもりでしょうか?」


 振り向いた十四郎の顔には血の気が無く、言葉とは裏腹に力が無かった。


「偵察の様だが、どうする?」


「……そうですね……」


 曖昧な返事の十四郎に、ローボは溜息をついた。そいて、ツヴァイの方に行くと小声で言った。


「砦に敵の斥候だ。十四郎はまだ動けない、お前が見て来い」


「分かりました」


 ツヴァイは十四郎の背中を見て、直ぐに頷いた。


「一応、あの女も連れて行け」


「えっ、アウレーリアですか?」


 ツヴァイはローボが指すアウレーリアを見て、顔を青褪めさせた。


「ああ。敵は手強い様だからな」


「しかし、アウレーリアが言う事を聞くがどうか……」


 情けない顔をするツヴァイを他所に、ローボは少し離れたアウレーリアの元に行った。すると直ぐにアウレーリアはツヴァイの元にやって来た。


「あなたの指示に従います」


 小さな声でアウレーリアは言うが、ツヴァイはローボに懇願する様に言った。


「ローボ。アウレーリアに何と言ったんですか?」


「十四郎の為だと言っただけだ」


 ローボがフンと鼻を鳴らすと、バビエカがやって来てアウレーリアは素早く跨った。


「私は?」


「後ろに」


 唖然と呟くツヴァイに、アウレーリアは小さく言った。仕方なく後ろに乗ると、甘い香りがツヴァイの鼻孔をくすぐった。思わず顔を赤らめるが、ローボは凛とした声で言った。


「目的は偵察だ。戦闘は可能な限り避けろ、大鷲に見張らせる。状況次第で、我々も直ぐにあとを追う」


「しかし、何度も言いますが、アウレーリアが私の言う事を聞いてくれるかどうか……」


「大丈夫だ……多分」


 眼を逸らしたローボが呟くと、バビエカは疾風の如く走り出した。




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