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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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見参

 エリーゼの攻撃は凄まじかった。瞬間移動の様にツヴァイとノィンツェーン、マアヤを前後左右から攻撃した。まさに、呼吸する暇や考える隙さえ与えずに続いた。


 永遠とも思われる時間……ただ、二人のダメージは確実に蓄積されるが致命傷にはならなかったのは、剣の加護もあるがマアヤの献身的な防御の成せる技だった。


「なんて攻撃だ!……だが、何とか耐えてる!……」


 ココは光の矢で援護を続けながら思わず叫ぶが、両腕の筋肉は悲鳴を上げていた。


「あの魔物! そろそろ限界!」


 叫び返したリルは剣の加護を持たないマアヤのダメージ気にするが、その叫び声は掠れていた。そして、マアヤが先に限界を迎えた。


 ノィンツェーンに振り下ろされたエリーゼの腕剣はマアヤの肩に食い込むが、剣は途中で止まった。マアヤはその腕に爪を食い込ませ、背中でツヴァイとノィンツェーンに叫んだ。


「アタシごと貫け!!」


「そんな事出来るか!!」


 ツヴァイは叫びながらエリーゼに飛び掛かり、二人の間に入ろうとするが物凄い風圧と激しい光の様な衝撃にノィンツェーンごと吹き飛ばされた。


 地面に叩き付けられ、ツヴァイの下敷きになったノィンツェーンは失神し、ツヴァイも背中を激しく殴打して起き上がれなかった。ココが気力を振り絞って駆け寄り、二人を抱き起そうとするが、ココ自身の腕も思うように上がらず頭の中は霧に霞んでいた。


 光の矢を渾身で放つ事は、体力には絶対の自信があるココでさえ、体力や気力を限界までに消耗させていた。そして、リルが居ない事に気づくが遠く視界の中のリルは体力を使い果たして、地面に突っ伏していた。


「このまま、真っ二つにしてやる」


 エリーゼの腕は筋肉が膨張し、腕剣にじわじわと力を込める。マアヤは片腕で肩に食い込んだ腕剣を抑え、もう片方で空いたエリーゼの腕剣を掴んでいた。当然、片手では如何に紅の獣王と呼ばれる魔物の力でも抗う力は限界に達し様としていた。


「あと少しで心臓だ」


「クッ……」


 エリーゼは真っ赤な唇を怪しく歪めるが、マアヤもまた激痛に顔を歪めた。じりじりと”最後に向けて進む鋭い刃先、マアヤの体力と気力は風前の灯だった。


_________



「あそこです!!」


「行くぞっ!!」


 視界にツヴァイ達を捉えた十四郎が叫ぶと、大鷲は急降下した。肩に激痛が走るが、十四郎にとって、どうでもよい事だった。


 大鷲は地面スレスレからエリーゼとマアヤに迫り、十四郎は素早く飛び降りるとエリーゼに正対した。


「魔法使い!!」


 エリーゼは叫ぶと同時にマアヤに前蹴り! 吹き飛ぶマアヤの残像が消えないうちに十四郎に斬りかかった。


 瞬間抜刀の十四郎は両腕の剣を火花と轟音を炸裂させ、横薙ぎ一閃で薙ぎ払う。だが、エリーゼは瞬間に返す刀で二の太刀を浴びせるが、十四郎は払った刀を神速で返して受け流した。


 そして、エリーゼが次の攻撃に移ろうと瞬間! 周囲に轟き渡るノヴォトニーの怒声がエリーゼの動きを止めた。


「待てっ!!!」


 だが、一瞬は止まったエリーゼだったが物凄い表情で十四郎に襲い掛かる。だが、次の瞬間!十四郎の直前で後方に吹っ飛んだ。


「待てと言った」


 そして、十四郎の目前には怒りと喜びをグチャグチャに混ぜたノヴォトニーの姿があった。


「十四郎様!」


 意識が朦朧としていたツヴァイは、掠れる視界の中で十四郎を視認すると自分でも驚く位の声が出た。


「皆さん、大丈夫ですか?」


「大丈夫です……なんとか……」


 十四郎の穏やかな声に、ココも頭を振りながら答えた。だが、かなりのダメージを受けながらも叫んだツヴァイを見て、少し張り詰めていた体の力が抜けた。


「それでは、参ります」


 刀を構え直し、十四郎はノヴォトニーに正対した。


「この機会を待っていた」


 ノヴォトニーは大剣を一度振ると、大きく上段で構えた。遠く後方で起き上がったエリーゼは、血の滲む程に唇を噛み締め、バラッカは雄叫びを上げた。


「十四郎様……迷いが無い……」


「ああ……そうだな……」


 ココは十四郎の様子に驚き、ツヴァイは朦朧としながらも安堵の声を震わせた。


__________



 先に動いたのは十四郎だった。正眼に構えた刀を顔の高さにして、刃を上向きして切っ先はノヴォトニーに向けた。右足を引いて左足を前に出し、半身になった霞の構えはツヴァイ達を驚かせた。


「何だ? あの構え……」


「ああ、見た事のない構えだ……」


 唖然と呟くココの横で、ツヴァイも声を震わせた。


「……俺は、強くなったと思ってた」


「そうだな……私もだ……だが……まだまだだ」


 ココは十四郎の背中に呟き、ツヴァイもまた霞む十四郎の背中を見詰めた。


「取り敢えず、下がろう」


「そうだな……」


 ココは気を失ったままのリルを抱えると、遠くで倒れてるマアヤの方に向かった。ツヴァイも、同じく気を失ったノィンツェーンを抱き起して後に続いた。


____________________



「変わった構えだ」


 ノヴォトニーは、十四郎の構えを見て怪しい笑みを浮かべた。防御体制でも攻撃態勢でもない初見の構えは、前に対戦した時に感じた事の無い優越感に包ませた。


 そして、一瞬の間を開けノヴォトニーは十四郎に電光石火で斬りかかる。常人では目で追えない程の速さ、遅れて金属音が鳴り響き、飛び散る火花との時間差が、ツヴァイとココを無言で威圧した。


 音と光、そして周囲を巻き込む風圧、十四郎とノヴォトニーは残像だけを残していた。何度かは、鮮血が飛び散りツヴァイとコを凍らせるが、ココは声を振り絞った。


「まさか、十四郎様が……」


「違うな、斬られたのはノヴォトニーだ……」


 一瞬見えたノヴォトニーの腕に、鮮血が吹き出したのをツヴァイは見逃さなかった。


「だけど……黄金騎士の奴……笑ってる」


 ノヴォトニーの口元を歪め笑う姿に、ココは背筋が冷たくなった。


「多分、前回の戦いでは十四郎様はノヴォトニーの命を奪う気は無かった……だが、今は違う」


「それが、笑う理由なのか?」


 強い視線で言うツヴァイの横顔を、ココは眉を顰めて見た。


「私も十四郎様に会う前なら、そう思った……」


 ツヴァイは俯きながら、少しだけ笑みを漏らした。


「猟師と騎士の違いか……俺にはさ、お前達の事が分からない」


 ココは呆れた様に呟くが、前は敵国の青銅騎士だったツヴァイの言葉が何故か嬉しかった。

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