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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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癒す言葉

 ビアンカの脳裏に低く、重いローボの言葉が響いた。


『このままでは十四郎は負ける……お前達も無事では済まない』


『……十四郎は……負けない』


 ビアンカは脳裏で、言葉を絞り出した。


『本当にそう思うか?』


 ローボの声が、また脳裏に響くがビアンカは答えられなかった。


『今の十四郎は村人への罪悪感だけでなく、魔物になった騎士達への罪悪感も混ざりココロはボロボロだ……お前達が心配しない様に、取り繕ってはいるがな』


 頭の中に響くローボの言葉はビアンカの胸を激しく揺らすが、答えなんて出なかった。だが、今まで見た事も無い魔物に引き裂かれる十四郎の姿が、ビアンカの目の奥で弾けると全身の血が沸騰した。


 更にローボの声が、全身が熱くなるビアンカの脳裏に響き渡った。


『お前は十四郎を心配するあまり自分を見失った。あの女は、お前と接する事で十四郎が顔を上げた事に動揺している……これでは……』


『私はっ!!』


 ビアンカは脳裏で叫ぶとシルフィーの手綱を強く引いて、今度は声を出して叫んだ。


「シルフィー! アルフィンに並んで!」


「分かった!」


 ビアンカの叫びに、シルフィーは直ぐに察して速度を上げた。そして、アルフィンに並ぶとビアンカは十四郎に向かって叫んだ。


「十四郎の罪は私も背負う! 十四郎! 十四郎は一人じゃない!!」


 一瞬で十四郎の中に燻る黒い靄は晴れ、目の前が明るくなった。


「ビアンカ殿……」


 十四郎は、ぎこちなく笑うと小さく息を吐いた。叫んだビアンカは十四郎に精一杯の笑顔を向けると、踵を返しアウレーリアの横に並んで叫んだ。


「私は十四郎を守る! あなたはどうするの!?」


 ビアンカの言葉と、真っ直ぐな視線はアウレーリアの胸を貫いた。


「私も……」


 声は小さかったが、アウレーリアの沈んでいた瞳に闘志の炎が蘇った。


「そうだ! 負けるなアウレーリア!!」


 思わずバビエカが叫ぶと、ビアンカは優しく微笑んで小さな声で言った。


「あなたが、頼り」


「……」


 アウレーリアは答えなかったが、走り去るビアンカの背中を強い視線で追い続けた。


『お前のやるべき事は分かるな?』


 今度は十四郎の脳裏に、ローボの声が響いた。


『はい』


 十四郎は力強く返事した。


___________



 村の遥か手前で、マアヤは止まった。ツヴァイ達が背中から降りると、マアヤは人の姿に戻った。


「これ以上近付くと、奴等に気付かれる」


「こんなに離れてるのにか?」


 怪訝そうな顔でツヴァイはマアヤを見るが、リルやノインツェーンは明らかに不満そうな顔で遠く村の方角を見ていた。


 雰囲気は最悪で誰も口を開かず、ただ風が揺らす木々の微かな音だけが各自の耳の奥に囁いていた。だが、そんな気まずい雰囲気もリルが最初に破った……激しい苛立ちと共に。


「待てない、先に行く」


「だから、俺達じゃ……」


 ココが暗い表情でリルの行く手を阻んだ。


「その弓は飾りなの?」


 リルはココの手にある魔弓を睨んだ。


「前とは違う。私も魔剣を手に入れた、戦かえる」


 直ぐにノインツェーンがリルに並んで、ココに迫った。だが、今度はツヴァイがココの横に並んだ……その顔は怒りと苛立ちに包まれ、言葉を喉の奥から絞り出した。


「魔剣も手に入れた……フラメル殿の地下迷宮でも、強くなった事を自覚した……」


「そうだ、私も手応えを感じる。だから、行こう……」


 乗り出したノインツェーンは声を弾ませるが、ツヴァイは強い口調でノインツェーンの言葉を途中で遮った。


「黄金騎士も魔物の力を手に入れた……どれ程強くなったか想像も出来ない」


「この魔弓は矢が尽きる事もない。威力も速さも桁違いで射程も数倍だ、それに物陰に隠れても回り込んで射抜ける……だが……」


 ココは握った魔弓に視線を落とす、脳裏には自分の放った弓を簡単に弾き返す黄金騎士の姿が過った。


「あたしの魔弓は、更に放った矢が数本に増える」


「えっ?」


 リルの言葉に、ココは自分の魔弓に無い機能に目を見開いた。そして、今まで黙っていたマアヤが大きな溜息と共に言った。


「行きたいなら行け、止めはしない……だが、魔法使いの戦いに足枷になる事だけは忘れるな」


 その言葉は逸るリルやノインツェーンの心を制止して、ココやツヴァイにも改めて事の重大さを知らしめた。


 そして、リルは唇を噛み締めて俯き、ノインツェーンも拳を握り締めて体を震わせた。


「お前、案外いい奴だな」


 ココはマアヤに微笑んだ。


「礼を言う」


 ツヴァイは背筋を伸ばして言った。


「アルフィン達に頼まれたからだ」


 マアヤは反対を向きながら、背中で言った。だが、次の瞬間!! 凄まじい殺気に全員が捉えられ身動きが出来なくなった。


 その全身を殴打される殺気の彼方には、三体の漆黒の影があった。やがて、その影は残像を結ぶと魔物を纏った黄金騎士の三人が現れた。


「迎えに来た……」


 耳まで裂けた真紅の口から、ノヴォトニーは怪しく笑った……悍ましい声で。


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