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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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 目覚めたビアンカに、ローボは今起こっている事態を説明した。ビアンカの胸は氷の剣を突き立てられた様な痛みに襲われ、直ぐに十四郎に視線を向けた。ぎこちない表情で十四郎はビアンカを見るが、直ぐに視線を外し俯いた。


「十四郎……」


 ビアンカの瞳からは、ゆっくりと涙が零れた。十四郎の痛みが洪水の様に自分の体に侵入して、全身を包み込んだ。


 そして、何も出来ない自己嫌悪に覆い被されながら泣くしか出来なかった。


「……」


 俯いたままでも分かるビアンカの泣いてる様子は、十四郎の胸を激しく揺らした。そして、ゆっくりと顔を上げると、子供みたいに泣くビアンカが更に十四郎の胸を圧し潰した。


 ビアンカの涙……それは、崩れ落ちそうな十四郎の心を内側からそっと支えた。自分の弱さのせいでビアンカが涙を流す事に、十四郎は体が震えた。


 大きく息を吐き、十四郎は立ち上がり精一杯の笑顔をビアンカに向けた。


「ビアンカ殿、大丈夫です……行きましょう」


「えっ?」


 泣き腫らした瞳が、一瞬輝きを取り戻す。ビアンカは、ふらつく足取りで十四郎に近付いて、胸に頭を付けた。


「本当?」


 頭を付けて下を向いたまま、ビアンカは消えそうな声で言った。


「はい……」


 腕を下げたまま十四郎は優しく言った。言葉とは裏腹に、十四郎はビアンカを抱き締める事は出来なかった。でも、顔を上げて見た十四郎の笑顔はビアンカを優しく包み込んだ。


 そんな二人の様子を、激しく揺れ動く胸の中を懸命に押さえながら見ていたアウレーリアは、消えそうな声でローボに聞いた。


「どうしたら……涙は……出るのですか?」


「さあな……」


 ローボも小さな声で呟いた。そして、暫くの沈黙が続いたが、けたたましい蹄の音が沈黙を彼方へと運び去った。


「十四郎!! 大変なんだよ!」


「アルフィン! 待って!」


 最初に飛び込んで来たアルフィンは、早口で状況を言おうとするが、直ぐに続いたシルフィーに止められた。素早く状態を把握したシルフィーは、ローボの目配せで全てを悟った。


「十四郎、大丈夫?」


「はい」


 シルフィーの問いに、十四郎は小さく頷いた。アルフィンも直ぐに察して、無言で十四郎に寄り添うと、十四郎は優しくアルフィンを撫ぜるのだった。


「お前ら、速すぎだろ!!」


 遅れて来たバビエカも、アウレーリアに近付くが直ぐに様子に気付いて声を上げた。


「こいつに何をした!」


「多分、何もしてないよ」


 シルフィーが穏やかに言うが、バビエカは更に興奮した。


「そんな訳があるか!」


「……」


「……お前……」


 アウレーリアが俯いたままバビエカに寄り添うとバビエカの興奮は嘘の様に収まるが、向き直ったバビエカは十四郎に強い視線を向けた。


「こいつをイジメるな」


「すみません」


 十四郎は深々と頭を下げたが、アウレーリアは俯いたままだった。バビエカは、アウレーリアの方を見ないで強めの口調で言った。


「思い通りにしたければ俯くな、真っ直ぐ前を見ろ」


「……はい」


 小さく返事したアウレーリアは、そっと顔を上げた。そんな様子を見守りながら、ローボは無言でついて行った。


__________



「十四郎、大丈夫なんだよね」


 走り出すと、アルフィンは心配そうに尋ねた。


「心配かけてすみません、大丈夫ですから」


 耳の後ろで聞こえる十四郎の声には、迷いは感じられなかった。


「分かった……でもね、十四郎には皆が付いてる事だけは忘れないでね」


 アルフィンは速度を上げながら、それ以上は何も言わなかった。十四郎は、アルフィンの言葉の余韻に強く手綱を握り締めた。


 シルフィーは泣き腫らした瞳のビアンカに、優しく言った。


「十四郎は大丈夫。支えるあなたが、しっかりしないと」


「うん……」


 ビアンカは風圧に目を細めながら、先を行く十四郎の背中を見詰めた。


「お前は誰にも負けない」


「……」


 バビエカは真っ直ぐ前を見ながら言う、アウレーリアは何も言わずにビアンカの背中を見詰め続けた。


__________



「馬を探して来る」


「アタシも行く」


 立ち上がったココにリルも追随した。


「お前達、動くなと言ったはずだ」


 仁王立ちのマアヤが鋭い視線を向けると、負けじとリルが睨み返した。だが、直ぐにツヴァイが間に入り、ノィンツェーンがリルを押さえた。


「馬は必要だ。徒歩でアルフィン達を追う事は出来ない」


 強めの視線でツヴァイが言うと、マアヤは全員を見渡した。


「お前達も行くつもりなのか?」


「止めても無駄だ」


 ツヴァイは、飛び掛かろうとするリルやノィンツェーンを制しながら凛とした態度で言った。


「言ったはずだ。魔法使いでも難しい相手だ、お前達なら……」


「百も承知だ。我々は十四郎様達の助けにはならない」


 マアヤの言葉を遮り、ツヴァイは語尾を強めた。


「ならば、何故……」


「それでも俺達は行く」


 今度はココがマアヤの言葉を遮り、リルが睨みつけた。


「止めても無駄だ」


「確かに戦う剣にはなれないだろうけど、盾にはなれる」


 ノィンツェーンは自分の剣を見詰めて言った。


「お前達の”死”を魔法使いは望まないんだろ?」


 呆れた様に、マアヤは呟いた。


「ああ、きっと十四郎様は……」


 ツヴァイは穏やかに笑みを浮かべた。


「全く……意味が分からん」


 大きな溜息を付いたマアヤは、赤い霧と共に深紅の巨大な獅子に変化した。


「乗れ」


 そう言って、伏せる姿勢になった。顔を見合わせたツヴァイ達が背中に乗ると、マアヤは風の様に走り始めた。

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