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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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魔物を超えた魔物

「押さえが効かないな……」


 血まみれの手を見詰めノヴォトニーは呟くが、その口角は怪しく上がっていた。


「血飛沫が、こんなに美しいとは……」


 同じ様に剣を流れる鮮血を見て、エリーゼも怪しく笑う。その後ろではバラッカが、低い唸り声を上げながら若い娘の死骸を貪っていた。


「あれはもう獣だな……」


 何故が嬉しそうに、エリーゼはバラッカの様子を見た。


「ああ、既に言葉も失い本能だけだ……お前はまだ正気なのか?」


 薄笑みを浮かべながら、ノヴォトニーはエリーゼを見た。


「正気? そうだな……何が正気で、何が正気でないのか……」


 エリーゼも薄笑みを浮かべて、鮮血を見詰めた。そんなエリーゼを見詰めながら、ノヴォトニーは全身に漲る”力”をゆっくりと開放する……腕や足、全身に溢れる得体の知れない何かが陽炎の様に立ち上がった。


「……魔法使い……」


 天を見上げたノヴォトニーの脳裏には、十四郎の姿がフラッシュバックした。刹那! 剣を抜いたノヴォトニーは雷鳴の様な雄叫びを轟かせた。直ぐにエリーゼも雄叫びを上げ、その脳裏には光りを纏うビアンカの姿があった。


「来るよなっ!」


 叫んだエリーゼの顔は、憎しみに歪んでいた。


「ああ、来るとも……来なければ、迎えに行くまでだ」


 声を押し殺すノボトニーの顔は、目だけが異様な光に包まれていた。


________



 起きて、焚火を囲むツヴァイ達は無言で火を見詰めていた。


「何だ? 臆したのか? 心配するな、奴等の目的は魔法使いだ、お前達は関係ない」


 溜息交じりのマアヤは、小さく溜息をついた。確かに魔法使いでも苦戦するであろう進化した化け物相手では、ツヴァイ達では荷が重いだろうと思った。


「煩い、黙ってろ」


 リルは声を押し殺した。


「確かに魔法使いや女騎士、あの魔女でも苦戦するだろうが……」


「そんな事じゃない! 十四郎様やビアンカ様は必ず勝つ!」


 マアヤの言葉を遮り、立ち上がったノィンツェーンはマアヤを睨み付けた。


「なら、何を悩むんだ?」


「お前に何が分かる!!?」


 薄笑みを浮かべるマアヤに、ノィンツェーンが掴み掛ろうとするが、無言のツヴァイがノィンツェーン腕を強く取って制した。そして、マアヤに向かい静かな声で言った。


「村の惨状を見て、十四郎様は心を痛める……」


「何だ? 魔法使いに知り合いでも居たのか?」


「十四郎様には縁も所縁も無い村だ……だが……」


 マアヤは首を傾げるが、ツヴァイは言葉を詰まらせた。


「なら何なんだ?」


 マアヤには訳が分からなかった。


「俺達だって心は痛む……だが、十四郎様の痛みは……」


 ココは惨状を見た十四郎の姿を思浮かべ、言葉を詰まらせるが、マアヤは呆れた様に大きな溜息を付いた。


「魔物のお前には分からないだろうな」


 諦めた様な目で、ココはマアヤを見た。


「ああ、アタシは魔物だよ。人の痛みなど分からないし、興味もない……だが、あれ程の強さの魔法使いが落ち込む姿は見てみたい」


 ココの言葉に、マヤヤは怪しい笑みを浮かべた。


「キサマ、もう一度言って見ろ……」


 今度はリルが詰め寄り、ノィンツェーンも唇を噛み締めて続いた。


「何だ、やる気か?」


 マヤヤは低く構えると、爪を出した。


「止めるんだ」


 ツヴァイは双方の間に入り、ココは飛び掛かろうとするリルを無言で羽交い絞めにした。


「先に手を出そうとしたのは、そっちだぜ」


 履き捨てる様に言ったマアヤに、ツヴァイは頭を下げた。


「二人がすまない……」


 真剣なツヴァイの態度に、頭に血が上りかけたマアヤは、大きく息を吐いた。


「まあ、いい……それより、お前達は動くなよ」


 マアヤはリルとノィンツェーンに視線を向けた。


「そのつもりだ」


 ココはリルを押さえながら、小さな声で言った。


_________



「ローボ殿」


「気付いたのか?」


 起き上がった十四郎は、寝そべるローボに小声で言った。


「アルフィン殿達が来ます」


「その様だな……」


「何かあったのでしょうか?」


 心配顔の十四郎に、ローボは寝そべったまま言った。


「心配ない、小娘達は無事だ」


「そうですか……」


 十四郎は大きな溜息を付いたが、ローボはゆっくりと顔を上げて少し笑った。


「ふっ、女魔物が注意しろと言って来た……お前にな」


「注意と言いますと?」


「行先の村で、元は黄金騎士だった魔物が待ち受けているそうだ」


「どう言う事ですか?」


 静かな声で、十四郎はローボを見た。


「ある魔物の血肉を食らえば、魔物の力を手に入れられると言う言い伝えがある。しかし、その魔物は生半可ではない強さだ。と、言う事は黄金騎士とか言う奴等……」


「本当なのですか?」


 ローボの言葉を遮り、十四郎は言葉を震えさせた。その様子を見たローボは、低い声で十四郎を見据えた。


「奴等が望んだのだ……強さを」


「ですが……」


 十四郎は肩を落として、声を掠れさせた。


「逃げるか? 奴等は相当な強さだ」


 ローボは傍で寝息を立てるビアンカを見た。だが、十四郎は俯いたまま、視線を向けなかった。


「逃げても追って来るだろう……それに、村人は全滅の様だ……女子供も含めて」


 俯く十四郎の肩が、ピクリと動いた。そして、いつの間にか、アウレーリアが傍に立っていた。


「心配しないで下さい。私が倒します」


「アウレーリア殿……」


 体全体から漲る闘志を陽炎の様に発したアウレーリアの姿に、十四郎は顔を上げた。


「そいつでも、危ういかもな」


 ローボはキラリと牙を光らせ、また寝ているビアンカを見た。


「……」


 十四郎はビアンカとアウレーリアを交互に見るが、言葉を発せなかった。そんな十四郎の様子を見たローボは、ゆっくりと立ち上がり十四郎を見据えた。


「ならば、言ってやろう……全ての原因は、お前だ……お前が解決しなければならない」


 はっとした十四郎は、目を見開いた。その時、ビアンカが目を覚まして十四郎を目を擦りながら見た。


「十四郎、どうしたの?」


 ビアンカの優しい声が十四郎の全身を覆い尽くし、アウレーリアの穏やかな視線も十四郎を背中からそっと支えた。


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