表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
328/347

人外の気配

 村の入口に現れたのは、狼の集団だった。人々は戸を締め息を殺して見守ったが、狼達は悠然と村の中心部に集まった。


 そして、一際大きな銀色の狼は低いが通る声で叫んだ。


「村の長は誰だっ!?」


 狼が喋るのに驚いた村人達だったが、誰の脳裏にも”神獣”ローボの姿が、銀色の狼に重なった。


「私が長です……あなた様は?」


 髭を蓄えた、小さな老人が一人で来て聞いた。


「我らはローボの同族だ」


「そうですか……あの、ローボ様の……所で、御用は?」


 ルーは敢えて名乗らなかった。老人は少し安堵した。獣神ローボは神であり、狼藉などしないと分かっていたから。


「持てるだけの食料を持って、村人全員が一時身を隠せ」


「それは、どう言う事でしょうか?」


 鋭い眼光のルーはそう言うが、村長は首を傾げた。


「この近くに居る軍勢を遠ざける為、食料を奪う。そうなると、奴等はお前達の村から食料を調達しようとするだろう……だから、お前達には食料と身を隠して欲しいのだ」


「ですが、全ての食料を持ち出すなど不可能です」


 確かに村長の言う通り、馬車や荷車を使っても運びきれないのは分かっていた。だが、ルーは毅然と言った。


「残りは我々で運び出す……心配するな、事が終われば元の場所に戻す事を約束しよう」


「しかし……」


 それでも村長は、言葉を濁した。


「何だ? 言いたい事があるなら言え」


 ルーは鋭い眼光で村長を見据えた。驚いた村長は、二三歩下がるとおずおずと言った。


「その……村に来て、食料がなければ……腹いせに村を焼き払うなどと……」


「その可能性はあるな」


 村長の危惧に、ルーは平然と言った。だが、憔悴する村長にルーはキラリと牙を見せた。


「食料調達に全軍では来ない。おそらく精鋭では無く、下っ端が小人数だ……村に残す我らの仲間が簡単に撃退する」


「それは……」


 村長は深々と頭を下げた。


「ルー様、運搬の獣達が着きます」


「それでは、始めよう」


 手下の狼の報告を受けると、ルーは凛とした声で言った。


___________



 夜中過ぎ、マアヤが戻って来た。気配で起きたココは、マアヤの険しい表情に首を傾げた。


「どうした?」


「……お前達が行く村を先に見て来た……」


 マアヤの声は歯切れが悪く、その視線は鋭くココに向けられた。


「場所を変えよう」


 ココは起き上がると、ツヴァイ達を起こさない様に場所を変えた。そして、声の届かない場所でマアヤはゆっくりと話し出した。


「村の全員が殺されていた。女子供を含めた全部だ」


「まさか、口封じか?」


「それは、分からない」


 ココは”火薬”と言う秘密を守る為に、先を越して証拠を消したのかとも思ったが、疑問も頭を過った。マアヤは首を振る……だが、魔物であるマアヤは惨殺など気にしないはずだが、その表情はココの思考を混乱させた。


「だが、せっかく覚えさせた技法を、自ら始末するのか? しかも、女子供は関係ない」


「……そんな、事はどうでもいいのだろうな……あの場所には魔法使いや、女騎士、魔女に対する凄まじい憎悪しか無かった」


「何だと? 見たのか?」


瞬時に十四郎やビアンカ、アウレーリアの顔が脳裏に浮かぶココの脳裏には、嫌な予感しか無かった。


「金色の鎧が三人……いや、三体」


「三体? どう言う事だ?」


 金色の鎧でココは黄金騎士かもと思うが、マアヤは人では無い示唆をした。


「多分、魔物の血肉を食らったんだろう」


 マアヤの声は沈んでいた。


「食らったら……どうなる?」


 最悪の予想は出来たが、ココは敢えて聞いた。


「魔物の力が手に入る……だが、奴等はそれだけでは無い」


「ああ、元が黄金騎士だからな」


 ココの声には恐れが溢れていた。


「何だそれ?」


 今度はマアヤが聞くが、その視線は鋭かった。


「前に戦った……何とか退けたが……」


 十四郎やアウレーリアは何とか問題にしなかったが、ビアンカや自分達の苦戦を思い出したココは戦慄した。あの力に魔物の力が加われば、どれ程なのかと悪寒が走った。


「まあ、悪い事は言わない。近付かないのが身の為だ」


「お前でも、苦戦しそうか?」


 マアヤが柄にもない事を言ったので、ココは少し笑った。だが、マアヤの鋭い視線がココに突き刺さった。


「苦戦? 奴等の戦い方次第では、魔法使いでも危ないさ」


 その言葉は、ココの胸の奥に不思議な闇を招いた。そして、気配に気付くとアルフィンとシルフィーが居た。


___________



「その話は本当?」


「十四郎より、強いの?」


 シルフィーとアルフィンはマアヤに詰め寄った。


「ああ、魔法使いでも危ないな」


 真剣な顔のまま、マアヤは答えた。


「なら、行かなくちゃ」


「そうね、十四郎を迎えに行く」


 即答するシルフィーに、アルフィンは同意する。


「お前達、聞いてるのか?」


 呆れた様にマアヤは溜息交じりで言った。


「ええ。ワタシ達が居なければ、この人達は行けないから」


「そうよ、それは十四郎が一番悲しむコトだから」


 シルフィーは、遠くで寝ているツヴァイ達を優しい眼差しで見た。アルフィンは、十四郎の為にもツヴァイ達を危険に近付けたくなかった。


「分かった」


「あなた、いい魔物ね。あの人達を十四郎が来るまで守って」


「お願い! 直ぐに戻って来るから」


 頷くマアヤにシルフィーとアルフィンはそう言うと、風の様に走り去った。当然、寝ぼけまなこのバビエカを叩き起こして。


「フン……勝手な事、言いやがって」


 マアヤは履き捨てるが、横に居たココは目をテンにいしていた。


「シルフィーやアルフィン、何処に行ったんだ?」


「魔法使いを迎えにな。心配するな、あいつ等が起きる前には帰って来る。お前も、もう少し寝てろ」


 顔を背けたマアヤは、静かに言った。


___________



「私が先に走るよ! 道は覚えてるから!」


「うん! 私達は気にしないで!」


 アルフィンはスピードを上げる。流石のシルフィーでも、追いつけない程にアルフィンは飛ぶ様に走った。


「こんな闇でも見えるのか!?」


 息を切らしたバビエカが叫ぶが、シルフィーは大声で叫び返した。


「アルフィンだから出来る事なの! アルフィンの足跡を追うよ! その道以外は危ないからねっ!」


「簡単に言うなっ!」


 同じ様に飛ぶ様に走るシルフィーの背中を見ながら、バビエカは涙目で叫び返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ