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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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休息

 アルマンニに行く人選は、かなり揉めたが最終的には十四郎を中心にツヴァイ、ノィンツェーン、リル、ココ、ビアンカ、アウレーリア、そしてローボとマアヤで行くことに決まった。


 リズはビアンカを抱きしめて泣いたが、自分の力量では足手まといになると自ら身を引いた。そして、留守を警備する為、フラメルが数十体のパペットを配備した。


 マルコスはイタストロア領内に居る仲間の誘導に向かい、引き続き砦の補修はロメオやグラディウスを中心に行う事になった。そして、マルコスが大勢の仲間を砦に迎える事で、補修や改造も目途が立つ事となった。


 ガリレウスは先にミランダ砦の説得に当たり、その後に国内の人々や王族の退避勧告行い、ダニーはフラメルに従い物資や職人の手配に帆走する事で残った人員の仕事は決まった。


「行くのには反対しないけど、大丈夫なの?」


 ライエカは、どう見ても疲弊しているツヴァイ達を見て言った。


「問題ありません」


「大丈夫です」


「平気だ」


 ツヴァイは背筋を伸ばし、ノィンツェーンは乱れた髪を整え、リルはボソッと言った。


「十四郎、ワタシ達が疲れてる人達を乗せて先に出るよ」


「バビエカが女の人二人を乗せて、ワタシとアルフィンが残り二人を乗せて行きます」


 そんな様子を見ていたアルフィンとシルフィーは、嬉しそうに十四郎に言った。


「先行すれば、私達が追い付くまで休めるね、十四郎」


「そうですね。お願いしますアルフィン殿、シルフィー殿、バビエカ殿」


 微笑んだビアンカを見て、十四郎はアルフィン達に頭を下げた。


「十四郎様、アルフィン達は何を?」


「ツヴァイ殿達はアルフィン殿達と一緒に先に出て下さい。そして、ある程度行った所で休んで私達の到着を待って下さいね」


 驚いて聞くツヴァイに、笑顔の十四郎が説明した。


「しかし、それでは到着が遅れてしまいます……」


 ツヴァイは俯き、傍で聞いていたノィンツェーンやリルも俯いた。


「アルフィン殿達が本気で走れば、あっと言う間に着いてしまい、ツヴァイ殿達の援護無しに私達だけで戦わないといけなくなりますよ」


「そうですよ、ツヴァイ。一番効率の良い方法です」


「ですが、ビアンカ様とてお疲れです……私達だけ休んでは……」


「大丈夫です。私達も休みながら行きますから。見て、十四郎を。疲れた素振りなんか見せないけど、本当は相当疲れてるんですよ」


「えっ、はい。実は疲れてます」


 慌てて疲れたフリをする十四郎を見て、ツヴァイは張り詰めていた何がが、フッと緩んだ気がした。


___________



「七子様、やはりもう少し時間が掛かりそうです。金属の加工は何とか出来ましたが、金属自体の耐久性に問題があり、数発の発射で銃身が破裂していまいます」


「そうか……」


 ドライの報告を受け、七子は頬杖を付いたまま小さく答えた。七子とて銃の構造は熟知していたが、銃身となる鉄の強度に対する知識は少なかった。火薬に関しては幼い頃より扱い慣れてはいたが、銃自身は既に完成されていて製造に関しては殆ど携わった事は無かったのだった。


「既に形にはなっております。後少しで使用に耐える物が出来ると思います」


「量産までは、まだ遠いな……」


「ですが、あの破壊力……完成さえすれば、七子様の夢への途方もない前進です」


 銃の破壊力を思い出し、ドライは口角を上げた。


「ならば、その夢を邪魔する者が放ってはおかないな」


「それなら、手筈は整っています……魔の山から返った黄金騎士を向かわせています」


「塩梅はどうだ?」


「はい。既に我々の命令さえ聞きませんが、魔法使いが来ると言えば素直に行きました。ただ、早く魔法使いが来ないと、村人を全員虐殺しそうで……」


 ドライは表情を変えずに言うが、七子は少し怪訝な顔をした。


「所詮、使い捨てか……」


「確かに使い捨てですが、魔法使いの仲間を少しでも削る事が出来ましたら……面白い事に……黄金騎士上位が魔物の力を得ていますので」


「そうだな……」


 七子はドライの言葉に、口元を緩めた。


___________



「力が漲るとは、こう言う事なのだな……」


 馬を走らせながら、ノヴォトニーは呟いた。その長い金髪は銀色に変わり、端正な顔立ちに面影は無く、耳まで裂けた赤い口元からは鋭い牙が覗いていた。


「こいつ、喋らなくなったな」


 隣りからエリーゼが、怪訝そうにバラッカを見た。エリーゼも美しさは保っているが、血のように赤い瞳が、風に靡く銀色の髪から見え隠れしていた。バラッカに至っては、筋肉は獣の様に盛り上がり、髭面の顔は鋭い牙と相まって正に野獣そのものだった。


「だが……あんな魔物、よく倒せたな……」


 ノヴォトニーは、究極の死闘を思い出した。


「ああ……あの屈辱がなければ、どうなっていたか……」


 エリーゼはビアンカの美しい顔立ちを思い浮かべ、唇を噛み締めた。


「そうだな……あの屈辱が我々を覚醒させた」


 脳裏に浮かぶ十四郎に、ノヴォトニーも拳を握り締める。確かに三人は最初は魔物に圧倒された……恐怖と後悔に支配され、普通なら命など無かっただろう。

 

 だが、怒りと憎しみが絶大な恐怖さえ打ち負かした。絶望的で圧倒的な魔物でさえ、十四郎やビアンカに対する憎悪が打ち負かした。


「あの女の恐怖に歪む顔が目に浮かぶ……」


 思い浮かべるビアンカの美しい顔が、エリーゼの口元を緩めた。


「ああ、魔法使いを八つ裂きにして……アウレーリアを倒す……圧倒的な力の差を見せつけて」


「ガゥウアアア!!!」


 ノヴォトニーが薄笑みを浮かべると、バラッカは空に向かって凶悪な雄叫びを上げた。


___________



「何なんだぁ!!」


 叫ぶしか、ツヴァイには出来なかった。アルフィンの超速は呼吸どころか目を開ける事すら困難で、霞む視界は物凄い速度で後方に流れ去った。


 必至に手綱を持ち鐙に全力を込めるが、浮かした腰はエンドレスの激痛が襲っていた。少し先を行く、シルフィーとココの姿も霧の様に霞んでいた。


「尋常、じゃ、ないな……」


 風圧で息が出来なくて、ココは呟くのが精一杯だった。多分、シルフィーやアルフィンは手加減しているのだろうが、全力で走ればどうなるのかと悪寒さえ走った。


 だが、十四郎やビアンカは超速の両馬に平然と乗っている。やはり、自分達とは次元が違うとココは改めて思い知るのだった。


「目が開けられない!」


「舌噛むぞ」


 あまりの風圧にノィンツェーンが叫ぶと、前に座るリルがボソッと言った。巨大なバビエカの乗り心地は悪くはないが、その驚愕のスピードに二人は驚きだけでなく、恐怖さえ感じていた。


 最早、手綱は持っているだけで進行方向やスピードなどは、全てバビエカにお任せの状態の成すがまま状態だった。


「しかし、馬とは思えないな」


 やや後方上空を飛んで付いて行くマアヤも、唖然と呟いた。本当は十四郎と一緒に行きたかったが、アウレーリアの物凄い威圧に負けて、先発に加わっていた。


 やがて、先頭のシルフィーが速度を落とした。そこは、小川の流れる小さな森でココには見覚えがあった。


「やっと止まったか……どうした?」


 ツヴァイは驚いた表情のココを、怪訝な顔で見た。


「信じられない……此処は、イタストロアとアルマンニの国境近くだ……普通なら三日は掛かる距離だ」


「まあ、天馬アルフィンと神速のシルフィーだからな……」


 アルフィンから降りたツヴァイは、ガタガタになった前進を摩りながら呟いた。


「ふー……これ以上乗ってたら体がバラバラになるとこだった」


「鍛え方が足りないからだ」


 フラフラのノィンツェーンにリルは言い放つが、リル自身も膝が笑っていた。


「ここで待つのか?」


 舞い降りたマアヤにも、疲労の色はあった。


「ああ、三日、いや二日は休める」


 焚火の準備をしながらココは背中で言った。


「そうだな……」


 呟いたツヴァイは、横になると速攻で眠りに落ちた。


「ツヴァイ、何も食べないの?」


 ノィンツェーンはそう言いながらも、焚火の横に崩れ落ちた。リルは黙ってノィンツェーンの傍に小さく丸くなる。


「何だ? もう寝るのか?」


「ずっと休みなしで来たからな……本当に気を休められるのは久しぶりだからな」


 呆れ顔のマアヤだったが、ココは穏やかに笑った。


「ふん、人なんて弱いものだな」


「そうだな……俺達は取り敢えず寝る。アンタはどうする?」


 溜息交じりのマアヤに、ココが聞いた。


「そうだな……暇なんで、その辺を見回って来るか」


 そう言ってマアヤは、空に消えた。ココは見送ると、焚火を大きくしてゆっくりと横になった。


「皆、疲れてるんだね」


「そうね、ずっと頑張って来たから……ゆっくり休むのなんて、どのくらいぶりかしら」


 直ぐに寝静まったツヴァイ達を、優しい眼差しで見たアルフィンとシルフィーだった。バビエカは少し離れた場所で、その様子を不思議な感覚で見ていた。


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