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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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炎の粉

「分かった……好きに使えば良い」


 フラメルはガリレウスの説明を聞いた後、少しの間を空けて言った。そして、十四郎に真っ直ぐな視線を向けた。


「お前は本当の魔法使いじゃな」


「いえ、私は……」


「この私を動かせたのじゃ、真の魔法使いである事は間違いない」


 恐縮する十四郎を前に、フラメルは大きく頷いた。


「それではフラメル様、もう一つお願いが」


 笑みを浮かべたガリレウスが、フラメルに一礼した。


「言って見よ」


「モネコストロの民は周辺の山岳地帯に一時退避させますが、十四郎様とそのお仲間が遠征に出た場合、民を守る兵が不足します」


「確かに」


 フラメルは腕組みした。


「そこで、パペット達をお貸し頂けましたら」


 ガリレウスは深く頭を下げるが、フラメルは眉を顰めた。


「それは良いが、大方は魔法使い殿が壊してしまったのだが」


「お造り頂けますでしょうか?」


「簡単に言ってくれる……で、数は?」


 簡単にいうガリレウスだっが、フラメルは頷いた。


「取り敢えず、千体程……勿論、材料などはこちらで手配致しますし、腕の良い職人もお手伝いさせます」


「千体か、本当に簡単に言ってくれる」


 全て計算済みのガリレウスを見て、大きく溜息をついたフラメルだった。


___________



 一同は一旦地上に出た。そして、眩い太陽を腕で遮ったフラメルの視界に空より蒼い小さな鳥が入った。その青い鳥は、そっとビアンカの肩に舞い降りた。


「よく、耐えたね……一度あちらに行けば……」


「はい……私一人の力ではありませんが」


 ライエカの言葉を受けたビアンカは、十四郎とアウレーリアを交互に見た。


「ビアンカ!」


「はい」


 急にライエカは声を上げ、ビアンカはそっとライエカの瞳を見詰めた。


「あなたの望みの為……あなた自身の為なのよ……しっかりしなさい」


 耳元で囁く、ライエカの穏やかな声……ビアンカは自然と涙が溢れた。


「泣かすな」


「何よ、あなたが付いてて」


 近付いて来たローボがライエカを睨むが、直ぐにライエカが言い返した。二人? は顔を突き合わせ火花を散らすが、その様子にフラメルは呆然とした。


 神と亜神が、まるで人間の様に言い争っている事態はフラメルには認知出来なかった。


「ご心配なく、ローボ殿もライエカ殿も本当は仲良しなので」


 顔面蒼白のフラメルに、十四郎は苦笑いで言った。神や亜神、魔法使いに魔物……常識や理解を超えた状況だったが、十四郎の微笑みは不思議な安心感でフラメルを包み込んだ。


「錬金術師殿、これが十四郎様です……私達が信じて付いて行く人です」


 ツヴァイはローボ達を見ながら、フラメルにしっかりした声で言った。


「さあ、皆さん作業に戻りますよ! やる事は山積みです! あっ、地下で頑張った人達は休んでいて下さい!」


 十四郎達を取り囲んで固唾を飲んでいた人々に、ロメオは大声で言った。座り込むマルコスとラディウス、ノィンツェーンやリル達に笑顔を向けながら。


 そして、人々は作業に戻り一段落した頃、偵察に出ていたココが血相を変えて戻って来た。


___________



「十四郎様、アルマンニの山岳地帯の村で奇妙な物を見ました」


「奇妙、ですか?」


 ココの表情には”恐怖”も見え隠れしてしていて、十四郎も神妙な面持ちで聞いた。


「はい。それは一見黒い砂の様な物ですが、火をつけると稲妻の様な轟音を放ち、まるでイタストロアの火山が大噴火したみたいな感じでした……」


「それは……」


 瞬時に十四郎の顔が曇る。


「知ってるのですか?」


 十四郎の表情をみたココの胸は動悸し、一緒に居たマルコスやツヴァイ達にも緊張が走った。


「それは、武器なのですか?」


 ガリレウスは察したかの様に、声を沈ませた。


「……はい。恐ろしい武器です……それは”火薬”と言われる物で、ココ殿が見て来た黒い粉ですが、多くの使い方があります」


 そこまで言うと、十四郎の顔は更に険しくなった。


「詳しく……」


 静かにガリレウスが呟いた。そして、少しの間を空け十四郎はゆっくりと話し始めた。


「鉄の管を作り、そこに鉛の球を入れ、火薬の爆発で球を飛ばします」


「それは、矢より凄いのか?」


 リルは強い視線で聞いた。


「はい……目に見えない速さですし、鎧など簡単に貫通します……そして、何より怖いのは、リル殿やココ殿の様に達人でなくても誰でも直ぐに使えて、しかも威力は達人の弓を遥かに凌ぐのです」


「誰でも、ですか?」


 ガリレウスの問いに、十四郎は目を伏せた。


「はい……女の人や老人、子供でさえ使えます」


「兵士が屈強な男である必要は無いなら、直ぐに大規模で強力な軍隊が出来ますね……その武器は長い訓練は必要なのですか?」


「訓練は必要ですが、そもそも難しくは無いようです……」


 ガリレウスの問いに答えた十四郎の脳裏に、幕末に銃の訓練を受ける若者や老人などの光景がフラシュバックした。


「アルマンニの魔法使いは、その武器で大陸支配を狙ってると言う事ですね」


「……まだ、火薬の使い方はあります……集めて固形にすれば、大きさに比例して爆発の威力も増大します……強固な城壁でも容易く破壊出来ます……鉄の筒を大きくして、大きな球の中に火薬を仕込めば、傍に行かなくても城自体を破壊出来ます……」


 十四郎の声は低く小さかったが、その破壊力は容易に想像出来て周囲の人々から言葉を奪って、無音の空間を作った。


「で、どうする気だ?」


 沈黙を破ったのは、ローボだった。俯いていた十四郎は、顔を上げてココを見た。


「ココ殿、火薬の製造はどの位進んでましたか?」


「まだ大量生産と言う程では無い様でした……言うなら、まだ試作段階かと」


 ココの答えを聞くと、十四郎はローボに視線を向けた。


「火薬は魔法ではありません。作り方が分かれば、製造は然程難しくは無いのです……今、七子殿が作らなくても、何れ誰かが作ります……ですが、私達の成そうとしている事にとって、最大の試練になる事は必至です……」


「ならば簡単だ。出来る前に潰せばいい……製造場所も製法を知ってる者を全て……」


「駄目ですよ、ローボ殿」


 十四郎はローボに悲し気な笑みを向けた。それまでビアンカ肩で見守っていたライエカは、十四郎の肩にふわっと移って溜息交じりにローボに言った。


「意地悪しないで、十四郎を助けてあげなさい」


「言われなくても、そのつもりだ」


 フンと鼻を鳴らし、ローボはぶっきらぼうに言った。


「十四郎様、製造場所を壊すのは簡単ですが……」


 傍に来たツヴァイは、声を落とした。ビアンカは黙って立ってるアウレーリアを見ると、小さく息を吐いた。そして、リズはビアンカの背中をそっと押した。


「ローボ。人の記憶の一部を消す事は出来ますか?」


 前に出たビアンカは、ローボを真っ直ぐに見た。


「出来なくはない……まあ、消すと言うより奪うのが正しいが……」


 そして、ローボの言葉が終わらないうちにビアンカは、十四郎に向き直った。


「十四郎、行こう」


 十四郎はビアンカの真っ直ぐな瞳を見て、心の中の霧がゆっくりと晴れていくのが分かった。


「はい……」


 十四郎は笑顔でビアンカを見た。


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