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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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強さとは

「ところで、セイシンリョクって何だ?」


「ココロの強さだ」


 唖然と聞きたマアヤに、ローボは静かに答えた。


「でも、あの人形……普通だな」


 首を傾げるマアヤは、前に出て来たパペットの速さや力強さ、技の切れ味などの一点強化した姿に比べ、別に特化した”何か”を感じられなかった。


「普通か……」


 ローボは戦うパペットの背中を見詰めた。そして、目を移した十四郎の微妙な表情に首を傾げた。


『どうした?』


「やりにくいです」


 脳裏に響くローボの言葉に、十四郎は困惑の言葉を返した。


『然程強いとは思えないが』


「そう言う事ではなくて……」


『なら、何だ?』


「強さとは、一体何なのかと……」


 十四郎は言葉を濁した。


『お前……』


「どうした?」


 十四郎を見詰めるローボが眉間に皺を寄せ、マアヤが怪訝な顔で聞いた。


「お前は、強さとは何だと思う?」


「何だ急に? 強さって速さや力、剣技とか持久力とかが全て揃った……そうだ、あいつみたいな……」


 マアヤは十四郎の背中を見詰めた。


「私もそう思った……だが、当の本人が聞いてきたのだ……”強さ”とは何かと、な」


「何だそれ? なら爺さんにも聞いてみたらどうだ?」


 ローボの真剣な声に、マアヤは大きな溜息を付くと老人を見据えた。


「それはじゃな……全ての能力が卓越して優れ、それらが高次元でじゃな……」


 老人の言葉は、十四郎の背中へゆっくりと吸い込まれた。既に自分の理論は十四郎によって打ち砕かれ、答えは振り出しに戻っていたから。


 その様子を見たローボは口元を緩めると、十四郎の脳裏に言葉を投げた。


『私を含め、誰にも言い表せない……だから、お前が示せ』


「……」


 十四郎は小さく頷いた……決意にも似た、凛とした表情で。


___________



「力を抜け」


「あんただって、相当力が入ってるじゃない」


 ツヴァイは剣に手を掛け、小刻みに震えるノィンツェーンの背中に言うが、速攻で返された。


「アタシが、最初にあの女を止める……だが、一瞬だ……一瞬しか止められない」


 矢を放つ体制を維持したまま、リルは小さいが鋭い声で言った。二人よりも数段負担の掛かる態勢のまま、小さな体でリルは耐えていた。


「分かった。後は任せろ」


 ツヴァイは剣を抜くと、ノィンツェーンに目配せした。ノィンツェーンは小さく息を吐くと、剣を抜いて低い体勢で何時でも飛び出せる様に構えた。


(何としても止める、体ごとアウレーリアに突進して全力で抱き付く……その後はノィンツェーンがビアンカ様を遠ざける)


 ツヴァイは心の中で、何度も繰り返した。十四郎との約束は守れないかもしれないが、ビアンカを守る為なら命など惜しくはなかった。


 そして自分が命を落とした時の、十四郎の様子が頭を過る……そこには、泣き崩れる十四郎の姿があった。


「……ふっ……」


 ツヴァイは思わず悲しそうに、顔を下げた。


「どうした?」


 剣を構えたまま、横目でノィンツェーンは聞いた。


「いや、何でもない」


 真顔に戻ったツヴァイは、剣を構え直した。何となく、笑みの意味が分かった気がした。でも、それ以上は何も言わなかった。


 結末はどうであって、必ずビアンカを守る……その強い決意だけが、今のノィンツェーンを支えていた。そして、視線を移したリルも微かだが息を乱してる事に気付いた。


「お前が頼りだ。初手はどんな事をしても防げ」


「言われなくても……」


 ノィンツェーンの言葉に、リルは消えそうな声で答えた。


___________



 ビアンカは葛藤していた。確かに術には操られているが、アウレーリアと戦ってる事は自分の意思でもあった。


 何度か剣を交えてアウレーリアの強さは分かっているが、今互角に戦えてる事には違和感があった。術の効果なのか、神器である”揚羽”の力なのかは正直分からなかった。


 でも、アウレーリアに対する怒りに似た感情。その根底にあるのは、暗く悲しい嫉妬である事は、ビアンカ自身にも自覚はあった。


 そして、アウレーリアが羨ましくて仕方なかった。自分の気持ちに正直に、何の躊躇いも疑いも無く十四郎の傍にいる事が出来る……それは、ビアンカにとって最大の羨望だった。


 だからこそ、手に握る”揚羽”に力が入り闘志が泉の様に湧き出していた。


 それはアウレーリアも同じだった。十四郎に剣を向けた事への怒りや、自分を邪魔するビアンカに対してのドス黒いモヤモヤした感情……そして、ビアンカを気遣う十四郎に対する苛立ち、嫉妬などが入り乱れていた。


 十四郎に出会うまでのアウレーリアなら、何の感情も抱かず、まるで空気を斬る様にビアンカを斬り捨てていただろう……でも、今のビアンカの強さに対する驚きや、自分でも気付かないうちに命を奪う事はしないで、剣を緩めている事が不思議でならなかった。


 しかし、今のビアンカには手加減の必要など全く無い。まるで、十四郎と初めて剣を交えた時の感覚に少し似ていた……。


「あなたが、嫌い」


 鍔迫り合いになった時、アウレーリアは小さな声で言った。


「それは……お互い様……」


 ビアンカも小さな声で答えた。


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