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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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武士道

 パペットの技の切れには、ローボでさえ唸るモノがあった。打ち込みの速さは当然だが、流れるように剣を切り返し、正確な剣筋には闘気が溢れていた。


 十四郎はパペットの剃刀の様な攻撃を、寸前で躱し続ける。そして、その横顔には安寧の笑みすら浮かべていた。


『余裕がある様には見えないがな』


 ローボの声が、十四郎の頭の中に響いた。


「ありませんよ、避けるので精一杯です」


『その割に、嬉しそうに聞こえるが』


「凄い使い手ですね。剣技一つ一つが、一級品です」


『それで、打開策は?』


「そうです、何かありませんか?」


 問われた十四郎は、逆に聞いた。


『お前の技を出せ』


「出したくても……」


 十四郎は苦笑いした。そして、パぺットの剣を受け流すと、思い切り後ろに跳んだ瞬間に刀を仕舞うと、左手で鯉口を切り、右手で軽く柄を握る。そして、左足を引くと低く構えた。


 そして、パペットが間合いを詰めた瞬間! 超速の抜刀! だが、唸る剣先はパペットの体に当たる寸前に空気を切り裂いた。


『今のはどうした? 斬れたはずだぞ』


 ローボの声は疑問に満ちていた。


「すみません。侍は夜討ちを掛ける場合でも、枕を蹴って起こしますので」


『言ってる意味が分からん』


「先人は、寝てる相手を斬る事は自らの技量が劣っていると認めた事になるので……と」


『お前もそうなのか?』


「少し違うかもしれません……この人は、私が回復するまで待ってくれましたから」


『全く、訳が分からん』


 吐き捨てたローボだったが、顔には笑みがあった。


「気に食わない」


 マアヤは腕組みしたまま、十四郎を睨んでいた。


「そうだな、人と言う生き物は分からない」


 ローボは同意したが、笑ってる様だった。


「何が可笑しい?」


 低い声でマアヤが睨んだ。


「私も最初に会った時には、お前と同じだった」


 振り向いたローボが、マアヤを穏やかに見た。獣神であるローボが、自分に向ける表情にマアヤは戸惑った。


「お前も知りたければ、十四郎と居るがいい」


「言われなくてもそうするさ」


 ローボの穏やかな声に、マアヤは目を背けた。


___________



 十四郎は抜刀術を繰り出すが、パペットへ剣を巧みに使って完璧に防御した。まるで、新たな技を見せろと言う様に、受け身に回りながら。


『見切られてるな。お前が親切に手口を見せたから』


「はい。受け方として理に叶ってますし、完璧な動作です。数手で見切るとは、大したものですね」


 頭に響く嬉しそうなローボの声に、十四郎も嬉しそうに答えた。


『感心してる場合か』


 溜息交じりにローボは呟くが、老人はパペットの善戦にテンションが上がっていた。


「如何ですか? あのパペットは大陸随一と言われた剣の達人なのです。異国の魔法使いの技など通用しません」


 ローボの背中に嬉しそうに言葉を掛けるが、振り向いたローボは溜息を漏らした。


「お前は今まで、何を見て来た」


「ですから、今までのは前座に過ぎません。今からが、本番なのです」


 焦る老人がそう言った瞬間! 十四郎の刀が、パペットの左腕を切り裂いた。致命傷ではなかったが、パペットは一旦引くと剣の持ち方を変えた。


 両手で持っていた剣を右手に変え、左手をやや曲げて胴の辺りに保持した。


「何が起こった……」


 唖然と呟く老人に、ローボが静かに言った。


「十四郎が速さを増した”だけ”だ。お前は頭の中だけで考え、人形を作った……戦いの何たるかを理解せずに」


 ローボの言葉に老人は愕然とした。そしてまた、マアヤも目を見開いた。


「何なんだアイツは……」


「フン、だから言ったろ。面白い奴だと」


___________



 十四郎は抜刀の速さを増した。だが、パペットも右手一本で、十四郎の繰り出す打ち込みを類まれな反射神経で躱した。


 だが、そこに”反撃”する余裕はなく、防戦するだけだった。そしてまた、十四郎はギアを上げる。


 同時に繰り出す刀の動きを二段、三段と変形加速する。最初の横薙ぎ! 神速で返す下方からの斜め袈裟斬り! その動作から連なる電光石火の突き! 二段までは避けれても、三段目の突きがパペットの右手首を貫通した。


 持っていた剣が地面に落ちると、パペットは一度十四郎を見る。そして、背中を向けると他のパペットの傍に、静かに座った。


 刀を仕舞った十四郎は、パペットの背中に深々と礼をした。


「残りは一体だな」


 傍に来たローボは、愕然とする老人の後ろに立つパペットを見据えた。


「最後は精神力の人ですね」


「何故分かる?」


「いえ、ご老人が仰ってましたから」


「敵に手の内を見せたのか?」


 呆れた様にローボが言った。


「例え分かったとしても、我の鎧は……」


「フン、ならばあそこに転がってる残骸は何だ?」


 腕を粉砕されて座り込む四体のパペットを、ローボは薄笑みで見た。


「それは……ですが、最後の鎧は」


 老人は言葉を震わせるが、ローボは気にもせず十四郎に言った。


「ところで、精神力とやらで戦いに勝てるのか?」


「大事な要素だと思います」


 十四郎は最後のパペットを、穏やかな表情で見た。


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