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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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その場所

 三人の連携は”究極”の域に達していた。リルが動きを止め、ツヴァイとノィンツェーンが仕留めて行く。その一連の動きは、やがて速度を増して加速度的に敵を殲滅した。


「底が見えて来たぞ!」


 ツヴァイが裏闇から湧き出す金銀のパペット達の数が、明らかに減ってるのを感じて叫んだ。


「あと少し! 矢の残りは!?」


 ノィンツェーンも頷きながら、リルに叫ぶ。


「よく分からんが、矢は尽きない」


 リルは幾ら放っても減らない矢筒を見て、他人事みたいに言った。


「便利なシロモノだな!」


 少し笑顔になったツヴァイは、パペットを薙ぎ払いながらノィンツェーンに叫んだ。


「あいつに持たせるのは、ちょっと怖いけどね!」


 そう、ノィンツェーンが叫んだ瞬間、超速の矢が目の前を掠めた。


「どこ狙ってる!?」


「外した。口の悪い女を黙らそうとしたんだが」


 真っ赤になって叫ぶノィンツェーンに、リルは平然と言った。


「素行の悪い女が何をっ!」


「お前達、どんな状況でも変わらんなぁ……」


 呆れる様に呟くツヴァイだったが、鋭い視線は次のターゲットに向いていた。そして、素早くポジションを変えると、瞬時にノィンツェーンがサポートの場所に付き、その瞬間にリルの神速の矢がパペットの脚をピンポイントで射抜いた。


 ツヴァイは一瞬動きの止まったパペットの首を切り裂き、その陰から飛び出したノィンツェーンが後ろのパペットを袈裟薙ぎで倒した。


 そして、三人の連携は更に精度を増しながら加速し、やがて全てのパペットを殲滅した。


「終わりだ。先に行くぞ」


 剣を仕舞ったツヴァイは、言うと同時に走り出す。頷いたノィンツェーントリルも、直ぐに後を追った。


________



 二人の動きは、尋常では無かった。幾度かの対戦を見て来た十四郎だったが、その動きと速さには驚きを隠せなかった。


「今までに無い動きだな。領域を越えないで、あの強さだ……」


 アウレーリアと互角以上に戦うビアンカを、ローボは強い視線で見た。


「確かに違う、アタシでも身の毛がよだつぜ」


 身震いしたマアヤは、目で追えない二人の動きに眉を顰めた。


「ビアンカ殿、どうしたんでしょか? やはり、術の影響でしょうか?」


 十四郎も真剣な眼差しでいうが、ローボは大きな溜息をついた。


「お前のせいだよ」


「えっ? 私?」


 目を丸くする十四郎に、ローボは強い視線を向けた。


「このままでは、いずれ限界が来る。術者をどうにかしないとな」


「確かに、時間が無いな」


 同意したマアヤも頷く。


「そうですね」


 十四郎は、そう言うと背中を向けた。そして、歩き始めた十四郎にマアヤが声を掛けた。


「付いて来い。本体の居場所は最深部だ」


「はい。ローボ殿、後は頼みます」


 ローボにそう告げると、闇に消えるマアヤの後を十四郎は追って行った。


_________



 その場所は、壁一面の本に覆われた広い部屋だった。そして、壁の本棚からは大小の木々が不思議な生え方で異常な雰囲気を醸し、見た事も無い道具に溢れ、薄い紫色の霧の様な靄に包まれていた。


 その中心には本の散乱した大きな机があり、そこに老人は座ったいた。


「ほう、それは魔物じゃな」


 俯いていた顔を上げ、老人はマアヤと十四郎を交互に見た。


「我が名は紅の獣王、お前は何者だ?」


 腕組みしたマアヤが老人を睨むと、横の十四郎は深々と頭を下げた。


「老人じゃよ……ただの」


 その目には活力は無く、節穴みたいに光を飲み込んでいた。


「こいつを消せば、術は解けるぜ」


 前に出たマアヤは、鋭い爪を出した。だが、十四郎は素早く間に入りマアヤを諫めた。


「マアヤ殿、下がって下さい」


「魔物よ、何故こ奴等に味方する?」


 老人は十四郎に視線を向けずに、マアヤを見据えた。


「お前には関係ない」


 マアヤも強い視線を返す。普通の人間なら、背筋も凍る炎の瞳を受けても、老人は顔色一つ変えなかった。そして、今度は十四郎を見据えた。


「お前達は、本当に実現出来ると思っているのか? 戦いの無い平和で平等な世界などと言う戯言を」


「……私は、この世界の人間ではありません……私の居た世界でも、平和と平等を求める戦いがありました……私もその戦いに加わり戦いました……そして、信じた”義”の為に多くの命を奪いました……」


 十四郎は老人を真っ直ぐな瞳で見た。


「そして、また繰り返すのか?」


 老人の言葉は、十四郎の胸を切り裂いた。だが、十四郎は声を絞り出す。


「繰り返したくないからこそ、戦いに挑むのです」


「戯言を、命のやり取り無い戦いなど幻想じゃ」


 薄笑みを浮かべた老人は、後ろに目配せをした。本の壁が荘厳な音と共に開き、その暗闇の中から五体の黄金のパペットが姿を現した。


「先の騎士は五つの技量を集結した一品じゃったが、こ奴らが元じゃ。集結させたとしても、やはり本元には及ばんようじゃ」


「そいつの言う通り、金銀の奴等の比じゃないぜ」


 鋭い爪を出したまま、マアヤは低い声で言った。だが、十四郎はゆっくりと刀を抜いて前に出た。


「マアヤ殿、下がって下さい。ご老人に決意を見せますので」


「一人でヤル気か?」


 呆れるマアヤに、十四郎は穏やかな声で言った。


「はい。手出し無用でお願いします」


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