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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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下層

「この先だ」


 前を走るマアヤが背中で言うと、ツヴァイは小さく頷き腰の剣に手を掛けた。自分達がいた階から二階ほど下の階は、やや広い空間で建物が散在していた。当然、マアヤが火の玉で照らして視界は薄暗いながらも確保されていた。


「分かりやすいな……色からして、今度の奴等は手強そうだ」


 呟いたツヴァイの視界の先、建物の陰から出て来たのは金色をベースにした鎧に各所に銀色を散りばめたパペットだった。


「確かに、鎧は上等そうだな!」


「待て!」


 マアヤは叫ぶと金銀のパペットに突進した。ツヴァイは咄嗟に叫ぶ! 金銀のパペットは一体ではなく数体で、一瞬のうちにマアヤを取り囲んでいた。


「ちっ!」


 舌打ちのマアヤは、急ブレーキで反転すると瞬時にツヴァイの横に戻った。


「流石に速いな……」


「それだけじゃない、囲まれた時の威圧感が半端ないぞ」


 真剣な顔のツヴァイだったが、マアヤも視線を強くして金銀のパペット達を睨んだ。


「どうする? 通してくれそうにないぞ」


 マアヤは金銀のパペット達から遥か後方にある、下の階へ続く階段を見た。


「行くしかない」


 ツヴァイは剣を抜くと、正眼に構えた。だが、金銀のパペット達の凄まじい殺気と、その数に押されて仕掛けられなかった。


「一対一なら何とかなるが、何せ数がなぁ……」


 頭の後ろで手を組んだマアヤが他人事みたいに言うが、ツヴァイは金銀のパペット達から視線を動かせなかった。剣を握る手にはベタつく汗が滲み、悔しさと怒りが頭の中で重圧を増して行く。


 だが、一瞬脳裏に浮かんだビアンカと十四郎が、ツヴァイを揺り動かした。そして、体の奥底から熱い何かが湧き出した。


 ツヴァイは大きく息を吐くと、一番近くに居た金銀のパペットに猛然と斬りかかる。しかし、金銀のパペットは一瞬で剣を抜くと、ツヴァイの剣を轟音と共に受けた。ツヴァイの腕は物凄い衝撃に襲われ、その痛みは全身を貫いた。


 そして、受けると同時に見えない速さの横薙ぎがツヴァイを襲った。素早く剣を立て、受けるツヴァイだったが、その威力は凄まじくツヴァイの鎧を受けた剣ごと強打した。


 息が一瞬止まる程の衝撃だったが、ツヴァイは目を見開き次の上段からの攻撃を受け流した。


「受けるのが精一杯か……」


 呟いたマアヤは腕組みをした。だが、ツヴァイは金銀のパペットから繰り出される攻撃を歯を食いしばって受け続けた。だが、一体なら受け続けられたかもしれないが、二体目が加わる事はツヴァイにとって、最悪の事態にも匹敵した。


 それでもマアヤは、腕組みしたままツヴァイの戦いを見ていた。そして、最悪の事態は訪れる、一体の剣を受け流し、次の態勢に入ろうとした瞬間! もう一体が背後から斬りかかった。


 だが、ツヴァイは振り向く事さえせずに、背中に回した剣で受けると、前方の金銀のパペットに渾身の一撃を見舞った。そして、後ろ蹴りで後方の金銀のパペットを蹴り飛ばした。


 肩口に手傷を追った前方の金銀のパペットは一旦引き、後方の金銀のパペットは剣を構え直した。何とか二体の攻撃を躱したツヴァイだったが、態勢を組みなおした金銀のパペット達は囲むようにツヴァイを四方から凝視していた。


「今のは決まったと思ったが、やるなお前」


「私がこいつ等を引き付ける。お前はビアンカ様の元に行け」


 ニヤリと笑うマアヤに、ツヴァイは周囲を睨みながら言った。


「二体で精一杯、お前を囲んでる奴等は五体はいるぞ?」


「問題ない」


 溜息交じりのマアヤだっが、ツヴァイは強い視線で言った。


「でもさ、アタシがあの女を助けるのか?」


「頼む……」


 嫌そうにマアヤは言うが、ツヴァイは真剣な顔で頭を下げた。


「……行くけど、助けるとは限らないぞ」


 マアヤは、そう言うと宙に飛ぶが、その瞬間にツヴァイは一斉に金銀のパペットの攻撃を受けた。


________



「何も見えないぞ!」


「とにかく下だ!」


 手にした松明での視界は極小で、思わず先に行くノィンツェーンの背中にリルが叫ぶがノィンツェーンは叫び返した。既に闇に対する恐怖など、ノィンツェーンの中からは完全に消えていた。


 そんなノィンツェーンの様子を見たリルから、思わず笑みが零れた。だが、その顔は直ぐに硬直した。前方の闇の中に微かに浮かぶ光、誰かが戦ってる……。


「師匠!」


 叫んだリルは銀色の鎧達に矢を射るマルコスに叫んだ。その先では、ラディウスが鎧相手に剣を振り回し、アウレーリアが見えない速度で鎧達を切り刻んでいた。


「リルかっ! 丁度いい! 加勢しろ!」


「師匠! ビアンカはっ!?」


 叫ぶマルコスに、リルが叫び返す。


「さあな! ここにはいない!」


 マルコスは矢を射ながら叫んだ。


「ツヴァイ達はどうしたのっ!?」


 ツヴァイやマアヤがいない事に気付いたノィンツェーンは、格闘するラディウスに叫んだ。


「下に行った! マアヤがビアンカ様を見つけたってなっ!」


「リルっ!!」


 聞いたノィンツェーンは近くの鎧を蹴り倒すと、リルに叫んで下に向かう階段に走った。


「分かった!」


「分かったって、おい!!」


 叫び返したリルも直ぐにノィンツェーンの後を追い、マルコスは大声でリルの背中に叫んだが、その背中は直ぐに階段に消えた。


__________



 どれ位下ったのか? また先の方がぼんやりと明るくなると開けた場所に出た。そして、その中心には見覚えのある鎧。それは確かにツヴァイの後ろ姿だった。


 背中の矢筒から素早く銀の矢を抜いたリルは、片膝を付くとツヴァイの背中に向けて矢を放った。それも、見えない程の速さで連射したのだった。


「何をっ!?」


 耳元を掠め空気を切り裂き唸る矢! ノィンツェーンの叫びが漆黒の闇に響き渡った。


_________



 十四郎は闇の階段を下っていた。神経を研ぎ澄まし、ビアンカの気配だけを追って。


『闇の中でよく走れるな』


「ええ、まあ慣れてますから……それより、ビアンカ殿は」


 呆れ声のローボの声が脳裏に響くと、十四郎は真剣な声で聞いた。


『直ぐだ……だが……』


「無事なのですね?」


 ローボは言葉を濁すが、十四郎の声は低く響いた。


『ああ、無事だが様子がおかしい』


「よかった」


 ”無事”だと言う事にだけ、十四郎は反応した。


『その先はいいのか?』


「無事が一番です」


 呆れ声のローボに、十四郎はきっぱりと言った。


『そうか……もう少し先だ……』


 そして、暗闇の階段の先がほんのりと明るくなる。その場所は広場の様になっており、ビアンカが揚羽を持って立っていた。


 その表情は逆光で見えなかったが、俯き加減の顔には美しい金髪が乱れていた。


「ビアンカ殿……」


 十四郎が呼んでも、ビアンカは何も言わなかった。

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