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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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地下の老人

「何してる?」


 呆れた様にローボが言った。十四郎は、しゃがみ込んでバラバラになったパペットを手に取り、色々な角度から見ていた。


「あっ、これ普通の鎧ですよ。中には何もないですね……」


「だから、何だ?」


 嬉しそうな十四郎に、ローボはまた溜息をついた。


「上手く斬れば、まだまだ使えます」


笑顔の十四郎は、鎧の胴体部分を差し出した。


「使うって、何にだ?」


 意味の分からないローボは首を傾げた。


「かなりの数がいる様です。これは皆さんの防具になります」


 鎧を置いた十四郎は立ち上がると、無数に群がるパペットを見た。


「何かしらの術が掛けられてるシロモノだぞ」


 当然の忠告。ローボは訝し気な顔で十四郎を見るが、そんな危惧は、笑顔に緩和された。


「そうですね。でも、術を掛けた人に解いてもらえば問題ないですよ」


「好きにしろ」


 溜息交じりのローボだっが、十四郎はツヴァイに大きな声で言った。


「ツヴァイ殿! 出来るだけ壊さないで下さいね! 後で使いますから! マアヤ殿もお願いしますね!」


「何ですって!?」


「後で使うんだと……でも、あいつはいいのか?」


 叫び返すツヴァイに、ラディウスは大きな溜息をついてマアヤを見た。マアヤはパペットの動きに慣れてきたのか、返事もせずに嬉々としながら凄い勢いでブッ壊していた。


「ああ、無理だな。あいつの性格じゃ……」


 ツヴァイも大きな溜息をついた。


「確かに鎧はあった方がいいが……」


 マルコスは見渡す限りの視界に入るパペットを見ると、気が重くなった。だが、更に視線を移すと驚愕のアウレーリアの後ろ姿があった。


 アウレーリアは一太刀でパペットを切り裂いていた。ブンと言う風きり音がすると、パペットは手足と首が地面に転がる……しかも、金属音は全くしなかった。


______________



「ビアンカ様!」


 地上からの階段から駆け降りて来るビアンカ姿を見つけ、ノィンツェーンが叫んだ。だが、ビアンカは目もくれず更に下方に続く階段を目指す。


「追うぞっ!」


 直ぐにリルが後を追おうとするが、直ぐにガリレウスが制した。


「行かせなさい。追う必要はありません」


「しかし!」


「そうです! ビアンカ様を一人では行かせられません!」


 リルは激しい口調で叫び、ノィンツェーンも懇願する様に声を上げた。


「ビアンカは一人で乗り越えないといけません……ありがとうございます。ビアンカを心配して頂いて」


 穏やかな声で頭を下げるガリレウスに、リルもノィンツェーンも何も言い返せずに走り去るビアンカの背中を見詰めるだけだった。


 そんなビアンカは、一瞬だけガリレウスを見たが直ぐに近くにあった松明を取ると第二層へ続く階段を駆け下りた。


「本当に、よいのですか?」


 ノィンツェーンは真剣にガリレウスを見た。リルもノィンツェーンの横で、真剣な眼差しをガリレウスに向けた。


「ビアンカの瞳に迷いはありませんでした……」


 そう呟いたガリレウスは、とても穏やかな表情だった。


______________



 地下に続く階段は、その先を闇に包み隠してビアンカの不安を煽る。だが、その先に十四郎がいる事を思うだけで不安は一瞬で解消された。


 階段は松明の照らす部分意外、漆黒の闇で音さえも吸収した。足音さえ、耳に届くと同時に消え去り呼吸の音が耳鳴りを伴い微かに残った。


 第二層は数か所の松明が照らしていたが、ビアンカは素早く人の気配を探す。だが、炎と闇が作り出す光景は人の存在を否定している様にも見えた。


「……此処じゃない……」


 呟いた自分の声が、頭の中心で木霊した。そして、薄暗い視界の先に更に下へと続く階段を見つけた。一瞬の迷いもなく、ビアンカは階段に向けて走った。


 しかし、今度の会談は急傾斜で周囲の闇も”漆黒”さは違っていた。そして、何処までも続く階段は、ビアンカの精神をゆっくりと圧迫した。


 ”このまま”……そう言う思考が何度もビアンカに覆い被さるが、その度に笑顔の十四郎が脳裏に浮かんで、何とか精神を維持出来た。


「ここは……」


 長い階段が終わり地面が平行に現れると漆黒は次第に薄れ、地下のはずだが松明が無くてもぼんやりと周囲を見渡せた。やがて、恐ろしく高い天井部分から一筋の光が差した。


 その光は夜明け近くの明るさだった……そして、現れた街並みには何故か見覚えがあった。


「似てる……」


 思わず呟くビアンカの脳裏には、幼い頃の記憶が蘇る。それは幼い頃、父と歩いた王宮の街だった。だが、街に人影はなくて薄い霧の様なモノが漂っていた。


 ゆっくりと街の中を歩くビアンカは、ただ十四郎の痕跡を探した。そして、街の中心にある懐かしい噴水の所に来た。噴水はビアンカが大好きな場所だった……中心に立つ女神の持つ剣から吹きだす透明な水、ビアンカは噴水の縁に座ると水に手を入れた。


 冷たい水の感覚は、ビアンカの焦る気持ちを穏やかに癒した。そして、ふと視線を上げると遠くに老人が居た。


 その不思議な老人は長い白髪と、強い視線でビアンカを見ていた。


「お前達は何者じゃ?」


 その掠れた声は、ビアンカの耳に直接響いた。


「私達は……」


「お前の持つグレイヴ……それは普通のモノではない……他の者達の武器も……」


 老人はビアンカの持つ”揚羽”を驚いた様な表情で見ていた。そしてゆっくりと近付くと、ビアンカの鎧に刻まれた双頭竜の紋章を見て、更に声を上げた。


「その紋章はスフォルッア家の……」


「ご存知なのですか?」


 ビアンカは不思議な感じに包まれ、老人の驚く表情を見詰めた。


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