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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
310/347

地下

「これを見て下さい」


 簡易テントの中にあるテーブルに、ガリレウスはボロボロの地図を広げた。


「これは……」


「そうです。モネコストロに伝わる古地図です。そして、この本はマジノ遺跡に関する文献です」


 テーブルに両腕を付き絶句するマルコス。ガリレウスは、今度は物凄く古い革表紙の古書を取り出した。


「マジノ遺跡は広大です。城壁も最低限の修復で十分機能します……ですが、城内には建物などの構造物はありません。現状、城として使う場合は数千人が限度でしょう。しかし、この文献には数万人が、この場所で暮らしていた記述があります」


「地図ではイタストロアとフランクル、両方に備えた事が分かりますね。しかし、遺跡周辺の山岳にある、この印は何でしょうか?」


 ロメオは、遺跡周辺の山岳に違和感を感じた。


「印も古代遺跡の場所です」


「そうです! 山岳には岩をくり抜いた小さな洞窟が無数にあります……まるで、家の様な……」


 微笑むガリレウスの横で、マルコスが声を上げた。


「なるほど、そこにモネコストロの住民を非難させる訳ですね」


 腕組みしたロメオは大きく頷いた。


「はい。万が一敵が侵攻して来ても、山岳の住民を襲うには手間も時間も掛かります。まして、価値の無い山など、後回しでしょう」


「しかし、昔の人は凄いですね。これなら城が敵に囲まれても、山岳地帯から駆け降りて敵の背後を迫られますから」


 笑顔の十四郎の言葉に、ガリレウスとロメオは頷いて笑顔になった。


「それでは、この絵を見て下さい」


 古書の1ページには、遺跡の全体図が描かれていた。


「やはり最初から城壁の中には建造物は無いようですね」


「でも、これ畑みたいですね」


 真剣な顔で絵を見るロメオの横で、十四郎は首を傾げた。確かに城壁の内側には、畑の様なモノが広がっていた。


「確かにそう見えるが……」


「城外と城内では植物の分布に違いがあります。城内では外の様な巨木は異常に少なく、草原みたいな感じですね」


 マルコスは腕組みしたまま顔を顰め、ロメオもまた首を捻った。


「十四郎の言う通り、城壁で囲った畑と言う事ですか? でも、記述には城内で多くの人が暮らして居たと……」


「十四郎殿は、どうお考えですか?」


 それまで黙っていたビアンカがガリレウスを見ると、ガリレウスは穏やかな笑顔を十四郎に向けた。そして、隅で黙って十四郎だけを見詰めていたアウレーリアは、一瞬ビアンカに視線を移した……その視線は、とても強くてビアンカも思わず見返した。


「城内で大勢の人が暮らすなら、食料は必要ですね。だから、畑を作った……」


「確かにこの広さなら、かなりの量の食料を作れる……だが、そもそも人は何処に住むんだ?」


 十四郎は、そんな二人に笑みを見せ、今度は少し真剣な顔をするとマルコスは溜息をつく。


「そうですね……例えば、地下とか」


「その可能性はあります。ですが、この本の中には出てきません」


 十四郎の答えに、ガリレウスは笑顔のまま言った。


「待って下さい……山岳地帯の洞窟付近には大規模な採石場の跡があります……それに、モネコストロには他国には無い石工の伝統文化があります」


 目を見開いたマルコスは、ガリレウスを見詰めた。


「我らが先祖には、地下に住む場所を作れる下地はありますね」


 ガリレウスはそう言うと、今度はロメオを見た。


「入口を探してみる価値はありますね。もし文献通りなら、数万が暮らせる空間があると言う事です。そうなれば、単なる城ではなく城塞都市です」


「ですが……」


 マルコスはアルマンニの動向が気になって仕方なかった。確証も無いのに発掘など、している場合では無いと焦りにも似た複雑な心境だった。


「確かに地面の下で暮らしていたな」


 急に現れたローボは、全てを悟ってるかの様に言った。


「これはローボ様、お目に掛かれて恐悦でございます」


 跪いたガリレウスは、深々と頭を下げた。


「ローボ殿は見たのですか?」


「ああ……そいつも知ってたがな」


 呆気に取られる十四郎だったが、ローボは鋭い視線でガリレウスを見た。


「これは、お見通しでしたか」


「フン……掘るなら、応援を呼ぶか?」


 にこやかに微笑むガリレウスに、ローボも口元を緩めた。


「是非、お願い致します」


 深々と頭を下げたガリレウスに背中を向けると、ローボはテントの外に出て稲妻の様な遠吠えをした。


_______________



 物凄い轟音が、城壁の外から響き渡った。直ぐにリルが城壁の上に飛び、振り返って怒鳴った。


「山みたいな熊だ! 向かって来る!」


 直ぐにツヴァイやノィンツェーンが駆け出そうとするが、十四郎は苦笑いで呼び止めた。同時にアウレーリアは、巨大な熊の前に立ち塞がっていた。


「あの、多分心配いりません」


 十四郎は目でアウレーリアに大丈夫だと合図を送る。直ぐにアウレーリアは、十四郎の傍に戻った。


「十四郎様、巨大な熊ですよ!」


「多分、知り合いです」


「へっ?……」


 頭を掻く十四郎の苦笑いに、ノィンツェーンは目を”テン”にした。そして、巨大な熊は城壁前で止まると、後ろ脚で立ち上がった。その背丈は殆ど城壁の高さに匹敵していた。


「お久しぶりです。ウィード殿」


 十四郎は直ぐに城壁に駆け上がり、頭を下げる。


「ジュウシロ……」


 それまでの凶悪とさえ思えた熊の表情が、十四郎を見ると穏やかになった。


「すみません、ウィード殿。穴を掘るのを手伝って下さい」


「ワカッタ」


 そう言うと、ウィードは城門を潜った。壊さない様に、巨体を屈めながら慎重に。


「ウソだろ……」


「十四郎様、熊にも知り合いがいるの?」


「十四郎らしいですね」


 唖然と呟くリルとノィンツェーンの横でビアンカも微笑んだが、十四郎の傍から離れないアウレーリアを悲しそうな瞳で一瞬だけ見た。


「ナゼ、オマエガ、ココニイル?」


 だが、城内に入るとウィードの表情が一変した。その鋭い眼光の先には、仁王立ちのマアヤがいた。


「それは、こちらのセリフだ。」


 怪しく笑うマアヤは、更に鋭い視線で睨み返した。


「正に水と油、魔物界でも有名だからな」


「ローボ殿……」


 他人事みたいに吐き捨てるローボの横で、十四郎は冷や汗を流した。


「でも、お爺様。掘るって言っても、この広さは……」


「そうじゃな、見渡す限りの草原……何処を掘ればよいのやら」


 緊迫した状況など関係ない様に、ビアンカはガリレウスに問い掛け、ガリレウスも笑顔で返していた。


「あの、お二人とも……」


 十四郎は更に苦笑いで冷や汗を流した。


「地下への入口は城門の近くにある方が攻撃には良いが、攻め込まれた時には遠い方が有利ですね」


 腕組みしたロメオは草原を見ながら言うが、ツヴァイは火花を散らすウィードとマアヤを横目で見ながら青い顔で呟いた。


「いいんですか、あっちは?」


「まあ、十四郎殿やローボ殿もいる事だし、心配は無いと思いますよ」


「そうですかねぇ……」


 ロメオはツヴァイに微笑むが、ツヴァイはノィンツェーンやリルに振り返り肩をすぼめ、二人も同じ様な仕草で苦笑いした。


_______________



「それでは十四郎殿、掘る場所の指示をお願いします」


「そう言われましても……」


 笑顔のガリレウスは平然と聞いて来るが、十四郎には全く見当もつかずに為息をつくしか出来なかった。


「十四郎……嫌な臭いがする」


 傍に来たローボは、小さな声囁いた。


「マアヤ殿、ちょっと……」


「何だ?」


 直ぐに察した十四郎はマアヤを呼ぶが、マアヤはウィードとの睨み合いの最中で面倒そうに言った。仕方なく十四郎はマアヤに近付いて耳打ちするが、ビアンカの顔は真っ赤になっていた。そして、アウレーリアに至っては既に剣に手を掛けていた。


「何か感じますか? この地下から」


「ああ、プンプン感じる」


「それは、悪しき感じですか?」


 真剣な十四郎にマアヤはニヤリと笑うが、直ぐに視線を強くした。


「それを、ワタシに聞くか?……まあ、いい……確かに地下には”何か”が潜んでいる。だが、それは我ら魔物とも、神とも違う」


「ああ、精霊などの類でもない」


 マアヤの言葉に、ローボも被せた。


「十四郎殿、どうしますかな?」


 横で聞いていたガリレウスは、穏やかな笑みを浮かべたまま聞いた。そんなガリレウスに、ローボはフンと鼻を鳴らした。


「私達もこの場所を使わせて頂きたい。その為には、お会いする必要はありますね」


「はい」


 十四郎の言葉に、ガリレウスは笑顔で頷いた。


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