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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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残された者

「アルフィン殿、少し休憩しましょう」


 平気で走り続けるアルフィンに、十四郎は声を掛けた。明らかにココとリルの馬は疲れて息を乱していた。


 森は続いていたが、まだ周囲は明るく太陽は穏やかに降り注いでいた。十四郎はココとリルの馬に近付き声を掛けた。


「大丈夫ですか?」


「……なんとか」


 ココの馬が息を弾ませるが、リルの馬は目線を合わせ様ともしない。


「休みは必要ありません」


 馬を降りないまま、ココは十四郎を見下ろした。


「あなたは疲れてなくても、馬は疲れてますよ」


 十四郎は馬を撫ぜた後、近くにあった切り株に座った。仕方なく馬を降りたココはリルに休憩を促すが、無言で馬を降りると木々の間に消えた。


 沈黙の休憩は暫く続いた後、十四郎はココ達の馬に聞いた。


「どうです、そろそろ大丈夫ですか?」


「はい、もう大丈夫です」


 どこからともなく戻ったリルは馬に乗り、無言のままココも用意を済ませた。


「これから先は道が分かりません、先に行って下さい」


 十四郎の言葉にココは黙って頷くと、馬を森の奥へと向けた。見える範囲だが、その先の森は明らかに違っていた。緑の濃さも漂う空気も、まるで人を寄せ付けない様に霞みながら、太陽の光さえ屈折させている様に見えた。


「あまり話さない人達ですね。彼らの馬も、そうですが……」


 首を傾げたアルフィンに、笑顔の十四郎は平然と言った。


「そうですか? きっと緊張してるんですよ」


_________________________



「ご機嫌斜めだね」


 騎士団詰所で不機嫌そうに窓の外を見ているビアンカに、リズが笑顔で声を掛ける。


「そんなことはない」


 明らかに不機嫌を撒き散らし、腕組みしたビアンカはぶっきらぼうに言った。アルフィンを引き取りに来てから、十四郎は一度も姿を見せず音沙汰も無い。日に日に苛々は増し、その様子はリズを楽しませた。


「来ないなら、あなたが十四郎様の所へ行ったら?」


「そんなこと……」


 溜息交じりのリズの言葉に急に声を落とすビアンカ、その表情は情けなくて切なさが溢れている。全く、分かりやすくて可愛い奴と心で呟いたリズは、仕方ないので背中を押す。


「口実は幾らでもあるんだけどな……例えば、アルフィンはどうしてる? とか」


 聞くが早いか、ビアンカは猛烈な勢いで飛び出す。


「午後の訓練、団長には、お腹痛いから休むって言っとくからね!」


 ビアンカの背中に叫んだリズは、溜息が混じる微笑みで見送った。


_________________________



「お願いシルフィー、急いで!」


 ビアンカはシルフィーを急き立てる。シルフィーはその表情を察して全力で走る。最近元気の無かったビアンカが生き生きとした顔を見せたのだ、安堵感と嬉しさで走る速度も自然と上がった。


 ケイトの家にはあっという間に着いたが、ドアの前でビアンカは立ち止まる。小屋にはアルフィンの姿は無く、上がっていたテンションは急降下した。


 ドアはビアンカを威圧する。ノックと言う何の難しさも無い行為さえ、微かに震える腕が重い。頭の中では考えがまとまらない。何を言えばいいか、何をすればいいか全てが分からなかった。


 俯き動かないビアンカをシルフィーが鼻で押すと、何度か目でやっとビアンカはドアをノックした。出てきたケイトは驚いた顔をを見せ、メグが泣きそうな顔で飛び出して来た。


「十四郎、何処に行ったか知ってる?!」


 意味が分からないビアンカだったが、その胸には全身を凍らせる程の氷が瞬間に出来た。


 家に入るとケイトは十四郎の部屋に案内した。ベッドの上には綺麗に畳まれたマントがあり、誰も居ないはずなのに何故か十四郎の温もりを感じた。


 あれ程冷たくなった、ココロがゆっくりと温まる。大きく深呼吸すると、体の中に十四郎の香りが充満した。


「朝起きると十四郎さんは既に居なくなっていて、ベッドの上にはこのマントが……」


 声を落とすケイトに、ビアンカは無理して落ち着いた声で言った。


「心当たりはありませんか? 最近様子が変だったとか? 誰か訪ねて来たとか?」


 思い付くだけの疑問を考えるが、ケイトの反応は微妙だった。


「別に変わった事は……そう言えば、昨日誰かが来たみたいですけど」


「誰ですか?!」


 思わず声が上がる。


「見てないんです」


「わたしも……」


 ケイトもメグも声を落とす。その落ち込み方に気付いたビアンカは、無理して平気な声を装った。


「このマントは十四郎が家宝にすると言ってました。残して行く訳はありません。だから、必ず帰って来ます」


「本当?……」


 涙を浮かべたメグをそっと撫ぜ、ビアンカは微笑んだ。はち切れそうな胸の痛み、気を抜くと自分まで泣き出したくなる衝動を抑えながら。


「ええ、本当よ」


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