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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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孫娘

「要するに、思った事を言ったら褒められたけど、本当の自分はそうじゃないって落ち込んだのね……」


 沈む声のビアンカから話を聞いたリズは、前に聞いたビアンカの悩み事を思い出した。そして、穏やかな声で話始める。


「ビアンカ……誰だって未熟、思慮や配慮なんて最初から完璧な人なんかいないよ……それにね、一番大切な人の為ならって思う事は、ごく自然の事。誰にも遠慮なんていらないし、恥じる事なんてないよ」


「……でも、皆が一つの目標に向かって一丸となってる時に私は……」


 ビアンカの声は更に沈んだ。


「もう、幾ら平和な世界が来ても、十四郎様がいなかったら……嫌でしょ絶対」


「……うん」


「ビアンカは、それで、いいんじゃないの?」


「えっ?」


 リズの笑顔は、ビアンカの中にあるモヤモヤを穏やかに緩和した。そして、ビアンカにとって、最大の理解者がやって来た。


「ビアンカ……」


 名前を呼ばれただけなのに、ビアンカは全身の血が入れ替わった気がした。優しい笑顔、穏やかな口調、全てを包み込む優しさ……それは血の繋がりであり、魂の安寧だった。


 ビアンカはガリレウスの胸に顔を埋め、全ての悩みを打ち明けた。ガリレウスは、ビアンカの頭を優しく撫ぜながら、穏やかに話始める。


「私は賢者になる為、幼い頃より寝る間さえ惜しんで書物を読み漁った。珍しく貴重な書物は高額だっが、幸い我が家系は貴族。親は喜んで私に書物を買い与えた……時が経ち、私が賢者に相応しい知識を得た時には、既に両親はこの世には無く、新しく出来た妻や子供さえ私は置き去りにして知識を得る事に没頭した……だが、万来の知識の果てに残ったのは孤独だけだった……山の様に高いな後悔と、海の様に深い罪悪感は私を追い詰めた……そんな私を救ったのは、ビアンカ、お前だ。お前の無垢で純粋な笑顔が、私を救ったのだ」


「お爺様……」


 ビアンカの瞳からは、涙が泉の様に流れた。


「ビアンカ、後ろ向きでは未来には進めないのだよ。例えどんなに卑下する過去があっても、前を向いて行きなさい……どんなに恥じる過去も、無駄ではない。かならず、お前の糧となるのだ……さあ、顔をおあげ……何時もの様に、眩しい笑顔を見せておくれ」


「……はい」


 無理して笑うビアンカは小さく返事した。そんな、ビアンカの姿が、リズには嬉しかった。


「ガリレウス様、お久しぶりです……」


「おお、これはリズ。ビアンカが世話になりました」


 嬉しそうにガリレウスは頭を下げるが、リズは恐縮した。


「いえ、私こそビアンカに力を貰っています」


 そこに、マルコスがやって来て、真剣な顔を向けた。


「リズ殿、皆を集めて下さい」


_______________



「これは、ご高名なガリレウス様、お会い出来て光栄です。元パルノーバ指揮官、ロメオと申します」


「こちらこそ知将で名高い貴殿にお会い出来て、私も光栄です」


 二人はそつのない挨拶を交わすが、互いの力量は瞬時に悟っていた。そして、ロメオは笑顔のまま、核心に及んだ。


「ところで、ガリレウス様。何故、この様な場所に態々ご足労を?」


「孫娘に会いたいと言う事もありますが、王家の意思でもあります」


 ロメオは瞬時に悟った。領内に城を築く為の大義名分を、ガリレウスは自ら具現しようとして居る事を。


 そして、遅れて来た十四郎も、笑顔で挨拶した。


「ガリレウス殿、お久しぶりです」


「十四郎殿、息災ですかな?」


「はい、何とか」


「そちらがアウレーリア殿ですか?」


 ガリレウスは、十四郎の陰に隠れる様に寄り添うアウレーリアに目をやった。そして、俯くビアンカに穏やかな視線を向けた。


「あ、はい。アウレーリア殿です」


「私はビアンカの祖父、ガリレウスと申します。お味方頂き、恐悦です」


「……」


 アウレーリアにとって慈愛に溢れるガリレウスの笑顔は、戸惑いでしかなくただ俯くしか出来なかった。そんな、アウレーリアの態度にガリレウスは小さく頷いた。


 そして、挨拶と顔合わせが終わるとマルコスが真剣な顔で十四郎を見た。


「アルマンニとフランクル、モネコストロの連合軍の戦いは逼迫している。我々の早期参戦は不可避だと思う」


「そうですか……」


 十四郎は声を落とすが、ガリレウスは笑顔のまま言った。


「私も宜しいですかな? マルコス」


「あっ、はい。勿論でございます」


 少し驚いたマルコスは、背筋を伸ばした。


「直ぐに出て行くのは得策ではありません。今動けば、多くの死傷者が出ます……それに、我々は今、二重の足止めを受けています」


「ミランダ砦前のイタストロア軍ですね」


 ロメオは、すかさず頷く。


「はい、敵は我々に築城させる為、ミランダ砦を牽制しました」


「敵が手を貸したと?」


 マルコスは怪訝な顔をした。


「そうですね。イタストロア軍が囲めば、ミランダ砦は我々に構う暇がなくなる……」


 既に察したロメオは腕組みして呟いた。


「今、我々が動けばイタストロア軍はミランダ砦に攻撃を開始するでしょう。そうなれば、十四郎殿はどうしますか?」


「それは、ミランダ砦の皆さんを助けに……」


 ガリレウスの問いに、十四郎は背中に冷たいモノを感じた。


「築城は大量の時間と労力、資金を必要とします。つまり、敵は我々を釘付けにしたいのです」


「お爺様、それではどうしたら?」


 ビアンカは、恐る恐る聞いた。だが、ガリレウスはビアンカに笑顔を向けた。


「これからの戦いに於いて、城は必ず必要になる。敵がその手助けをしてくれるなら、今は城を築けばよい……動くなら、何も軍勢を動かす必要はない……そうでしょう、十四郎殿」


「そうですね」


 ガリレウスの笑顔に、十四郎も笑顔で頷いた。


_______________



「今のままでは、魔法使いには勝てない……」


 山中の古い山小屋で、ノヴォトニーは悔しさに拳を握りしめた。


「確かにな……魔法使いには、アウレーリアの様な”怖さ”はない……だが、あの雰囲気は……」


「……あの女……」


 バラッカは十四郎に相対した時の不思議な感覚を思い出すが、エリーゼはビアンカの事を思い出すと怒りで顔を歪めた。


「それで、どうするの?」


 壁にもたれたアインスは、見えない目で怪しく笑った。


「貴様、何故我々を匿った?」


 鋭い視線をアインスに向けたノヴォトニーは、剣に手を掛けた。


「お前がグラーフを……」


 エリーゼも斬り掛かろうと、身構える。


「君達は仲間なの?」  


「ふっ、仲間か……」


 アインスの問いに、腕組みしていたバラッカが薄笑みを浮かべた。


「黄金騎士は、お前達青銅騎士とは比べ物に鳴らない程の順位競争がある……互いはライバルであり、敵だ……だが、戦時に於いては共に戦う同志だ」


「訳を言え……」


 鋭い表情のノヴォトニーはアインスを激しく睨み、エリーゼは剣を抜くと更に詰め寄った。


「訳? 訳なんて簡単さ……アウレーリアをこの世から消す事。その為に魔法使いに手を貸したんだよ」


「お前……」


 それまで傍観していたバラッカは、アインスに複雑な視線を向けた。


「最初の問いの答えは?」


 今度はノヴォトニーも剣を抜き、アインスに迫った。


「そうだね……君達、強くなりたいんでしょ? あるよ、簡単、いや少し難しいけど方法が」


 アインスは残った片腕で、壁から身を離した。


「聞かせてもらおう」


 一瞬で斬り込める距離で、ノヴォトニーは声を押し殺した。


「シュヴァルツヴァルトの森には伝説の魔物が棲んでる……そいつの血肉を食らえば、魔物の力が手に入るそうだよ……黄金騎士と魔物の力が合わされば、きっと魔法使いやアウレーリアにも勝てる」


「ならば何故お前は、そうしなかった?」


 話を聞いたノヴォトニーが更に視線を強くした。


「ボク? ボクが知ったのは最近なんだ……アルマンニでは最高の禁忌だったみたいで、ドライが王立機密文庫を調べて、やっと分かったそうだよ」


「それは、本当なんだな?」


「多分……ドライの情報だからね」


 一瞬、ノヴォトニーの口元が緩み、アインスは他人事みたいに言った。


「ドライか……奴は油断できない」


 バラッカは、ドライの持つ”力”は認めていた。


「それで我々に力を与え、アウレーリアを倒してもらおうと言うのが意図なんだな?」


「そう、その通り……」


「分かった」


 微笑みを浮かべ頷くアインスを、ノヴォトニーは一瞬で斬り捨てた。アインスは満足そうな表情を浮かべ、静かに闇の世界に落ちて行った。


「どうする?」


「行く価値はありそうだ」


 バラッカの問いにノヴォトニーは怪しい笑みを浮かべ、エリーゼは強い視線で頷いた。


_______________



「情報は黄金騎士に流したのか?」


「はい。仰せの通り、アインスを使って……」


 七子は椅子に座ったまま、横顔でドライに聞いた。


「そうか……アインスも、最後には希望を持てたと言う事だな……」


 背中を向けた七子は、小さく呟いた。


「ですが、王室機密文庫とは言え、信じてよいものかは疑問です」


 ドライは頭を下げたまま、七子の背中に言った。


「この世界では、神も魔物も目に見えて存在する……そして、私と言う”魔法使い”も存在する奇妙な世界なのだよ」


「……はっ、確かに仰る通りです」


 振り向いた七子はドライが見た事も無い穏やかな表情だった。ドライは信じてみようと思った……七子に恩恵があるものなら、その全てを。




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