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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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人と魔物、そして神

 城に戻るとロメオが笑顔で迎えるが、直ぐにマアヤに気付いた。そして、先に戻っていたラディウスもメイスを持ち身構えた。


「十四郎殿……そちらは?」


「貴様! 何しに来たっ!」


 低い声で見据えるロメオを押し退けルーが突進するが、ローボの声で急停止する。


「待てっ!」


「父上、コイツは……」


「ご紹介します、マアヤ殿です。マアヤ殿は、その、人ではなく、その、魔物でありまして……」


「十四郎! 魔物など、どうして連れて来る!?」


「まあ、まあ、ルー殿……十四郎殿、お聞かせ下さい」


「そうですね。私も十四郎様に、お聞きしたい」


 興奮するルーを宥めロメオは穏やかに言い、ラディウスも物凄い視線をマアヤに向けた。


「全く……ワタシは紅の獣王。こいつの行く末を見る為、付いて来ただけだ」


 溜息交じりのマアヤは視線で十四郎を指すが、十四郎は苦笑いするだけだった。


「十四郎様の行く末を見るだと? 魔物のお前が?」


 メイスを振り上げ、ラディウスは声を押し殺した。何より、十四郎を”こいつ”呼ばわりした事で怒髪天をついていた。


「紅の獣王を解き放てば、また人に被害が出る。だから、こちらも傍に置いて見張るのよ」


 ライエカが説明するが、小さな青い鳥が喋った事でロメオを初め見守る周囲は身を固くした。


「十四郎殿、そちらはもしや……」


「あ、はい。ライエカ殿です」


「ライエカ様!」


 イタストロア出身のロメオは目を見開くが、十四郎は普通に紹介した。ラディウスは跪き深々と頭を下げた。


「そんなに大した奴じゃない」


「まあ、失礼ね」


 吐き捨てるローボに、ライエカはプンとした。


「ライエカ様が付いていれば、我らの願望も叶ったも同然です」


 最平身低頭のままラディウスが呟くが、ビアンカは穏やかな笑顔を浮かべて言った。


「確かにライエカやローボが居てくれるの心強いけど……願望は叶えてもらうのと、自分で努力して叶えるのでは、意味も価値も違うと思います……」


「ビアンカ様……」


 ラディウスは、ゆっくりと顔を上げる。その視界に映し出されるビアンカの姿は、ライエカやローボより光り輝いていた。


「ビアンカ様の言葉は、我らの心得違いを正しい方へと導いて下さる」


「いえ、私はそんな……私は……」


 笑顔で頷くロメオの言葉だったが、ビアンカは言葉を失う。アウレーリアの事などで激しく心を乱し、他を顧みず自分の事だけ考える自分を激しく卑下した。


「ビアンカ様、顔をお上げ下さい。私は……運命は変えられないと……何の努力もせずに、ただ無意味に日々を過ごしておりました……十四郎様に出会い、運命は変えるものだと気付いた矢先……ロメオ殿の仰る様に、また不心得を……ですが、ビアンカ様の仰る通りです……叶えてもらうのではなく、自らが叶えてこそ……」


 跪いたまま、ラディウスは体を震わせた。


「ラディウス殿もっと、お気を楽に……皆で頑張りましょう」


 十四郎はそんなラディウスに、穏やかに声を掛けた。


「大体、お前が気安く人の前に姿を現すから、人が惑うのだ」


「あら、貴方が言うの?」


「何だと……」


 今度は神獣と神が睨み合い、周囲の者は完全に引いてしまった。


「まあ、まあ、お二人とも」


 十四郎が苦笑いで割って入るが、マアヤが超不機嫌そうに言い放った。


「ワタシの事じゃなかったのか?」


「ああ、そうでした。十四郎殿が決めた事に、我々は異存などありません」


 笑顔のロメオがそう言うと、周囲も一斉に頷いた。既に神獣に神、魔法使いにアウレーリアがいるのだ、それに魔物が加わったとしても、誰も驚きもしなかった。


「それじゃあ、まあ、そう言う事で」


 頭を掻きながら苦笑いする十四郎を見て、全員が大きな溜息を漏らした。だが、十四郎を見詰めるビアンカは更に記憶が鮮明になり、胸の奥で過去の自分が自己嫌悪の塊となって精神を圧迫していた。


_______________



 マルコスは急ぎ過ぎた事を後悔していた。幾ら大義名分を語ろうとも自国領内に多国籍の軍勢が城を築くなどは侵略行為の甘受であり、簡単に許されるはずもない……自分達の都合だけでは、国と大きな集団は動かせないと痛感していた。


 このままでは、ただの反乱軍にしかならずに、モネコストロとも紛争状態になる事は必至だった。その場で拘束されてもおかしくはなかったが、ガリレウスによりもう一度詳しく詮議すると言う事で部屋を移された。


 大賢者ガリレウスを前にして、マルコスは如何なる詭弁や言い訳も通じないと分かっていたが、最初の一言は穏やかなガリレウスの意外な言葉だった。


「マジノ遺跡とは、良い所に目をつけましたな」


「ですが、功を急ぎすぎました……もっと根回しをしていれば、こんな事態には……」


 俯くマルコスの脳裏には、十四郎達に何と申し開きすればと思考は闇に包まれる。


「いえ、”知らせる”と言う目的は達しています。如何に敵意はないと申し開いても、無理なものは無理なのです。よって、知らせる事が最重要になります。万が一、何の宣言も無く築城すれば万民の為との崇高な目的さえ、ただの言い訳になり下がります」


「しかし、この後はどうすれば良いのでしょうか?」


 思考回路が停滞するマルコスは、ただ漠然と呟いた。


「このまま、皆の元にお帰りなさい。そして、目的を果たすのです」


「ですが、それでは問題の解決には……」


 穏やかな表情でガリレウスは言うが、マルコスは現状の状況に悲観した。


「アルマンニは侵攻を早め、戦況は悪化するばかり。モネコストロ城など、フランクルが盾になる事で存在する他力本願の衝立の様な物。マジノ城は難攻不落なモネコストロ王家の最終籠城の場です」


「仰る意味が……」


 ガリレウスの言葉に、マルコスは険しい表情で首を傾げた。


「訳に意味をもたせるのです。困窮する戦いは意味の裏付けをしてくれます」


「それでは……」


「はい。欺く事は、悪い事ばかりではありません。それに、マジノ遺跡の周辺の山岳はモネコストロの民にとっても絶好の避難場所になります……それでは暫くお待ちください、仕上げは私が……それはそうとマルコス殿、ビアンカは十四郎殿と上手くやっていますかな?」


 立ち上がり、部屋を出ようとしたガリレウスは笑顔で聞いた。


「はい……恙なく」


 マルコスは大きく頭を下げる。ガリレウスは頷くと、ビアンカの笑顔を思い出した。そして、一瞬真剣な目をマルコスに向けた。


「もう一つ、ミランダ砦周辺のイタストロア軍は、包囲しているだけで攻撃はないのですね?」


「えっ、はい。指揮官も包囲せよとの命令を受けているだけの様です」


「……なるほど」


 ガリレウスの穏やかな顔は、更に優しく微笑んだ。


_______________



「ずっと、そうやっているつもりか?」


「父上の命令だ。お前からは目を放さない」


 怪しく微笑むマアヤに、ルーは鋭い視線を向けた。


「好きにしろ」


 そう言うと、マアヤは忙しそうに働く人々の中でビアンカの様子がおかしいのに気付いた。


「あいつ、どうした?」


「さあな……」


 確かにルーも気になってはいたが、優先はマアヤの監視だと思っていた。城外では十四郎に寄り添うにアウレーリアが木々の伐採を行っていたが、ビアンカは俯き加減で人々と一緒に切り出された木材の加工をしていた。


 夕方、そんなビアンカが俯いていた顔を上げた。


「リズ……」


「ビアンカ!!」


 駆けて来たリズが、ビアンカを抱き締めた。


「どうして?」


「砦に残っていた人達は、ローベルタ様の領内にある城に入ったの。キリー伯爵が古城をくれたのよ。古いけど、強固な城なんだから。マリオ様やランスロー様、ランスロット様の騎士団が警護に当たってるから、私達は行っていいって!」


 叫んだリズだっが、直ぐにノィンツェーンやリルも走って来た。


「ビアンカ様!」


「ビアンカ!」


 二人は叫ぶと、同時にビアンカに抱き付いた。


「ビアンカ様、如何なされました」


 ツヴァイは、抱き締められ涙を浮かべるビアンカに困惑した。


「あの女よ!」


「十四郎は何をしてる!」


 ノィンツェーンが叫び、リルが怒りの声を上げた。


「ごめんなさい、大丈夫だから」


 涙を拭ったビアンカは、そう言いうがノィンツェーンとリルは怒りが収まらない。


「心配しないで、ビアンカ様。十四郎様とあの女、とっちめてやるから! 行くよリル!」


「分かった!」


 腕まくりのノィンツェーンにリルも呼応し、二人は十四郎の元に走って行った。


「ビアンカ、聞いてあげる……話して見て」


 リズは、ビアンカの髪を撫ぜながら優しく言った。


「……うん」


 ビアンカは小さく頷いた。




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