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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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資格

「説明してくれ」


 マルコスが最初に十四郎に詰め寄った。


「それがですね、あの……」


 しどろもどろになる十四郎に代わり、ローボが説明した。


「十四郎は、お前達にも聖剣を与えて欲しいと頼んだのだ」


「私達に、だけですか?」


 マルコスは、少し強くローボを見た。


「全員には無理……聖剣を扱う物には”資格”がいるから」


「資格、ですか……」


 ライエカがそう言うと、マルコスは周囲を見渡した。直ぐに全員が、その視線から目を背けた。


「聖剣とは、特別な者が持つもの……十四郎やアウレーリア、ビアンカ様なら分かる……」


 マルコスの言葉は、他の者の気持ちを代弁していた。特にリズは俯いた顔を上げられなかった。


「あなたは、大丈夫」


「ビアンカ、知ってるでしょ……私は……」


 肩を抱くビアンカの顔さえ、リズは見れなかった。


「見て……十四郎の、あの剣はリズが見つけたもの……」


 そっと顔を上げたリズの目に、十四郎の腰で燦然と輝く刀の姿があった。


「……でも、私は見つけただけ……”資格”なんて……私には絶対ない」


 更に俯くリズは、声を震わせた。だが、ビアンカはその細い肩を強く抱いて言った。


「あなたは、頭がいい。機転が効いて柔軟な知恵がある……私達は、十四郎が剣を失った時、だだ愕然として、どうしていいか分からず狼狽えただけ……武具の収集家、リード伯爵の存在さえ、頭の片隅にも過らなかった……でも、あなたは気付いて行動し、実現した……それは、とても凄い事よ……誰にでも出来る事じゃない」


「ビアンカ……」


「そうだ。あの剣無しでは如何に十四郎と言えども、力は発揮できない」


 ローボは静かな声で言った。


「……でも……それだけ……たった、一度だけ……」


 リズのココロは期待に圧し潰されそうになる。


「リズ殿。私こそ、この刀を持つ資格などないのかもしれません……”誤りを打ち破り、正しき道を示す”……破邪顕正と言う、この刀……ですが、正しき道を示すために……私は大勢の人を戦いの渦に巻き込んでいまいます……例えそれが、平和で平等な世界を作る為でも……私は……誰一人……命を落として欲しくはありません……」


 十四郎は深々とリズに頭を下げ、その声を震わせていた。


「……」


 リズは言葉が出なかった。そして、周囲も言葉を失い掛けるが、ローボは穏やかな声で言って。


「十四郎は迷い度惑い、苦しみながら戦ってる……だが、多くの者は十四郎さえ居れば、魔法使いさえ居ればと心の支えにしている。だが、実際の十四郎は限りなく心が弱い……そんな十四郎を知っている、お前達なら支えられる……いや、支えて欲しい」


「あなた達に託す聖剣は、守りの聖剣……十四郎が望むのは、あなた達の無事なの……だから、十四郎が無事を願うあなた達には”資格”がある」


 ライエカは静かに言った。


_____________



 ライエカの穏やかな言葉が周囲を暖かく包み込む。最初から覚悟など出来ていたが、各自は更に決心を固めた。


「あなた様は、本当に神なのですか?」


「えっ、何だって?」


 ライエカの前で跪くラディウスを見て、マルコスが目を見開いた。


「神様?……」


「……まさか」


 アリアンナも瞳孔を開き、リズは硬直した。


「まあ、そんなもんだ」


 ローボの言葉に、初めてライエカと会った者達は硬直した。


「ローボったら……それより、どうするの?」


 ライエカが改めて聞くが、全員の金縛りは中々解けなかった。だが、暫くの沈黙が続いた後、最初にリルが前に出た。


「支える……十四郎を支える……そして、絶対に死なない……弓はあるのか?、いえ、ありますか? 狩人に剣はいらない、です、から」


「勿論。聖剣と言っても剣だけじゃないから」


 噛みまくるリルの問いに、ライエカは笑顔で答えた。当然、ココもマルコスも弓を選択した。


「なら、私はダガー(短剣)を二本お願いします」


 アリアンナも前に出ると、剣や槍の刺さる周囲の小島を見渡した。


「俺も、剣よりメイス(棍棒)を所望致します」


 平身低頭のラディウスは前腕二頭筋をピクピクさせて言った。ノィンツェーンはレイピアを選び、リズも軽量のレイピアを選んだ。


 ツヴァイやマリオ、ランスローは普通にロングソードを選んだ。だが、動かないゼクスにツヴァイが声を掛ける。


「どうした?」


「私は……」


「もうその話は済んだはずだが?」


 言葉を詰まらせるゼクスだったが、ツヴァイは小さく息を漏らした。


「ゼクス殿、腕の具合がまだ?」


「いえ、大丈夫ですが……」


 心配そうに覗き込んだ十四郎に、ゼクスは背筋を伸ばした。


「罪の意識があるなら、絶好の機会だ……償え、挽回しろ」


「……はい」


 近付いて来たローボにゼクスは力強く返事し、ツヴァイ達と同じ様にロングソードを選らんだ。


「選び終わったようね……ここからが、本題。聖剣を持つ”資格”は確認した。でも、それだけでは聖剣は手に入らないの」


「大体想像はつきますが……」


「タダで貰おうと言う気はございません」


 溜息交じりのマルコスの横で、ツヴァイは剣に手を掛ける。他の者達も、臨戦態勢を整えた。


「そう……」


 安堵した様にライエカは言うが、十四郎の強張った顔を見て苦笑いした。


「このボンクラ、自分の時より緊張してる」


 ローボは溜息交じりに言った。


 _____________



「よいですかな?」


「始めよう。今から現れる”敵”を倒してみせなさい」


 老婆が促すと、ライエカはツヴァイ達に向き直った。そして、その遥か向こう側からは夥しい数の”魔物”達が姿を現した。


「手加減は無用だ。奴等は”人”ではない……」


 ローボの言葉と同時に、リルとココが弓を放つ。その銀色に輝く弓から放たれた矢は、一激で数体の魔物の首を落とした。


 更にツヴァイを先頭に、剣を持った者が突進して魔物達を斬り捨てた。その剣の切れ味は凄まじく、十四郎やアウレーリアの様に魔物を真っ二つにしていた。


「ビアンカ殿! リズ殿の援護を! アウレーリア殿はアリアンナ殿をお願いします!」


「分かった」


「はい……」


 直ぐにビアンカがリズの背後を守り、アウレーリアは老婆から剣を捥ぎ取るとアリアンナの傍に瞬間移動の様な速さで付いた。


「おいおい……」


 呆れた様にローボが溜息を漏らすが、十四郎はお構いなく続ける。


「ローボ殿も援護に!」


「私もか?」


「お願い致します!」


 十四郎は深々と頭を下げるが、何故かローボは嬉しそうだった。


「まあ、お前がそうまで言うのなら」


 そう言うと、ローボは魔物に向け稲妻の様に走り去った。そして、その後を追おうとしたアルフィン達に、ライエカが優しく言った。


「今度は待ってなさい」


「でも、ワタシ達も!」


「アルフィン、待ちましょう。きっと大丈夫だから」


 アルフィンは興奮して叫ぶが、シルフィーが寄り添うと一気に興奮が収まった。


「うん……分かった」


「無茶にも程がある。相手は魔物だぜ。俺達がどうこう出来る相手じゃない」


「バビエカ、黙って」


 吐き捨てるバビエカに、シルフィーが釘を刺した。


「この威力……そして何だ、この軽さは……」


 ラディウスは手にしたメイスの力に驚愕した。そして、どんなに振り回しても腕や体の疲れが全くなかった。


「威力だけじゃない! この聖剣はっ!」


 マリオはロングソードで魔物を斬った手応えと、ある感覚に驚く。


「そうだな、危機回避と言うか、少しでも危険があると剣は合図をくれる……」


 直ぐに気付いたランスローは、驚きの声を上げた。


「矢が寸前で逸れたのか……」


 マルコスは魔物達が放った無数の矢を避ける時に、確かに寸前でコースを変えている事に気付いた。


「師匠! 確かに逸れてる!」


「うん、間違いない……普通なら、当たってかも」


 ココが叫び、リルは平然と言った。


「当たり前だ、その聖剣達は持つ者を守る聖剣だ……それが、十四郎の望みだ」


 ローボは凛とした声で言った。


「少しは手伝いなさいよ!」


 アリアンナは二本のダガーで魔物達を切り裂くが、アウレーリアは後ろに立っているだけだった。


「危なくなれば助けます」


 表情を変えず、そう言うだけでアウレーリアは動かなかった。だが、不思議な事に魔物達はアリアンナには襲い掛かるが、アウレーリアは明らかに避けているようだった。そして、動かない様に見えたアウレーリアだったが、微妙に位置をずらしアリアンナの死角を消していた。


「大丈夫?!」


 直ぐにノィンツェーンが救援に入る。


「助かる!」


「あの女は特別なのよ、魔物さえ恐れる……」


 思わず叫ぶアリアンナだったが、背中を合わせたノィンツェーンは逆さ十字の紋章に畏怖の念で視線を流した。


「その様ね……」


 アリアンナも、少し悪寒を感じた。


「そう、リズ! その調子!」


 ビアンカはリズの死角から迫る魔物を”揚羽”で薙ぎ払う。リズは目前の魔物だけに集中すればよく、聖剣の力もあり無難に魔物を倒していた。


「ビアンカ!」


「何っ!?」


「私、頑張るっ!」


「うん!」


 二人の息は、ぴったりと合っていた。


「ツヴァイ殿、ゼクス殿、左右を頼みます」


「はっ」


「心得ました」


 十四郎の声で、ツヴァイとゼクスは十四郎の左右に付く。その三角形は、魔物達の大軍の真ん中に麦を刈った後の様な”道”を作る。その道の中に生存する魔物の姿はなかった。


「ライエカ様……あの者達はいったい……」


「十四郎が選んだ精鋭よ」


 ライエカは嬉しそうに言った。


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