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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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シンクロ

 ビアンカとアウレーリアの戦いは、凄まじかった。互いが競うように、亡霊達を切り裂いていた。


「ビアンカ殿、アウレーリア殿……」


「ボサッとするな! 奴等は不死身だ!」


 唖然とする十四郎の前で、目前の亡霊を牙で引き裂きながらローボが叫んだ。


「でも、魔物時より凄まじいね……あの二人」


 呆れた様に、ライエカは呟く。確かにビアンカとアウレーリアの勢いは、聖剣を使っているとしても魔物達と戦った時を遥かに凌いでいた。


「アウレーリア! 落ち着け! 突っ込み過ぎだ!!」


 バビエカも先行するアウレーリアの凄まじい勢いに、大声を上げた。


「ビアンカ! もっと冷静にっ!」


 シルフィーも、ビアンカの勢いにブレーキを掛けようと声を出す。だが、ビアンカもアウレーリアも全く意に介せず、亡霊達を切り裂き続けた。


「フン、全くしょうがない奴等だ」


「まあ、確かに凄いけど……」


 笑みを漏らすローボの傍でライエカは、また大きく溜息をつく。


「確かに、かなり怒ってるな……」


「どうして怒るのよ?」


 笑いながら呟くローボを、ライエカが不思議そうに見た。


「決まってる。十四郎を苦しめたからな」


「なるほどね……でも」


 小さな溜息のライエカだったが、ローボが聞き返す。


「あの亡者共は、聖剣でも斬れないのか?」


「難しいかも……だけど、二本同時なら、もしかして」


「と、言うと?」


「一人が首を落とし、一人が心臓を刺す……それも、同時に……それなら、倒せると思うけど……でも、あの調子じゃね」


 ローボの問いにライエカが答えるが、それは誰の目からしても難しそうだった。だが、ローボはキラリと牙を光らせると、落ち着いた声で言った。


「試す価値はあるな。このままじゃ、十四郎がもたない……私がビアンカに言う。お前はアウレーリアを頼む」


「仕方ないなぁ」


 直ぐに走り去るローボを目で追いながら、ライエカは思わず微笑んだ。そして、振り向いた先の十四郎は戦い続けてはいるが、明らかに疲弊していた。ライエカは、ふぅと大きく息を吐くと大空に飛び立った。


_____________



「聞け!」


 ローボはビアンカの前に立ち塞がって叫ぶが、ビアンカの瞳には目前の亡霊しか映らず戦いを止めようとはしなかった。


「このままじゃ、十四郎がもたないぞ!」


 その言葉は、ビアンカの動きを一瞬で止めた。


「奴等は何度斬っても蘇る。倒すには、首と心臓を同時に斬るしかない。だが、如何にお前でも、二か所同時は無理だ」


「ローボ……どうすれば」


 急に情けない顔になったビアンカが、ローボを見た。


「なんて顔だ……アウレーリアと二人で倒せ。お前の武器は刺す方に向いている、心臓を刺せ。アウレーリアが首を落とす……いいか、同時だ。それ意外にない」


「分かった……」


 ビアンカは小さな声でそう言うと、アウレーリアを見た。


_____________



「幾ら斬ってもダメでしょ?」


「……」


 ライエカはアウレーリアの横で囁くが、アウレーリアは横目で見るだけで猛烈な剣の動きは止まらなかった。


「いいのかなぁ、十四郎苦しそうだけど」


「十四郎……」


 アウレーリアの動きが瞬時に止まり、十四郎を見た後でライエカに視線を移した。ふっと溜息を吐いたライエカが、ローボと同じ様に説明するとアウレーリアは亡霊に突進した。


「ちょっと……」


 ライエカが止める間もなく、アウレーリアは亡霊に剣を振う。その速さは尋常でなく、一瞬で亡霊の首が飛び、同時に心臓辺りから血飛沫を上げた。


 しかし、見た目は同時に見えても完全な同時ではなかった。暫くすると、首を落とされた亡霊は、またゆっくりと立ち上がった。


 その様子を見ても、アウレーリアの表情は変わらなく、更にスピードを増した剣を振るった。


「無駄なのに……どれだけ速さを増しても、永遠に同時にはならない」


 ライエカは溜息交じりに呟くが、アウレーリアは全く意に介せずに剣を振るった……だが、どんなに剣のスピードを上げても、亡霊は何度でも蘇った。


「ビアンカを見なさいっ!」


 ライエカが叫ぶ! アウレーリアは剣を降ろすと、ビアンカの方を見た。だが、ビアンカと目があっても、二人とも見つめ合うだけだった。


_____________



 そんな二人の様子を見て、十四郎がローボに頭の中で聞いた。


『ローボ殿、どうしたのですか?』


「大丈夫なのか?」


「ええ、何とか」


 自分も崩れそうなのだが、十四郎は二人を心配していた。ローボは、心の中で笑いながら打開策を説明した。


「亡霊を倒す秘訣がある、それは……」


 ローボが一通り説明すると、十四郎は頷きながら言った。


『どうも、お二人は気が合わない様ですね。二人同時じゃないと駄目なら、私がどちらかと組みましょうか?』


「全くお前は……いいか、お前がどちらか片方と組めば、残された方はどうなる?」


『どうなると、申されても……』


 溜息交じりにローボが言うが、十四郎はポカンと聞き返した。


「もういい……お前が二人に言ってみろ。二人同時に攻めろと」


『あっ、はい』


 十四郎は二人に近付くと、大きな声で叫んだ。


「ビアンカ殿! アウレーリア殿! お二人で同時にお願いします!」


 二人は十四郎の声を聞くと、互いに見合った。二人の目が合った……そして、無言のままビアンカが先に出る。アウレーリアは一瞬遅れて後に続き、二人は折り重なる様に一体の亡霊に向かった。


 そして、二人が神速で通り過ぎると、亡霊は煙の様に消えた。


「何? 一発でシンクロ? 凄っ……」


「訳の分からん奴等だ」


 目を丸くするライエカの横で、ローボも溜息をついた。


「それでは、私も」


 一旦刀を仕舞った十四郎は、少し微笑むと亡霊に対峙した。


『だから、一人では無理だ』


 構える十四郎の脳裏に、ローボの呆れた声が響いた。低く構えた十四郎は、左手の親指で鯉口を切る……そして、向かって来る亡霊が十四郎と擦れ違う。


「何だ?……」


 ローボは唖然とした。確かに速かったが、どう見ても擦れ違っただけで十四郎は刀を抜いていない様に見えた……が、亡霊は煙の様に消え去った。


「多分、左脇から斬り上げ、肩口から剣を返して首を刎ねた……」


「そんな、見えなかったぞ。それに、一人で同時になんて出来るはずはない」


 真剣な声でライエカが説明すると、ローボも愕然と言った。


「出来たのよ……十四郎には」


「本当に底の知れない奴だ……」


 愕然と言うライエカを見ながら、ローボは背筋が凍る様だった。だが、アルフィンの言葉でローボの背筋の氷は一瞬で溶けた。


「十四郎、二人が仲良くなって嬉しいから、力が出せたのよ」


「有りえるな……」


 ローボは口角を上げた。


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