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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第五章 全盛
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ビアンカ

 ビアンカは十四郎達の前を通り過ぎると、真っ直ぐ老婆の前に立った。


「剣を選べ、さすれば試される」


「槍の先に、こう、短めの剣が付いた様なモノはありますか?」


 身振り手振りを交え、ビアンカは老婆に聞いた。


「汝が望むモノとは、少し違うかも知れぬが……」


 老婆が指さす小さな島に、青く輝く槍の様なモノが真っ直ぐ突き刺さっていた。迷う事無く湖に腰まで入り、ビアンカは槍を引き抜いた。その槍の穂先には両刃の真っ直ぐな剣があったが、ビアンカは首を捻ると、元に位置に戻した。


 後は槍の様なモノを見つける度に引き抜いてみたが、どれも思う形状とは違っていた。ビアンカは一心不乱に探し続けたが、そう簡単には見付からなかった。


 だが、不思議と諦めようとか、似てるモノで妥協しようとかは微塵も考えなかった。何故だかは分からないが、必ずあるとビアンカには思えた。


「あるはず……」


 呟いたビアンカの言葉は、静かな湖に木霊して遠く雪を頂く山々に反射した。


_____________



「あいつ、槍を探してるのか?」


「さあ、どうなんでしょう……」


 ローボは首を捻り、十四郎は苦笑いした。


「心当たりはないの?」


 ライエカは十四郎に聞くが、十四郎にも全く心当たりはなかった。ビアンカは槍を片っ端から引き抜き、首を傾げては、きちんと元の位置に正しく戻していた。そんな姿を見た十四郎は、不思議とココロが穏やかになっていた。


「騎士が槍だと? 雑兵じゃないんだからな」


「ビアンカの勝手でしょ。ねぇ、シルフィー」


 怒った様にバビエカが鼻を鳴らすと、アルフィンがシルフィーに寄り添った。


「前にビアンカに聞いたんだ。将来妹になる人が居て、その人は変わった槍の達人なんだって……頬を染めながら言ってた」


 笑みを浮かべたシルフィーは、嬉しそうなビアンカの顔を思い出した。


「何だ? ビアンカの妹になる奴は、女兵士なのか?」


「もう、黙って見てなよ」


 鼻息も荒く聞いて来るバビエカを、アルフィンは鼻で押し返した。


「イモウト……」


 表情を変えないがアウレーリアだったが、その言葉はアウレーリアの胸の片隅をチクリと刺した。


「ビアンカはレイピアの使い手だ、槍はどうかと思うがな。ハルバードでも、非力なビアンカでは無理そうだが……」


「そうね、槍を使うなら腕力は必要ね。俊敏さが武器のビアンカには、レイピアの様な軽量な剣が合ってるだろうし」


 首を捻りながらローボは呟き、ライエカも同じ様に首を傾げた。暫く考えていた十四郎は、ボソッと言った。


「槍じゃないのかも……あっ」


「何が”あっ”だ。さっさと言え」


 呆れた様なローボの視線に苦笑いしながら、十四郎は言った。


「私の国では、女性の扱う武器として”薙刀”と言うモノがあります」


「ナギナタ?」


「聞いたコトないな」


 ローボとライエカが頭の上に、?マークを浮かべた。


「えっとですね。短めの槍と言うか、その刃の部分に、剣と言うか反りのある片刃で……」


 語彙の少ない十四郎に、ローボは苦笑いする。


「でも、あなたの国の槍が、この世界にあるとは思えない……」


 十四郎の刀さえない世界に薙刀が存在するとは思えず、ライエカは溜息を付いた。だが、暫くしてビアンカは一振りの槍? を手に取り振り返った。


 その手には、確かに薙刀があった。だが、十四郎が驚いたのはビアンカの前に現れた”最強の者”の姿だった。


「あれが、ナギナタなのか?」


「あれは……」


 十四郎は唖然とした。美しく強い反りと、純白の柄、そして刃元には蝶の彫り物。そして、何より同じ薙刀を左手で柄側を上から持ち、右手で刃側を下から持って、美しい花柄の着物の裾を上げ、襷掛けの勇ましい女人の姿があった。


「知ってる奴か?」


「あれが、ビアンカが思う最強の相手なの? 十四郎じゃないのね」


 ローボは十四郎を見上げ、ライエカは不思議そうに聞いた。


「あれは……その、妹に似ているんですけど」


 照れた様に、十四郎は頭を掻いた。


「妹? お前より強いのか?」


「あっ、はい。子供の頃は、まるで勝てなかったです」


 少し呆れた様にローボが聞き、十四郎は更に頭を掻きながら答えた。


「今なら十四郎の方が強い?」


 微笑みながらライエカが聞くと、十四郎も笑顔で答えた。


「さあ、大人になってからは手合わせしてませんので……」


「コイツが妹と真剣に戦えると思うのか?」


 溜息交じりのローボは、ライエカ見た。


「まあ、そうね……で、名前は?」


 少し嬉しそうにライエカが聞いた。


「柏木真桜です……その、お転婆で」


 本当に恥ずかしそうに、十四郎は赤面した。


_____________



「真桜さん……ご教授お願いします」


 そう言うと、ビアンカは真桜と同じ構えを取った。真桜は小さく頷くと、脇構えから中段の構えに変えた。直ぐにビアンカも、同じ構えをする。


 そして、上段、下段、八相と次々に構えを披露した。そして、構えを教えた後に、上段からの振り下ろし、中段からの横薙ぎ、下段からの振り上げ、各構えからの突きなどを披露した。


 その後は”受け”技を披露し、攻守の全ての技をやって見せた。それは、どんな攻撃でも優雅に受け流し瞬時に攻撃に移す、まるで美しい舞いを舞っている様だった。


 何よりその”摺り足”は本当に華麗で、戦いの仕草とは程遠く、女のビアンカから見ても息を飲むほどに美しかった。


「凄い技の数々ですね……私に使いこなせるでしょうか?」


 ビアンカは溜息交じりに言うが、真桜は微笑みながら頷いた。そして、八相の構えを取ると一呼吸の後にビアンカに斬りかかった。


 その速さは尋常ではなく、衝撃は受けたビアンカが後方に飛ばされる程だった。そして、一瞬の休みも無く、連続してビアンカを攻撃した。


_____________



「何て速さだ……そかも、まるで二本の剣に同時に攻撃されてるみたいだ」


 呆れた様にローボが呟いた。速さならアウレーリアにも引けを取らないビアンカが、受けるだけで精一杯の姿に驚きを感じたからだった。穂先と石突が交互にビアンカに襲い掛かり、反撃の隙など全く無いように思えた。


「綺麗って言うのも変だけど、美しいダンスみたい」


 ライエカは真桜の攻撃をうっとりと見た。


「真桜は舞踊の家元でもあるんですよ」


 頭を掻きながら、十四郎は苦笑いした。


「剣技と踊りに何の関係があるんだよ!」


 バビエカは鼻息も荒く、十四郎の背中を鼻で押した。前のめりになる十四郎は、振り返ると苦笑いで言った。


「その、真桜の薙刀の”型”は円舞の型でして……」


「あの型は妹が作ったのか?」


 ローボの視線が強くなった。


「あっ、はい。流派とかではなく、我流ですけど……真桜の動作は川の流れ。永遠に続く流れ……時には激しく、時には穏やかに……その果てしない予想不可の動きに、人は抗えない」


「それなら、あの妹にビアンカは勝てないな」


 十四郎の説明を受け、ローボは押し殺す様に呟いた。


「そうとは限りませんよ」


 十四郎は防戦一方のビアンカに視線を流した。


_____________



「この感じ……」


 ビアンカは真桜の攻撃を受け流しながら、道場での手合わせを思い出していた。確かに真桜の振り出す薙刀の攻撃は、脳裏の片隅の記憶と重なっていた。


 だが、あの時も防御だけで攻撃には移れなかった。だが、一瞬ビアンカには閃くモノがあった。


 そして、攻撃を受け流す動作から流れに任せた……すると、ビアンカの受け流す動作が、真桜の攻撃の動作と次第に同調を始める。


 二人の動きは次第に予め申し合わせた”円舞”となった。


「今っ!」


 ビアンカは後方に飛ぶ! 瞬時に真桜が追って飛んだ! その瞬間! ビアンカは右足で地面を蹴ると前に飛んだ! 刹那の擦れ違い! 超接近は薙刀にとって唯一の”隙”だった。


 長い長い攻撃と防御のせめぎ合いは、一旦の”間”を空けた。


「ふぅ……」


 薙刀を正眼に構え、ビアンカは大きく息を吐いた。


「……」


 真桜は無言だが、一瞬微笑んだ。そして、薙刀を頭上で回し出す……そのまま、横や前、後ろや手元、後方や足元で美しく薙刀を回転させる。それは舞いのコーヒーブレーク、戦いの余韻に浸る短い余白……。


 そして真桜も正眼に構え直し、互いが摺り足で距離を詰める。


 心配そうなシルフィーやアルフィン、目を丸くするバビエカ、笑みを浮かべるライエカと、真剣な眼差しのローボ、穏やかな表情の十四郎……だが、アウレーリアだけは自身が経験した事の無い複雑な気持ちに揺らいでいた。

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