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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第一章 黎明
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理由

「行くのか?」


 まだ日が昇らない早朝、家を出た十四郎にアミラが声を掛ける。


「まだ、迷っています……」


 十四郎は曖昧に微笑んだ。


「お前、もう帰って来ないつもりか?」


 アミラは真剣な目で十四郎を見た。その言葉は、十四郎の胸を浅い角度から抉る。


「もう、心配を掛けたくはないのです」


「黙って行くと、メグが悲しむ。メグの兄もそうだった、あの子の傷は今も癒されてない。平気そうにしてるが、ケイトだって同じだ」


 俯いたまま、アミラは声を震わせた。メグの笑顔が浮かぶ、その奥には悲しみを隠していたんだと思うと、切なさが込み上げる。何も言えない十四郎に溜息の後、アミラが続けた。


「一つ聞いていいか? 何故お前が行かなきゃならない? 何の関係がある?」


 暫く考えた十四郎は、少し笑顔を見せた。


「確かに二人も母親も助けたいですけど、森に行けば沢山の薬草があります。多くの人々を助けられるかもしれません」


「それが理由か?……全く、他人の為に命を投げ出し、恩返しの為に全てを投げ出して戦う……お前はどうしてそこまでする?」


 アミラは十四郎を見据える。


「どうして、ですかね?」


 逆に聞く十四郎の顔には何の一片の曇りも無く、何だが自分の方が汚れている様に感じたアミラは苦笑いする。諦めにも似た、なんだか清々しい気分がアミラを包むと言葉は素直に出た。


「……行って思い通りにすればいい。だがな、必ず帰って来い。メグとケイトを悲しませたくなかったらな」


「分かりました。必ず戻って来ます」


 顔を上げた十四郎は、はっきりとした口調でアミラに言う。尻尾をピンと立てたアミラは、大きく背伸びした。


「ああ、それと、アルフィンを連れて行け」


「とても危険は場所なんです」


「だからだよ」


 少し強い視線でアミラは十四郎を見た。


「私も行きます」


 話が聞こえたのか、小屋から出てきたアルフィンは穏やかな声で言った。


 気持ちは嬉しいが、十四郎は首を横に振る。


「歩いて行くつもりか? 往復するだけで一週間は掛かるぜ」


アミラは更に強い視線を送る。


「しかし……」


 ガリレウスやマルコスの言葉が十四郎の中に蘇る、想像を超えた危険が待っていると。


「私は十四郎の馬ですから」


 アルフィンの目と声に迷いは無い、十四郎は笑顔で頷くと鞍の用意を始めた。


「十四郎、バスマット敷かないで下さいね」


 用意する十四郎に、アルフィンも笑顔で言った。


______________________



 マルコスの小屋では双子が待っていた。その瞳には生気が無く、十四郎を見ても表情一つ変えなかった。


「お二人に、お願いがあります」


 ココは十四郎の言葉に耳を傾けるが、リルは遠くを見ていた。


「今回は、人も動物も殺さないで下さい」


「無理だ」


 直ぐにマルコスが否定するが、十四郎はお構い無しに続けた。


「出来ますね」


 ココを見詰めた十四郎は、少し強く言う。


「分からない」


 真っ直ぐ見つめ返し、ココは小さな声で言った。


「腕や脚を狙って下さい、それなら出来ますね」


 少し表情を崩し、十四郎はココを見る。相変わらずリルは遠くを見ているが、視線を外すとこちらを見ている気がした。


「多分」


 ココの表情がほんの少し変わった。


「生かすのは、殺す事より何倍も難しいのです。それが出来れば、あなた方はマルコス殿を超えられるでしょう」


 十四郎は諭す様に、願う様に言葉を紡ぐ。ココはまた表情に変化が出るが、リルは十四郎の言葉に対しても反応を見せず、時々少しだが首を傾げた。


「二人を頼む」


 急にマルコスが頭を下げる、その姿は十四郎の胸に届く。笑顔で頷いた十四郎を見て、マルコスの中に芽生えたモノがあった。それは、とても小さくて、ボンやりしてはいるが、きっと……希望に近いモノかもしれない。


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