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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
299/347

そこから先に

「モネコストロの魔法使い……全く動きが読めんな……」


 玉座に頬杖を付き、エイブラハムは不機嫌そうに言った。魔法使いに関する数々の報告は到底予測は不可能で、その先行きは混沌としていた。


「陛下、我がエスペリアムは、このまま中立を維持出来ますでしょうか?」


 穏やかな微笑みを浮かべたまま、大司教フェリペはエイブラハムを見た。


「パルノーバが落ちた今なら、イタストロア侵攻は容易かと……」


 その横で騎士長のアレックスは、鋭い視線を向けた。


「確かにイタストロアはアルマンニに従い、フランクルとモネコストロに進行中だ……隙はあるかもしれん」


 頬杖を付いたまま、エイブラハムは静かに呟いた。


「我が国の存続する為には、中立しかありません。侵攻で得る領土と引き換えに、多くの民を失うのです」


 静かな表情で、フェリペはアレックスを見た。


「しかし、フェリペ様……」


「侵攻と中立……か……」


 アレックスの言葉を遮り、エイブラハムは目を閉じて呟いた。


「狐の知恵と獅子の勇気。そして、貝の辛抱……我が国は今まで耐え忍んで参りました……存続する事が如何に難しく厳しい道のりではありますが……」


 俯いたフェリペは、小刻みに震えた。その姿はアレックスの次の言葉を奪い、エイブラハムの意思を揺らせた。


「……もう少し、様子を見る」


 エイブラハムは立ち上がると、背中で呟き玉座を後にした。


__________________



「七子様……」


 報告しようとするドライを制し、七子は薄笑みを浮かべた。


「このままフランクルに全力を向ける……」


「お言葉ですが、寝返った諸侯は半分を越えた程度で、王もまだ健在です。魔法使いの築城も進行が気になります」


 気持ちには焦りがあるが、ドライは無表情で言った。


「一気にフランクルを落とせば、迷う者など直ぐに寝返る……十四郎が動かない今こそが好機なのだ」


 笑みを浮かべたまま、七子はドライを見た。


「魔法使いの城を魔物が攻めている模様です」


「魔物だと?」


 ドライは真っ先に報告したかった内容を、やっと言えた。七子は”魔物”と言う言葉を聞いても笑みを崩さなかった。


「アウレーリアが奪った魔剣を取り戻す為に……」


「そうか……」


 七子は一言だけ言って、背中を向けた。


「如何致しますか?」


「何もしなくていい……ミランダ砦の包囲を徹底させろ……但し、手は出すな」


「御意……」


 頭を下げるドライは、口角を上げた。


______________________



「そう言う事だ」


 状況を説明したルーは、不機嫌そうに言った。だが、事と次第を聞かされたロメオ達は、平然としていて笑みさえ浮かべていた。


「何故笑う?」


「いえ、十四郎殿らしいと……」


 睨むルーにロメオは更に微笑み、他の者達も笑みを浮かべていた。


「十四郎は、お前達のっ!……」


 叫ぼうとしたルーも、何故が途中で脱力感に包まれた。脳裏には十四郎の笑顔が浮かんで、白い雲の隙間に消えた。


「あなたの状況報告の仕事は終わりですね」


「いいのか?」


 ロメオは笑顔のまま言った。一瞬、目を見開いたルーは一応聞き返した。


「はい。此処は大丈夫です」


 ロメオの言葉と同時に、ルーは駆け出した。その先思考の先には、十四郎やビアンカが居た……。


_________________



 アウレーリアはバビエカをアルフィンに寄せる。直ぐにビアンカはシルフィーに言って、反対側に寄せた。三頭は肩を並べて進み、真ん中のアルフィンは困惑した。


「何か歩きにくいなぁ……」


 首を捻って十四郎を見るアルフィンに、十四郎は苦笑いした。


「全く緊迫感が無いね」


「知るか……」


 ライエカは溜息交じりに言うが、ローボはフンっと鼻を鳴らした。


「聖剣は、そう簡単に手に入らないんだけど……」


「だから、知るか……」


 更に溜息を付くライエカの横で、ローボも溜息を付いた。


「ライエカ殿……その、遠いのでしょうか?」


 困った顔の十四郎が聞くが、ライエカは十四郎の困った顔に噴き出してしまった。


「遠いに決まってるじゃない」


 わざと意地悪そうにライエカが言うと、十四郎の顔から血の気が引いた。


「どの、くらいですか?」


 十四郎の声は微かに震えていた。


「それは望む者次第」


「えっ?」


 ライエカはニヤリと笑い、十四郎はポカンとした顔でローボを見た。


「言葉通りだ……望むのか?」


「……はい」


 一瞬の間を空け、十四郎はしっかりした口調で言った。


「望む……」


 アウレーリアは蕾の様な口元から言葉を漏らし、上目遣いに十四郎を見た。


「私も望みます!」


 金色に輝く髪を振り乱し、ビアンカは叫んで十四郎を見た。


「……そう……それなら……」


 ライエカが向く方向に、突然険しい山脈が現れる。それはとても不思議な光景だった……麓は春の様に花々が咲き乱れ、頂きには雪の冠を抱いていた。


「ほら、着いたぞ」


 振り向いたローボは、牙を光らせた。


「さあ、行きましょう」


 十四郎が合図すると、アルフィンが駆け出す。勿論、シルフィーもバビエカも直ぐに後を追う。


「さて、どうなるか」


 ローボの肩にとまったライエカが呟くと、ローボは十四郎の背中を見詰めて力強く言った。


「十四郎は成し遂げる」


 そして、全力で十四郎達を追った。



 第四章 完


第五章をお楽しみに! 更に十四郎達の冒険は続きます。

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