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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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信じること

 右手だけだが、十四郎の打ち込みは強烈だった。受け流せすと、今度は下方から左手の一撃!が襲い掛かった。


 アウレーリアは、今までに経験した事の無い感じで十四郎の刀を受けていた。今まで、剣を振う事は息をするのと同じ感覚で、戦いの中で相手の命を奪う事でさえ全く何も感じなかったから……。


 だが、十四郎の刀を受ける度に受ける腕の衝撃より、胸の痛みの方が強かった。そして、十四郎と戦う為に手に入れたはずの剣が、不快で堪らなかった。


 自問しても答えはなく、近くで見る十四郎の顔だけが霞んで見えた。そして、バビエカの言葉が何度も耳の奥で木霊する……”信じるんだ”。


 ”信じる”……言葉の意味は分かってもアウレーリアには未知の感覚であり、混乱するばかりだった。それは、動きにダイレクトに伝わって、アウレーリアの戦いを知るバビエカには目を疑う光景だった。


「何してる! それがお前の答えかっ!!」


「答え……分からない……」


 十四郎の刀を力無く受けながら、アウレーリアは呟いた。


「信じるって事はなっ! 思い切りやればいいんだよっ!!」


「えっ……」


 バビエカの叫びは、アウレーリアの中に燻る霧を晴れさせた。


「動きが良くなった……凄いねバビエカ」


「そんな事はないが……」


 アルフィンに褒められて、バビエカは赤くなった。


「よく知ってるのね、アウレーリアの事」


「知ってる訳じゃない」


 シルフィーの優しい言葉に、バビエカは更に赤面した。


____________



 アウレーリアのの様子を見て、微笑んだ十四郎は改めて刀を構えた。そして、今度は二刀を最上段に構え左足を少し引いた。


 アウレーリアも剣を両手で持つと、大きく上段に構える。見ている者全てが息を飲む、しかし、向かい合う二人はとても穏やかに見えた。だが、ビアンカだけは強烈な胸の痛みと戦っていた。


「今は耐えろ……十四郎は誰でも分け隔てなく救うんだ」


「そんなの……分かってる」


 ルーの言葉を背中で受けたビアンカの顔は、今にも泣きそうだった。だが、その顔は次の瞬間、驚きに変わった。


 一瞬、動いたかの様に見えた十四郎とアウレーリアの位置が猛烈な閃光の後、瞬間に入れ替わっていたのだった……しかも轟音が、一瞬後から周囲に響き渡った。


「見えたか?」


「見えるわけないでしょ」


 口元を緩めるローボの問いに、ライエカは呆れた様に言った。


「一撃であれだ」


「確かに十四郎の剣は、持ちそうにないかも……」


 ローボは明らかに刃こぼれする十四郎の二本の刀を見て呟き、ライエカは急に真剣な顔になった。


「大丈夫、十四郎は斬るから」


 二人が振り向くと、そこには泣きそうなままだが、強く十四郎を見詰めるビアンカの姿があった。そして、十四郎とアウレーリアは数度、互いに打ち込み合った。周囲には轟音と閃光の余波が漂う。


 十四郎の穏やかな表情が消えた。その瞬間! 更に激しい閃光と轟音が空を突き抜けた。


「……ふぅ」


 十四郎は両手の刀を見る。すると、二つの刀は真っ二つになって地面に落ちた。


「ダメだったか……」


 ローボが呟くと同時に、アウレーリアの剣も真っ二つになった。そして、アウレーリアの離れなかった右手から、そっと離れて地面に落ちた。


「そんな……まさか……」


 紅の獣王は、目を見開いて呟いた。


「あれが、十四郎だ」


 ルーは紅の獣王を見据え、凛として言った。そして、紅の獣王はただ茫然と立ち竦んで動かなかった。


________________



「結局、三本とも折れちゃたね」


「ビアンカとアウレーリアの剣はなんとかなるが、十四郎の剣は普通と違うからな……おい、傷を見せてみろ」


 溜息を付くライエカにローボは意味ありげに言うと、アウレーリアを呼んだ。肩口からの傷は深くなく、ローボは光で手当てした。


「お前でも血が出るんだな」


「……」


 ローボの言葉にアウレーリアは答えず、十四郎の方ばかり見ていた。


「さて……」


 ライエカは更に大きな溜息を付くと、十四郎の肩に飛んだ。


「十四郎。この世界の剣は使いにくい?」


「えっ、まあ……この形に慣れてますから……それに、リズ殿が苦労して手に入れてくれましたし」


 十四郎は折れた両手の刀を見ながら、少し寂しそうに言った。


「直せるかもしれない……しかも、更に強く出来る」


「それは、ライエカ殿……」


 俯く十四郎の顔が急に深刻になった。


「勘違いしないで。ある場所に聖剣があるの、そこに行けば……」


「また行くのか? 城の修復も途中だぞ」


 ライエカの言葉を遮り、ローボが溜息を付いた。


「じゃ、これから先はずっと素手で戦うの? 十四郎はこの世界の剣じゃ十分戦えないのよ!」


 ローボに向かって、ライエカは真っ赤になった。


「まあ、お二人とも」


 苦笑いの十四郎が間に入った。


「十四郎……行って」


 ビアンカが最初に促すが、アウレーリアも小さな声で言った。


「行って……」


「しかしですね」


 困惑する十四郎だったが、ライエカは声を正した。


「あなたには皆を守る義務がある。素手では誰も守れない……」


 ライエカは十四郎を見据えた後、ビアンカとアウレーリアに視線を移した。


「お二人さん、十四郎を守る為の聖剣が欲しい?。でも、それには”選ばれる”必要はあるけどね」


「行く」


「私も行きます!」


 一瞬早くアウレーリアが言うと、ビアンカも直ぐに声を上げた。


「もう勝手にしろ……で、お前はどうなんだ?」


 呆れた様にローボは言うが、直ぐに十四郎を見据えた。


「ありますよね……義務」


 十四郎は穏やかに笑った。


「父上、私もビアンカの護衛に……」


「私が行く。お前には留守にする城の警護を任せる」


 ルーが言い掛けた時、ローボは間髪入れずに行った。


「あなたも、行きたいんじゃない」


 そんなローボを見て、ライエカは嬉しそうに笑った。ルーはダラリと耳を下げ、大きく溜息をついた。


「で、あいつどうするの?」


 まだ、立ち竦んでいる紅の獣王を見て、ライエカが聞いた。


「フン、ほっとけ」


 ローボは意味ありげに口角を上げた。



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