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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
297/347

不利

 十四郎はアウレーリアと正対すると、左足を前に出し、刀を持った右手を耳の辺りまで上げて、左手を軽く添えるという八相に似た構えを取った。そして、更に刀を高く構えると一気に斬りかかった。


 その斬撃は凄まじく、刀の刃を体の外側に向けて置き、捻り気味に打ち下ろす。腕の力と体の捻り、そして体重の乗った一撃は受け流そうとしたアウレーリアの魔剣を轟音と猛烈な火花で弾き飛ばした。


 しかし、十四郎は瞬時に後退すると刀を高く構えた。


「何だ? 今の一撃は……」


「まるで斧で大木を斬ってるみたい……」


 目を見張るローボだったが、ライエカも驚きの声を上げた。


「あれなら魔剣を斬れるのですか父親?」


 強い視線でルーは聞くが、ローボは十四郎の刀を見た。


「見ろ……あれでは十四郎の剣が先に……」


 高く構える十四郎の刀には、数か所の刃こぼれがあった。だが、一番驚いているのはビアンカだった。紅の獣王を圧倒していながら、ビアンカは動きを止めた。


「ビアンカ! 何をしている! 前を見ろ!」


 慌ててルーが叫ぶが、ビアンカは微動だにしなかった。


「まさかな……」


 ローボが呟いた瞬間! ビアンカは自分の刀を十四郎に投げた。受け取った十四郎は、溜息を付きながら、ビアンカを見た。


「ビアンカ殿……」


「使って」


 そう言うと、ビアンカは紅の獣王に向き直った。


「素手だと?……」


 苦痛に顔を歪める紅の獣王は、怒りに体を震わせた。


「十四郎、使え……」


 ローボはそう言うと、ビアンカの方に行こうとするが、ルーが先に飛び出してビアンカの足元に行った。口元緩めたローボは、小さく溜息をついた。


「いいの?」


「ああ……」


 ライエカの問いにローボはキラリと、牙を見せた。


____________________



「ルー……」


 泣きそうな顔のビアンカがルーを見下ろすと、ルーは穏やかに言った。


「お前は十四郎と同じだな……無茶苦茶だ……」


「何故だ? 何故人などに味方する?」


 物凄い形相で紅の獣王がルーを睨んだ。ルーはビアンカに向けた穏やかな表情から、一転牙を剥いて紅の獣王を睨み付けた。


「魔物如きに話す理由はない」


 ビアンカの前に庇う様に立ちはだかり、ルーは低く構える。


「お前がワタシに敵うとでも?」


 ビアンカから受けたダメージは抜けないが、紅の獣王は爪を伸ばして身構えた。その瞬間にルーは突進しすると、すれ違い様に一撃を加えた。当然、紅の獣王は爪で応戦するが身を翻して避けるルーには届かなかった。


 肩口から血飛沫が舞う! 間髪入れずにルーは急旋回すると次の攻撃に入った。今度は膝の辺りから血が飛び散ると、紅の獣王は片膝を付いた。


「中々速いね」


「フン、ビアンカが弱らせたからだ」


 笑みを浮かべるライエカだったが、ぶっきらぼうにローボは呟いた。


「そう? 若い時のあなたみたい……」


「……」


 ローボは黙ったまま、ルーから視線を逸らせた。


「お前などに……」


 怒りの言葉を絞り出し、紅の獣王は物凄い形相でルーを睨み付ける。そんな事などお構いなしに、ルーは攻撃を繰り返す。最早、紅の獣王は防戦一方であり、次第に抵抗は少なくなって行った。


 次第にルーは攻撃のテンポを上げて行った。前後左右からの研ぎ澄まされた攻撃に、紅の獣王は両膝を付いて顔を俯かせた。


 一旦距離を取ったルーは、前足を縮めると後ろ足で思い切り地面を蹴った。最後の一撃は紅の獣王の喉笛を目掛けていた。だが、その瞬間にビアンカの叫びがルーの動きを止めた。


「止めてルー!!」


「何故だ? もうコイツは終わりなんだぞ」


「お願い……」


 泣きそうなビアンカの顔を見ると、ルーの闘気は一気に冷めた。


「……何故……止めた……」


 顔を上げた紅の獣王は、ビアンカを睨み付けた。


「……十四郎が悲しむから……」


 そう言うと、ビアンカは悲しそうな顔のまま十四郎の背中に視線を移した。


_______________



 ビアンカの刀を腰に差すと、十四郎は自分の刀を右手に持ち、ビアンカの刀を左手に持って構えた。


『どうする? お前の剣は刃がこぼれ、ビアンカの剣で魔剣に対抗は無理だぞ』


「その様ですね」


 脳裏に届くローボの言葉を、十四郎は素直に認めた。だが、構える十四郎の背中には悲壮感など微塵も無かった。


「ビアンカの剣は、相手の命を奪わない様にしただけよ。十四郎はどうする気なの?」


「知るか」


 ライエカは首を捻るが、ローボは何故か嬉しそうだった。


「何笑ってるのよ?」


「あいつは何かやる気だ。まあ、見てろ」


 羽根をバタバタさせるライエカを尻目に、ローボは牙を光らせた。


「アウレーリア殿、行きます……」


 十四郎は右手の刀を頭より高く構え、左手の刀を中段に構える。アウレーリアは戸惑いを隠せず、暴れる魔剣を押さえようとしていた。


「魔法使いに任せろ! 信じるんだ!!」


「えっ?……」


 怒鳴るバビエカの声に、アウレーリアは困惑した。


「そうだよ! 十四郎が助けてくれるから!」


 アルフィンの言葉が、アウレーリアの胸の中を熱くした。そして、目の前の十四郎の穏やかで優しい微笑み。


「はい……」


 小さく返事したアウレーリアは自然に剣を構える事が出来た。


「……」


 正対して構える十四郎とアウレーリア。十四郎はアウレーリアを助けようとしている……圧倒手に不利な状況の中でも。その十四郎の姿は、ビアンカの胸を穏やかだが強く強く締め付けた。

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