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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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意思

「行きます」


 振り向いたアウレーリアに向かい低い体勢で構えたまま、十四郎は言った。アウレーリアは十四郎の言葉を受けて構えるが、魔物達に見せていた”殺気”は明らかに無かった。


「その剣は魔法使いと戦う為に手に入れたんだろっ!!」


 バビエカは我慢出来ずに叫んだ。だが、アウレーリアの様子には変化は無く、困惑と動揺に包まれているのは明らかだった。


 十四郎はアウレーリアと正対すると、構わず斬りかかった。その太刀筋は、受けたアウレーリアの腕に激しく伝わった。軽い痺れの様な感覚……そこには十四郎の意図が確かに感じられたが、アウレーリアはどう答えていいか分からなかった。


「どうしたっ!? お前が望んでいたことだろっ!」


 更にバビエカが叫ぶが、アウレーリアは反撃せずに後退する。しかし、十四郎は太刀筋を緩める事はなく、超高速で間を詰めた。受け流すアウレーリアの剣が、十四郎の刀を受けると激しい火花を散らした。


「十四郎はダメっ!」


 アウレーリアの叫びが周囲に響き、剣を地面に突き刺した。だが、剣は勝手に地面から抜けると十四郎に襲い掛かろうとする。アウレーリアは、全身に力を込めて、剣を十四郎に向けない様にしていた。


「あの剣は戦いたいみたい……でも、アウレーリアが拒んでいる」


「全く、何の為に苦労して……だが、どうして?……」


 呟くアルフィンの声が遠くに聞こえ、バビエカの脳裏に剣を手に入れた時のアウレーリアの姿が蘇った。そこには慈悲や躊躇いなど全く存在しないアウレーリアの姿があった。


「多分……必死だった……少しでも、十四郎の傍にいたくて……」


「そう、なのか?……」


 アルフィンの言葉が胸に響くと、バビエカは力無く呟いた。


_________________



 アウレーリアの叫びは、ビアンカの胸に突き刺さる。その痛みは、どんな痛みより鋭くビアンカに傷を残した。


「お前達……」


 同時に違う意味で紅の獣王の胸も貫き、自分を置き去りにした行為に怒りで体を震わせた。そして、爪を最大に伸ばした瞬間! ビアンカに襲い掛かった。


 悲しそうな瞳のビアンカが、瞬時にその鋭い爪を火花を散らして受け止める。その力は、紅の獣王を体ごと後方に吹き飛ばした。


「人の分際で!」


 紅の獣王が叫んだ瞬間! ビアンカの刀が右肩に食い込んだ。激痛は更なる怒りを増幅させ、ビアンカの顔を目掛け爪を横薙ぎするが、ビアンカは更に間合いを詰めると左肩を打ち抜いた。


「くっ……」


 両腕の力が根こそぎ抜ける! 歯を食いしばりビアンカを睨む。だが、今度は脇腹に一閃! 咄嗟に後退して避けようとするが、刀の切っ先が脇腹を捉えた。


 体の自由が霧の様に抜け片膝を地面に付けるが、紅の獣王は激しい視線を逸らさなかった。


「ビアンカ……今は耐えて……」


「耐える? 何をだ?」


 傍に来たシルフィーが呟くと、バビエカは強い視線を向けた。


「とても辛いこと……」


「分からん。いったい何なんだ?」


「見て……ビアンカの顔」


 シルフィーは悲しそうに、ビアンカを見た。そこには、今にも泣きそうなビアンカがいた。


_________________



「相手の力を利用し、相乗効果を狙う……それしか方法はない……けど、相手があれじゃ無理かもね」


 ライエカは、消極的なアウレーリアの戦いに溜息を付いた。


「アウレーリアが渾身の力でくれば、十四郎も最大の力でぶつかる……それで、あの魔剣は折れるのか?」


 二人から視線を外さないまま、ローボが呟いた。


「多分ね……でも……このままじゃ、アウレーリアの意志とは関係なく魔剣は……十四郎を……」


 ライエカは決心した様に、静かに言った。


「父上! 私が気を逸らせます! その隙にっ!」


 叫んだルーが飛び出そうとした瞬間、ローボが行く手を阻んだ。


「心配ない」


 静かな声は、ルーの興奮を瞬時に沈めた。


「しかし……」


「そうよ、心配ない……」


 今度はライエカが飛び立とうとするが、ローボは穏やかに制した。


「それは、十四郎が望まないだろう」


「望む、望まないじゃない……分かるでしょ? 十四郎を失っていいの?」


 俯くライエカを見たローボは、背筋を伸ばした。


「あいつは、そんな事は考えていない」


「なら、何を考えてるの?」


 ローボの言葉に、ライエカは首を捻った。


「あいつは、他人の力など当てにしてはいない」


「前にも言ったでしょ。十四郎の剣と魔剣では力の差があり過ぎる……幾ら頑張っても、出来ない事は出来ない」


 薄笑みを浮かべたローボを、ライエカは目を逸らしながら視線の隅で見た。


「なら、見て見ろ……あいつは誰にも頼らず、自分の力だけで戦っている」


「しかし、父上……」


 それでも食い下がるルーに、ローボは呟く……ライエカを見詰めながら。


「もう少し……あいつの好きにさせてやろうじゃないか」


「……分かった……でも、その時がきたら……止めないでね」


「ああ……」


 ライエカの言葉に、ローボは小さく頷いた。


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