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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第四章 発展
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双璧

「さて、そろそろ終わりに……」


 紅の獣王は言いかけた時、気配を察知した。その気配は信じられない速度で近付いていた。


「何て速さだ……」


 驚きを口にした瞬間、紅の獣王は目を疑った。確かに切り裂いたはずの十四郎が、視界に飛び込んで来たからだった。


「魔法使い!」


「アウレーリア殿は大丈夫ですか?!」


 叫ぶバビエカに、十四郎が叫び返した。


「大丈夫だ! お前こそ、大丈夫なのか?!」


「はい」


 バビエカの問いに、十四郎は笑顔で答えた。


「なるほど、天馬か……噂通りだな」


 紅の獣王の耳にもアルフィンの名は届いており、気配の訳を知って口元を綻ばせた。そして、瞬間に移動して、バビエカを遠くに突き飛ばし、アウレーリアの喉元に鋭い爪を当てた。


「この女を引き裂く……剣を捨てろ」


「アウレーリア! 何をしてる?!」


 突き飛ばされたバビエカは、起き上がるとアウレーリアに叫ぶが、アウレーリアは力無く十四郎を見ているだけだった。


 十四郎は言われる通り、腰から刀を外すと地面に投げた。


「お前! 気は確かかっ!?」


「大丈夫だよ、十四郎は剣なんてなくても強いから」


 驚き叫ぶバビエカを助け起こしながら、アルフィンは優しく言った。


「さっきは手も足も出ずに……」


「十四郎は過去を引きずっているの……でもね、ちゃんと分かってる……今、何が一番大切なのかを……」


「でもな、他人を守るなら、まずは自分を守らなければ何もならないんじゃないか?」


 十四郎の行動に、バビエカは疑問を投げた。


「そう……なんだけど……十四郎は貫くと思う……」


 アルフィンは声を落とした。そして、バビエカやアルフィンの心配を他所に、十四郎はゆっくりと紅の獣王に近付いて行った。


「ほう、剣も持たずにどうするつもりだ?」


「アウレーリア殿を放して下さい」


 薄笑みを浮かべる紅の獣王に、十四郎は静かに言った。


「いいだろう」


 紅の獣王はアウレーリアを突き放すと、十四郎に突進した。


「えっ?」


 鋭い爪が十四郎を引き裂こうとした瞬間、紅の獣王の体は地面に叩き付けられた。背中の衝撃で、一瞬息が止まる。天地がひっくり返る瞬間の視界が、紅の獣王を混乱させた。


「何だ今の?」


「さあ、分からないけど、十四郎は変わった技を使うの」


 驚くバビエカだったが、アルフィンも首を捻った。


「もう一度やってみろ!」


 叫んで起き上がった紅の獣王は、また十四郎に突進した。今度は十四郎の動きを見逃さない様に、目で動きを追う。だが、十四郎目掛けて伸ばした腕を、十四郎は最小限の動きで躱すと、伸ばした腕を取り、肩に担いで投げた。


 今度は予測していたので、地面に叩き付けられる衝撃を受けながらも爪で十四郎を引き裂こうと紅の獣王は反対側の腕を伸ばした。


 だが、十四郎はその手首を掴むと反対側に捻った。激痛が紅の獣王の全身を駆け抜け、次の瞬間には腕ひしぎ逆十字が完全に決まっていた。


 しかし、人とは違う紅の獣王の余った腕には鋭い爪がある。力を振り絞り、十四郎に爪の一撃を加えようと振りかざすが、十四郎は素早く身を翻すと距離を取った。


「お前は何者だ?……」


 片腕を押さえ、何とか立ち上がった紅の獣王は十四郎を睨み付けた。


「よく聞かれますが、ただの侍ですよ」


 十四郎は表情を変えずに言った。


「サムライだと?」


 紅の獣王は呟きながら、手下の魔物に目で合図する。数えきれない魔物達が、丸腰の十四郎に襲い掛かろうとした瞬間、白い何かが十四郎の前を横切った。


___________________



「何者だ?」


 白馬に乗った女騎士に、紅の獣王は鋭い視線を向けた。ゆっくりとシルフィーから降りたビアンカは、刀に手を掛けながら強く言った。その光り輝く威厳は、十四郎に襲い掛かろうとしていた魔物達を金縛りにした。


「モネコストロ近衛騎士団、ビアンカ・マリア・スフォルッア」


「ビアンカ殿……」


 一番驚いたのは十四郎で、唖然と呟いた。そして、十四郎の肩にライエカが舞い降りた。


「あなたを心配して来たのよ」


「ライエカ殿まで……」


 十四郎は溜息を付くが、その視線の先にアウレーリアが立ち上がるのが見えた。


「何しに来たの?」


 立ち上がったアウレーリアは、ビアンカだけを見据えた。ビアンカもその鋭い視線を跳ね返すように、強い視線で答えるがアウレーリアの肩から流れる血に戸惑いを隠せなかった。


「十四郎を守る為に……あなた血が……」


 だが、その言葉が出た瞬間にアウレーリアは瞬間移動でビアンカに迫った。地面に落ちていた魔剣は、自らが飛ぶとアウレーリアの手に握られる。


 ビアンカも瞬間抜刀で、アウレーリアの魔剣を受け止めた。物凄い金属音と、飛び散る火花が、周囲で固まっていた魔物達を解き放った。数十の魔物が、アウレーリアの背後から襲い掛かるが、横薙ぎ一閃で薙ぎ払った。


「邪魔……」


 アウレーリアはビアンカだけを見据え、小さく呟いた。ビアンカにも魔物が迫るが、流れる様な刀さばきで一瞬で殲滅する。


「そうね……邪魔ね……それに傷も大丈夫みたいね」


 ビアンカもアウレーリアから視線を外さず、強く言った。確かに血は出ているが、そんな心配はアウレーリアの最初の一撃で吹き飛んだ。


「何だ、あいつ元に戻った……」


 驚くバビエカの所に、シルフィーがやった来た。


「ビアンカの事、嫌いみたいなの……アウレーリア」


「そうね、シルフィーの言う通り。二人とも気が合わないのよね」


 アルフィンは普通に言うが、バビエカは更に驚きの声を上げる。それは、ビアンカの美しさと強さにだった。


「あいつと互角に戦えるのか? 普通の人間だろ?」


 ビアンカとアウレーリアは互いの剣と交えながら、同時に周囲の魔物達を駆逐していたのだった。


「でもアウレーリア、元気になってよかったね。なんか、危なかったから」


「はっ? 危ないだと? あいつを誰だと思ってる?」


 アルフィンの嬉しそうな言葉に、バビエカは鼻息も荒く言った。


「どうなってる?……」


 紅の獣王も、信じられないと言う表情で呟いた。


_______________



「あ~あ、どうするのよ?」


「どうすると言われましても……」


 ライエカは呆れた様に言うが、十四郎も苦笑いするしかなかった。ビアンカとアウレーリアは完全に周囲を忘れ、戦っていた。


 数えきれない周囲の魔物も今の二人には眼中になく、紅の獣王でさえ関係なかった。置き去りにされた紅の獣王だったが、二人の迫力の前に動けなかった。


 二人の戦いはそれ程に尋常ではなく、速さを超え美しさにまで昇華した剣捌きに紅の獣王は声すら出なかった。


「でも、ビアンカ……強くなった。あの、アウレーリアと互角だよ」


「そうですね。動きに無駄が無いです」


 感心するライエカを見て、十四郎も頷いた。


「第一、あの魔剣を普通の剣で受けてる……確かに魔法は掛けたけど、相手の命を奪わない為の魔法なのに……」


 首を捻るライエカに、十四郎は少し笑った。


「ビアンカ殿はアウレーリア殿を傷つけようとはしてませんよ……アウレーリア殿にも、殺気は感じません」


「確かにそうだけど……でも、あの戦いぶりは何なの?」


「そうですね…何か普通にケンカしてるようですね」


 呆れる様なライエカに、十四郎は笑顔で言った。


「誰のせいなのかしらね?」


「えっ? 誰かのせいなんですか?」


「はぁ~」


 驚くように言う十四郎の肩で、ライエカは大きな溜息をついた。


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